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それ以外

自分は流されない方だ、とずっと勘違いしていた。
学生の頃からそう言う意識が染み付いていたのだろう。当時流行っていたアイドルにはそこまではまらず、ずっとお気に入りのバンドをまるで中毒者みたいにイヤホンから耳に流し入れていたように。期間限定と出された味よりいつものプレーンを選ぶ方だし、悪くいえば冒険をしない臆病者、よく言えば人に流されない、自分の色を大切にする人、なんて言うのだろうか。
しかしその基準で行くと、今私は最高に私らしくないことをしている。
「...本当にこの服でいいのかな」
ルーティーンよりも大分早い5時起きの朝から早2時間経つ。鏡の前で一人忙しないファッションショーをする女は「人に流されない方だ」とぬかしていた私に違いなかった。
「やっぱり岳さんが選んでくれたやつがいいかな...いや! この前似合うって言ってくれた奴がいいのかも」
綺麗にアイロンがけがなされたキュロットとワンピースを自分の身体に重ねては離す。今日はただ彼の家に行くだけ、と頭の中で唱えてはいるが、脳内はその「ただ」に支配されつつあるのが悔しくて悔しくてたまらなかった。余裕綽々な様子で笑う彼が頭に浮かんで、ぶんぶんと首を振ってかき消した。
「......変わっちゃったのかな、私」
両手のハンガーを膝に置き、ため息をつく。恋多き友人の「恋したら、あの人好みになろうって頑張っちゃうんだよね」という吐息交じりの声を聞き流していた自分は、どこに行ってしまったのだろう。
「......アイス、買ってこうかな」
アパートの一室にて、かつて奮発して買ったベッドにもたれかかる。その時も考えてしまうのは彼のことだ。
夏の暑さと彼への想いは増すばかり。熱っぽいそれらを和らげる、ひんやりとしたものが欲しいのだ。
「あの人の好きなアイス、確かあれだったよな」
結局自分本位になりきれない私は、きっと彼のせいで変わってしまったのだろう。
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