10月15日
視界の中で、ひらひらと揺れる布の端。
ヒョクチェはうつむいて癖みたいに部屋の片付けをしてる。
あの服はなんなんだろう。
シンドンヒョンのTシャツでも借りたみたいなオーバーサイズ。
襟ぐりも大きいせいで、左肩は何度上げてもずり落ちてる。
よく目立つそこの黒子を見つめながら、ぼーっと見とれてしまう。
「・・・可愛い・・・」
「ん? なに?」
「あ! なんでもない、ない」
ため息と一緒に思わず内心が溢れ出て、慌てて取り繕った。
こういうことを言うと、ヒョクは照れて隠しちゃうから。
プレゼントとか何もなくてゴメンね。
さっきそんな風に言われたけど、俺はこうしてヒョクの部屋にいれるのが幸せ。
今日の俺の誕生日までに、忙しさのピークが終わるように頑張ってくれたらしい。
それを聞いた時、伝えてくれたトゥギヒョンに抱きついてしまうくらい嬉しかった。
「代わりに、俺の持ってるなんかあげようか?」
アクセサリーボックスを整理しながらヒョクが振り向いた。
それいいかもしれない!!
「あれ!! Hのイニシャルネックレス!!」
俺はきっと相当目が輝いてるだろう。
勢いに飲まれたヒョクがちょっと体を引いたもの。
だってそれが嬉しいんだ。
なにかを買ってくれるより、ヒョクが身につけてたのが欲しい。
「お前Hじゃないじゃん。だったらあとでD買ったげるよ」
「いーの!! それがいーの!!」
「わ、分かったよ・・・はい」
「つけてよー」
ほいっと無造作に渡そうとするから、おねだりをしてみる。
「じゃあ・・・」
「ちーがーうー!! 前からそのまま!!」
後ろに回るのは断固阻止。
「注文多いなぁ」
「いーじゃん、今日くらい聞いてよ」
「いつも結局聞いてんだけどな」
「あれ、おめでとうは?」
「・・・・誕生日おめでとう・・・ドンヘ」
ふわっとピンクになるほっぺがすごく可愛い。
「ありがとヒョク、大好き」
「ッん!」
パチンと留め金がはまった瞬間にちゅっとキスする。
ビックリした後に、ヒョクは俺から目を逸した。
キスなんて数え切れないくらいしてるのに、変わらない反応が愛おしい。
「もーいっかい」
「なに?」
「キスもっとしたい」
両肩を捕まえてニッコリ微笑んでみる。
「・・・しょーがないな」
冗談交じりにんーっと唇を差し出してくれた。
そーゆーのも可愛いけど、ふざけてらんなくしちゃいたい。
立ってられなくなるようなキスをしようと、距離を詰めた。
「どーんーへー!! おめでとおおおお!!」
もうすぐで唇がくっつくその時、扉の外から大声が響いた。
「・・・トゥギヒョン?・・・」
12階に帰ったはずだったのに。
「プレゼントここ置いとくからー!!」
「えっ?!」
無駄なほど大きく叫んだあと、ばたばた去ってく足音。
てっきり入ってくるかと思ったのに。
「???」
至近距離のままのヒョクと、きょとん顔を合わせる。
その時。
「ハッピーバースデー、ドンヘ」
今度はシウォンのいい声が聞こえた。
トゥギヒョンと同じように扉は開けないまま。
「あとで見ろよ。じゃあ」
そしてやっぱり入ってこないで、何かをそこに置いて去って行く。
そのあとヒチョルヒョン、イェソンヒョン、シンドンヒョンとメンバーみんなかわるがわる訪ねてきたけれど。
全員が同じように声をかけては扉の外に何かを置いて、そのまま去っていった。
「ヒョクチェヒョン・・・」
最後にやってきたリョウクは、俺におめでとうを言ったあと遠慮がちにヒョクを呼んだ。
「な、なあに?」
部屋の主なのにヒョクはおっかなびっくり、ドアの向こうに聞き返す。
「少しだけ、声は抑えてくれると助かります・・・」
・・・なんのコト?
ヒョクは意味わかんのかなと見てみたら、今まで以上にゆでダコみたいになっていた。
「こ、声出すようなコトしないから心配すんな!!」
扉に向かってなんか一生懸命叫んでる。
「はい、よろしくお願いします・・・じゃあ・・・」
「も~~~ッ」
リョウクの小さな足音が去っていく中、ヒョクは手をグーにして顔を覆った。
意味がわからなくて、俺はおいてけぼり。
「なに? リョウクなにを言ったの?」
「バカバカ!! ぜーんぶドンヘのせいだからな!!」
「なんでぇぇぇ?! 痛い痛い!!」
ヒョクはキっと俺を睨んだかと思うと、急にポカポカ殴り始めた。
首やら胸元まで真っ赤にしてる様子は可愛いけど・・・
いかんせんすごい勢いで、ベッドに一緒に倒れ込んでしまった。
「みんなに気つかわれるし・・・もう恥ずかしすぎる・・・!!」
俺を下敷きにしたまま枕に顔を突っ込んで、足をバタバタ。
よくわかんないけどとにかく暴れないで欲しい。
「ヒョク、ヒョク、落ち着いてよー」
すぐそこにある薄い耳を、ぱくっと噛んでみる。
「んんッ!!」
あ、そういやヒョクここ弱いんだった。
ピクンと反応されて、こっちまでドキっとする。
でも、おとなしくしてもらうならそうするのがいいよね?
「気持ちよくさせてあげるから・・・いいこにして?」
とびきり甘い声を吹き込んで、ぎゅうっと抱きしめた。
もうメンバーたちもさすがに来ないでしょ。
さっきのキス未遂からずっと我慢してんだし。
ヒョクが、欲しいよ。
「やだ・・・やだ・・・気持ちよくなりたくない」
なのにヒョクはふるふると頭を振る。
力は抜けたけど、意地はってるみたいな口調。
「なんで? 抱かせてくれないの?」
「声、出ちゃったら・・・イヤだ」
「・・・そんなぁ・・・」
誕生日にふたりきりでいて、ヒョクを抱けないなんてどんな拷問?
ヒョクだって触れてる体は熱いのに。
だから、ホントにしたくない訳じゃないんだろう。
だったら・・・
「じゃあ、こうすれば?」
「・・・ん、ふッ」
唇ごと覆うみたいにキスをした。
数センチ先の目が見開く。
一瞬遅れて抵抗っぽいことをするけれど、全部抑えられる範囲だよ?
「ヒョクのアエギ声、ぜーんぶ俺が食べてあげる」
くっつけたままそんな風に囁くと、赤くなってる目元が緩んだ。
「じゃあ・・・もし出ちゃったらドンヘの責任だからね」
イタズラっぽく笑うその表情。
なんだかんだ文句を言ったって、結局ヒョクチェは俺に一番のプレゼントをくれるんだ。
「どんな責任だって負ってあげるから、ヒョクをちょうだい?」
「・・・しょーがないな」
さっきも聞いたような言葉を紡いだ唇に、再び噛み付いて強く抱きしめた。
2012.10.15
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