【side story】春告げ鳥が哭いた日【完結済】

冬彦くんが至極疲れましたと言わんばかりの様子であたしの部屋にやって来た。

「どーしたのー?」

分かっていて、訊いた。
そんなあたしは狡い大人なのかも知れない。
まあ、馬鹿正直に生きる大人も早々あたしの生きる世界には居ないけれども。

「菜月に、お前の存在がバレたみたいでな。学校で大騒ぎになった」

「ふぅん。そうなんだー。ふふ。どーせ『婚約解消しますわ!』なんて、脅されたんでしょ?」

「良く分かったな……」

「関心しちゃうところが冬彦くんらしいねぇ」

馬鹿と言うか、何と言うか。
呆れたようにあたしは溜め息を吐く。
そうして仕方がないなぁ、と頭を掻いた。

どうせあの日の朝の盗撮犯が絡んでいるのだろう。
どうにかしろとは言われていないけれども、危害を加えろとも言われてはいない。
つまるところ、冬彦くんの現状維持をあたしは目的としているのだ。
あたし、というか。あたしの上司が。

「冬彦くんのことは気に入ってるから、恩を売ってあげる」

「は?」

「何とかしてあげるって言ったんだよー」

「どうしてお前が……」

「冬彦くんと菜月ちゃんの仲が悪くなるのあたし的にもよろしくないのでね」

「……それが、お前の『仕事』とやらか」

「さあ?でも気に入ってるのは本当だよー」

にんまりと口角を上げてあたしは目を細めた。


冬彦くんのことを仕事だから助けるのか。
気に入ってるから助けるのか。


――さて、本当のところはどうだったのかな?
6/17ページ