【side story】春告げ鳥が哭いた日【完結済】

「あっはは、可笑しいなぁ……!」

ベッドの上に寝転がりながらあたしは声を上げて笑う。
どうしてこうなってしまったのだろうか?
あたしは今しがた、東雲冬彦と寝た。そういうことをした。
仕事相手に手を出すなんて、いや、これは手を出されたと言うべきかな?
あの一言があたしと冬彦くんを狂わせた。
冬彦くんは想定していた通り童貞くんで、それを美味しくもないのに頂いてしまった。
しかもなんの事前準備もないという状態だ。
グッタリと眠っている冬彦くんには悪いが、こんな未来は望んでいなかった。
あたしに未来の中には、冬彦くんの存在は入っていなかった筈なのに。

「あーあ、」

零れた声は思いの外、冷たくて。
あたしは横で眠る冬彦くんを一瞥すると、生まれたままの姿で立ち上がった。

「――ボス」

そのまま電話をかけた先は敬愛する上司。

『案外早かったわねぇ』

その上司は電話がかかってくるのが分かっていたかのようにワンコールで電話口に出た。

「ボス。申し訳ありません」

『何を謝っているのかしら?』

「対象者と身体の関係を持つことをアナタは望まれて居なかった。ソレに反してしまいました」

『んふふ。アタシは別に良いと思うけど……そうねぇ?』

ボスは少し考える素振りを見せると、うーん、と間延びしたような声を発しながら何かを思案されているようだ。
その言葉は一瞬だったのかも知れない。
そよ風のように吹いては消えてしまうような蝋燭の灯のように、ボスは小さく、けれどもハッキリと仰られた。

『アナタをそんなに気に病ませてしま悪い子は――』

こうなることは分かっていた。理解していた。
だからあたしはボスに連絡を取ったのだ。


『――殺してしまえばいいのよ』


んふふ、という独特の笑い声が耳につく。
あたしはあたしが許されたいばかりに、冬彦くんに手をかける覚悟を決めたのだ。
そこに後悔があると聞かれたならば、少しだけ。
あの日食べたパンの味が口内に広がったような、そんな程度のこと。
あたしは生まれたままの姿で、心はボスにひれ伏すように「了解しました」と静かに呟いた。
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