小夏が風呂へ行ったのを確認すると、シルクを筆頭に７人がそっと固まった。
そして、誰からともなく

「……あいつ、綺麗になってんな」

と、小夏の話を始めていた。
小夏自身は気づいていないが、Fischer's７人はそれぞれ、小夏に密かに想いを寄せていた。
東京出発前、７人はお互いの気持ちを確かめていた。

「なんか、中学の時は髪も短かったし口調も荒かったけど……今は、なんだろ……可愛い……」

ンダホの言葉に全員が頷いた。

「俺、近くでみても最初気づかなかった」
「あー、紙渡された時？」
「そそ」

マサイが思い浮かべているのは空港で小夏に電話番号が書かれた紙を渡された時のことだ。
小夏は帽子やメガネといった顔を隠すものは身につけていなかったが、マサイは電話をするまで誰かわからなかったそうだ。

「彼氏……いるのかな」

ンダホが不意に零した言葉に、その場は一瞬で凍りついた。
それは、誰もが心の奥で感じながらも口に出すことなく留めていたからであり、それを口に零したンダホに対して責めるようなものはなかった。

「そーいやあいつ、駅で聞いた時は濁してたな」
「確かにね。シルクが聞いた時ナイス！って思ったんだけど」

シルクの言うことにぺけたんは頷きながら返事をした。

「……いるのかもね、彼氏」

モトキの放った一言で全員が落ち込むまで時間はかからなかった。
お風呂場の方からは小夏の歌声が聞こえる。

「……」
「なに、皆してお通夜みたいな顔してるの」
「うわぁ！？」

突如後ろからかけられた声に、７人は驚いて振り返った。
そこには、大量の缶ビールの乗ったトレーを持った小夏の母親がいた。

「あ……なんかすみません」

小夏の母親はそんな七人を見て楽しそうに笑った。
そして、

「あの子に彼氏なんているわけないじゃない。高校の時が最後よ」

と言った。
聞かれていた恥ずかしさと、いないことによる安心感に７人は思わず息を吐いた。
その直後、誰かが帰ってくる音がした。

「ただいま」
「パパ、おかえりなさい」

小夏の母親はFischer'sの面々が居るにも関わらず、帰宅した小夏の父親の元へ駆け寄って抱きついた。

「こら、お客様が見てるだろう」
「あら、あなたは私に抱きつかれるのは不満ですか？」
「……着替えてくる」
「照れちゃって〜」

こんなふうにじゃれている夫婦をFischer's７人は少しだけ羨ましそうに見ていた。