器用で不器用なロイド
「ご主人様〜! すみません、転んじゃって...」
街中を歩いていたら、赤色のメイドAIがどこかにつまづいてしまったようだった。あちゃー、派手に転んだものだと心配そうに見れば、彼女は申し訳なさそうにこうべを垂れて駆け寄ってきた。
もちろん、僕ではない彼女自身のご主人様に。
「マスター、道は右に曲がったこちらです」
「ああ、ごめんね。やっぱりアンドロイドといえど、転んでいるのをみると心配しちゃうんだよね」
僕が所有、いやパートナーとして雇っているメイドは、この隣にいる女の子である。彼女は髪によく似たファイバーを靡かせ、手元の腕時計から光のモニタを映し出した。
「これにより、当初の到着時間より一分三十四秒遅くなりましたがよろしいでしょうか」
「構わない。どうせ時間に余裕はあるんだから、ゆっくりと歩くとしよう」
「では歩行速度を時速85mに落とします」
感情のピクセルが低めだからか、彼女の言葉には無機質な漢語、システム用語ばかりが並ぶ。思えば先ほどのドジっ子は「ごはん」とか「ハッピー」とかふわふわした言葉が多かったなあ、と回想する。
まあこの世界には多くのアンドロイドがいる。そりゃあ世界は広いのだから、性格のプログラムも様々だろう。だがメイドとして仕えるアンドロイドはさっきのような愛想の良いようにプログラムされたものが多い。逆に感情の機能があまりないアンドロイドは旧型だと言われ散々である。メイドのアンドロイドなら、少しはミスをするように確率調整がされているものだとか、なんでもこなしてしまうのではなく、できないことがあるべきだとか。
「今日の15:30から会議の予定が入っております。お忘れなきように。そして直近の栄養バランス、健康状態から昼食は今向かっている店舗の天麩羅和膳がよろしいかと」
しかしうちのメイドは完璧だ。予定管理から体調管理、そして片手に花を持たせてくれるのだから。
「いやあ、君がいて助かることがいっぱいだな。こんなに可愛い女の子が隣にいてくれるだけでも嬉しいよ」
「......マスター。私のメンテナンスは一年ごとに必要となります。これは現在の最新型と比べ10倍の頻度となります」
一定の速度を保ったまま、彼女は淡々と告げた。やがて歩みを止め「目的地に到着しました」と和食のお店の前に向き直る。
「そんなことわかっているさ。綺麗な石はちゃんと磨かないといけないだろうに」
「ですが、」
「...君は旧型なんかじゃない。ロボット工学の権威である僕が改造したんだから」
彼女が言葉を組み合わせる前に、僕はさらに畳み掛けた。
「君の魅力は僕が一番わかっていればいい。そうだろ?」
にっこり、と笑って見せれば、彼女はそれに返してはくれなかった。そのかわり、ほんのりと赤に染まった顔を見せてくれたが。
「......すみません、まだ内部の熱制御システムにバグが残っていたようです」
熱を放出するため、少々お待ちを。
システムを即座になぞり、頰に手をあてる彼女。しかしその様子は、大きくて朱い、困ったリンゴを両手に抱えた乙女の姿だった。
朱に交われば赤くなる、とは言ったもの。まっ白い下地に朱を垂らす、それこそが雅なのに、最近の時代は追いつけてないようだ。
「もうすぐメンテナンス、いやアップデートの時期だしねえ」
僕は彼女に、特定の分野にだけ、機械学習を取り入れている。きっと完璧な彼女のことだから、すぐに綺麗なピクセルへと変わることができると思う。
そうやって、世界が広がった暁には。きっと君もその感情がなんなのかわかってくると信じているんだ。
「器用で不器用なロイド」
街中を歩いていたら、赤色のメイドAIがどこかにつまづいてしまったようだった。あちゃー、派手に転んだものだと心配そうに見れば、彼女は申し訳なさそうにこうべを垂れて駆け寄ってきた。
もちろん、僕ではない彼女自身のご主人様に。
「マスター、道は右に曲がったこちらです」
「ああ、ごめんね。やっぱりアンドロイドといえど、転んでいるのをみると心配しちゃうんだよね」
僕が所有、いやパートナーとして雇っているメイドは、この隣にいる女の子である。彼女は髪によく似たファイバーを靡かせ、手元の腕時計から光のモニタを映し出した。
「これにより、当初の到着時間より一分三十四秒遅くなりましたがよろしいでしょうか」
「構わない。どうせ時間に余裕はあるんだから、ゆっくりと歩くとしよう」
「では歩行速度を時速85mに落とします」
感情のピクセルが低めだからか、彼女の言葉には無機質な漢語、システム用語ばかりが並ぶ。思えば先ほどのドジっ子は「ごはん」とか「ハッピー」とかふわふわした言葉が多かったなあ、と回想する。
まあこの世界には多くのアンドロイドがいる。そりゃあ世界は広いのだから、性格のプログラムも様々だろう。だがメイドとして仕えるアンドロイドはさっきのような愛想の良いようにプログラムされたものが多い。逆に感情の機能があまりないアンドロイドは旧型だと言われ散々である。メイドのアンドロイドなら、少しはミスをするように確率調整がされているものだとか、なんでもこなしてしまうのではなく、できないことがあるべきだとか。
「今日の15:30から会議の予定が入っております。お忘れなきように。そして直近の栄養バランス、健康状態から昼食は今向かっている店舗の天麩羅和膳がよろしいかと」
しかしうちのメイドは完璧だ。予定管理から体調管理、そして片手に花を持たせてくれるのだから。
「いやあ、君がいて助かることがいっぱいだな。こんなに可愛い女の子が隣にいてくれるだけでも嬉しいよ」
「......マスター。私のメンテナンスは一年ごとに必要となります。これは現在の最新型と比べ10倍の頻度となります」
一定の速度を保ったまま、彼女は淡々と告げた。やがて歩みを止め「目的地に到着しました」と和食のお店の前に向き直る。
「そんなことわかっているさ。綺麗な石はちゃんと磨かないといけないだろうに」
「ですが、」
「...君は旧型なんかじゃない。ロボット工学の権威である僕が改造したんだから」
彼女が言葉を組み合わせる前に、僕はさらに畳み掛けた。
「君の魅力は僕が一番わかっていればいい。そうだろ?」
にっこり、と笑って見せれば、彼女はそれに返してはくれなかった。そのかわり、ほんのりと赤に染まった顔を見せてくれたが。
「......すみません、まだ内部の熱制御システムにバグが残っていたようです」
熱を放出するため、少々お待ちを。
システムを即座になぞり、頰に手をあてる彼女。しかしその様子は、大きくて朱い、困ったリンゴを両手に抱えた乙女の姿だった。
朱に交われば赤くなる、とは言ったもの。まっ白い下地に朱を垂らす、それこそが雅なのに、最近の時代は追いつけてないようだ。
「もうすぐメンテナンス、いやアップデートの時期だしねえ」
僕は彼女に、特定の分野にだけ、機械学習を取り入れている。きっと完璧な彼女のことだから、すぐに綺麗なピクセルへと変わることができると思う。
そうやって、世界が広がった暁には。きっと君もその感情がなんなのかわかってくると信じているんだ。
「器用で不器用なロイド」
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