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それ以外

私はタバコが嫌いだ。
あの喉にへばりつくような匂い。視界にもやをかける大量の煙。そして極め付けに、依存性があるということ。どれも良いものとは言えない。

昔、大学生の頃だったか。友人に二十歳を越えたのだからと勧められ、私も好奇心からその箱を取ってしまったことがある。言われるがままにタバコを咥え、一息だけ吸い込んだ。すると煙と同時に葉までも吸い込んでしまい、ひどい思いをしたものだ。

だが、人とは忘れっぽく、学ばない生物。また吸ってみたい、とまで思うようになってきていた。
それもこれも、今の彼に依るものだろうと私は自覚している。彼は私に気を使ってあまり吸わなくなったが、喫煙者であった。
抱きついた際、微かに匂うニコチンの香り。ベランダのガラス越しに映る、タールの煙をくゆらせた横顔。慣れた手つきで煙草を取り出し、火をつける時の伏した目。何故か、今の私にはそれらが魅力的に見えていた。

「ごめんごめん、今終わったとこ」

ガラガラと硝子戸をスライドさせ、いとしの彼が帰ってくる。ニコチンがふわりと香水のように鼻腔へ漂う。

「煙草って、美味しいの? 私も吸ってみたい」

また好奇心が顔を覗かせ、それに従うように私の身体も乗り出した。じいっと彼を見つめれば、彼は困ったように目を伏せた。

「駄目だよ、身体に悪いし」

「でも、なんか気になるじゃん。どんな味かって」

「...そう。じゃあ、」

彼もまた身を乗り出し、間髪入れずに口付けた。優しく壊れ物を扱うかのようなキスだが、後からほろ苦い味が追いかけてきて思わず眉をひそめた。
そこに追い打ちをかけるように、ふっ、と息が吹き込まれる。するとますますニコチンの味が増した。

「ね? やっぱり駄目でしょ。もうやめときなよ」

彼はゆっくりと唇を離し、まだ子供な私をあやすように頭を撫でた。

「...苦いね、やっぱり」

彼の言う通り、キスさえも苦いと感じる私はまだまだ子供なのだろう。でも何故だろう、昔の苦い葉っぱの記憶は何処へやら、今はすっかりビターチョコレートのような余韻に上書きされてしまったのだ。

「煙草には依存性があります」
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