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過去に縋り付く

明「今日の買い物も済んだし、さっさと帰ろっと。」

砂糖と塩が入った風呂敷包みを抱えて帰路を歩いていたその時だった。

子「ご、ごめんなさい!!」

男「なんだてめえ!いきなりぶつかりやがってよォ…。この割れた酒!!高かったんだぞ!!!!」

子「ひぃっ!!」

ひょろひょろの男が、その"割れた酒"と言って、散らばっているガラスの破片を指差しながら子供に怒鳴り散らしていた。

その男が怖いのか、周りの人達はチラチラと見ながらも、誰一人として助けようとはしなかった。

明(私も助けに行きたいけど…、やっぱり怖いな……。)

なんて考えていると、男が腰に巻いていた紐を解き始めた。

明(何する気なの?)

ビシャンッ!!

男「おいお前ェ……。見たところ貧乏みてえだから、俺が雇ってやる。そのための採用試験として…、これに耐えたら合格だ。」

ビシャンッ!!

明(男が持ってるあれって、鞭?!)

男が鞭を出してきたことによって、周囲の目はそちらに向き始めた。

子「ご、、、、ごめんな、、さ、、、、。」

子供はただ謝ることしかできず、恐怖で声が震えていた。

男「おら、背中向けろ。男なんだから強くいねえとなあ?」

その言葉を聞いた子供は、意を決した様な顔をしたかと思えば、男に背中を向け丸まった。

明(あの子本気?!!!)

男「へへっ。いい子だなあ…。」

そして男は、しばらく黙ったかと思えば、鞭を持つ手を思いっきり振り上げた。

明「ぐッ!!」

明(うわ…痛い……。)

男「ああ?なんだおめえ。」

明「子供相手に武器を…、しかも鞭なんていけません!!」

私は咄嗟に、子供の上から覆い被さり、守るような形で言い放った。

明(怖いはずなのに…。怒りがおさまらない……。)

男「女のくせに口答えすんじゃねぇ!!!」

明「ぐっ、、!!!」

私はなるべく痛みに耐えられるように、声を抑えた。

子「お姉さん!!!」

明「大丈夫だから………。はぁ…。怖かったね……。」

そんな会話を子供していると、男が鞭を当てなくなった。

男「よく見たらおめえ、いい顔してんなァ…。お前にゃあ、もっと違う働き先がお似合いかも知んねえなァ……。ハハハ…。」

そう言ったかと思うと、鞭を振り下ろして私の右腕に巻き付け、引っ張った。

明「い"っ!!!」

男は私の顎を手ですくい、ニヤニヤした目で私の顔をジロジロと見物し始めた。

子「お姉さん!!」

明「逃げな!!!ここに居たら死ぬと思って!!!!!」

子「でもッ、、、!、、、、ごめんなさい!!!!!!」

子供は自分の力じゃどうにもならないことを知ってか、泣きながら逃げていった。

男「姉ちゃんは逃がさねぇぞ、と。」

と、再び男が私の足のつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見始める。

明(気持ち悪い……。)

男「その女性を離せ!」

突然聞こえた声に驚き前を見ると、赤髪の男の人と赤いハチマキをした男の人が立っていた。

男「なんだおめえ。今いいとこなんだよ。」

男「その女性を離せと言っているんだ。」

鋭い目……。パッと見恐ろしささえ感じる…。

男「さっさと離さねえと、痛い目見るぜ?」

すごく余裕そう……。包帯をあちこち巻いているから少し痛々しい…。

そんなことを思っていた私に次の瞬間、誰もが予想出来なかった事態が起こる。

ペロォ…。

明(ゾワッ!!)

そう、男はなんと、私の首元を舐めたのである。この瞬間、私が置かれている立場をようやく理解し、感情が全て恐怖に支配された。

男「へへっ、この女腰抜かしてらァ…。そうだ。お前らが近づくと、この女の服を一枚ずつ脱がすことにするか。ヒャッハハハハ!!」

男「なんだと…。」

男「クソッ…。だったら、脱がす前にお前をぶん殴るだけよ!!!!」

男「ぐひゃぁっ!!」

男「!!」

一人の男がキモ野郎を殴り、もう一人が、私の腕を巻いて離さなかった鞭を切ったことにより、私は座り込む形になった。

男「チッ、、、、!!」

キモ野郎は、一度舌打ちをした後に逃げていった。

男「大丈夫か?嬢ちゃん。」

男「怪我はないでござるか?」

私は咄嗟に、鞭で巻かれていた腕を隠した。

明「だ、、、大丈夫、、、、です、、。助け、、助けてくだ、くださり、、あ、ありがとう、、ございます、、、、。このお礼は、、、またいずれきちんとさせてください、、。」

助かったことの安堵。背中と腕の傷の痛み。恐怖による体の震えにより、上手く喋ることができなかった。

男「良いんだよ。ついさっき聞いたぜ。嬢ちゃん、子供を庇ったらしいじゃねえか。女なのによく頑張ったな。」

明(あ、、。そんな、、優しい言葉をかけられたら、、、、、。やばい、、これダメだ。)

男「ああ。普通の女性であれば、例えあんなひょろひょろな男相手でも、逃げていたでござろう。そしてお主が助けた童は、拙者達が良くさせてもらっている店の子。だから拙者達の方こそお礼が言いたい。助けてくれてありがとう。」

明「そんな、、、大したことは、、、、、。」

明(涙をこらえるのが精一杯だ、、。やばいよこれ、、、、。)

女「ちょっとぉ?!2人とも大丈夫なの?!なんか騒ぎがあったって聞いたけど!!」

明(誰だろう…。この2人のどちらかの恋仲さんかな。)

男「ああ。俺達は大丈夫だ。しかしこの嬢ちゃんが怪我を負ってるもんで、手当してやってくれ。」

明(え。私、怪我はしっかり隠したはずなのに。話を聞く限り、私が鞭で背中を叩かれたことは知らないようだし。)

女「え、嘘!あなた大丈夫?」

明「え、、はい、、、。大丈夫です、、。怪我は無いので、、このまま帰ります、、、、。」

女「ジトーッ」

明「な、、、何か、、、、?」

女「ちょぉっと見せてね!」

そういうと女の人は、私の手を掴んで裾をめくった。

明(あ、やば。)

女「何この傷!!!紐で結ばれたような、、。やだすっごい腫れてるじゃないの!!血も出てるし!!」

男「その傷を、恵殿に見せた方が良いと思うのだが、恵殿は?」

女「恵さんなら、家にいるわよ。」

男「決まりだな。行くぞ。」

そう言ってハチマキの人は歩き出す。

男「少し待つでござる。これを…。」

と、赤髪の人は、懐から手ぬぐいを出して私の腕に結んだ。

明「ありがとうございます、、、。」

男「こうしておくに越したことはないだろう。そのままにしておくと、袖が傷に擦れて痛むだけでござる。」

明(優しいんだな、、。)

女「よし。じゃあ行きましょっか。」

明「あの、行くってどこに?」

女「私の家よ!傷の手当もやっちゃうから、あなたも早く!」

明「え?わっ。」

そう言って手を引かれ、この女性の自宅に向かった。
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