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それ以外

自分はそこまで重い男ではない、とずっと思っていた。
これまでの人生において「好きです、付き合ってください」と何回か告白されたことがある。しかしながら、あくまで受け身の恋愛をしていた自分に最後までついてきた人はいなかった。

「岳は優しいけど、本当には私のことを見てくれない。もっと重いぐらいの愛情が欲しかったのに」

そんな言葉を言われた日には、自分なりに精一杯愛していたつもりだったから悲しかった。その子へ伸ばした指先が、空虚に風を切る感覚を未だに覚えているのだから、相当ショックが大きかったのだろう。それから自分は、来るもの拒まず、去る者追わずの軽い恋愛観でこの世の中を駆けてきたのだった。
だが、それを本当に恋愛観と言うのだろうか。これまでの自分を振り返ると、まるで恋を知らない淡白な奴だと感じてしまうのだ。

「...まあ、こんな想いばっかり積もらせるのもどうかと思うけどな」

現在午前8時15分、時計の秒針とスマホを目線が行き来して45分が経った。彼女が来るのは午前9時からだが、またあの宇宙一生産性のない青い時間を過ごすと思うとため息が出る。中学生か、俺は。

情けない吐息とため息を吐きまくった喉を潤すため、冷蔵庫を開けた。ちょうど涼しい冷気が自分の肌を撫でて、なんだか冷え性のあの子がふと思い浮かんだ。麦茶を取り出して、キンキンに冷えたそれを喉に流し込めば、暑さが少しだけ和らぐ。しかしまだまだ暑い。

「...アイス買いに行くか」

彼女はフルーツキャンディーのアイスが好きらしく「冷た、きーんってする」などと言いつつ、それを小さい口で頬張るのだ。運良くその情報を知っている俺は、自分の好きなバニラアイスも共に買うため、コンビニへ向かう支度をするのだった。

「...青過ぎるなあ」

カーテンから覗く空は、まさに夏空と言っていいほど晴れ渡っている。
それはもう、お日様の視線を忌避する自分を笑うかのように。

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インターホンの無駄にでかい音が、岳を扉へと振り向かせる。ゆっくりと岳がドアノブを回すと、そこには暑さで顔を赤らめた楓が立っていた。

「あっ、岳さん」
「ああ、楓か。暑かったでしょ、ちょうどアイス買ってあるから、早く入って一緒に食べよ」

アイス、と言う言葉に反応した楓を岳が不思議そうに見つめると、彼女の片手にはコンビニのレジ袋が提げられていた。岳の好きなバニラアイスのパッケージと、彼女の好きなぶどう味のアイスキャンディーも透けて見えた。

「...俺も同じアイス買ってたみたい」
「......そうみたいですね」

明日もまた食べられるじゃん、と男が笑えば、女もつられてそうですね、とはにかんだ。
結局のところ、両者が恋をしてるから、ということに全ては起因するのだ。

「変わる装い、積もる想い」
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