LOVE RIOT ※
「ん、ん・・・、ぁ・・・」
羽みたいな触感。
ずっとそんな調子で肌を擽られる。
耳とか、首とか、そうやって唇で通ったあと。
飢えた唇を塞ぎにくる。
「・・・ヒョクチェ・・・」
俺を呼ぶドンヘの唇が赤い。
キスをするたびに、真っ赤な口紅が移っていくんだ。
見慣れない光景にまた、首筋をちいさな震えが駆け抜ける。
意味がわかんない。
なにこのかんじ。
普段からやたらと硝子でも扱うみたいな触れ方をするけれど。
今日はなんか違う。
これが・・・
『女の子あつかい』ってやつなの?
戸惑ってる間に、後ろからだっこされるみたいなかたちになった。
「・・・ッ、ひゃ・・?!」
ぐいっと胸を掴まれてびっくりしていたら。
揉めるような肉もないのに無理やり真似事をされた。
なんどもそれを繰り返される。
ばか。
男の俺にそんなことしたって意味ないじゃんか。
だけど、なかなか先端に触れないことで。
俺の体は勝手に焦れた。
「きもちいい?」
黒髪の隙間に、囁きが差し込まれる。
甘いあまいドンヘの声。
気持ちいい。
なんだか夢でも見てるみたいに、連れてかれる。
でも、そんなこと言えるわけない。
こんなコトしてるだけでも恥ずかしすぎるのに。
女の子のカッコなんて、したまんまで。
「よく、ないの? ねえ」
「あッ!! ・・・や・・だッ」
ぴんっと胸の突起を弾かれた。
こういうタイミングとかも、微妙にいつもと違う。
そんな気がする。
それとも、俺が勝手に過敏になってるだけ?
わかんない。
今は理由より、切実なものがある。
「両方触ってほしいでしょ、ここ」
「んッ・・んぅッ・・・」
「それとも舐めてほしい?」
ぷくっと膨らんだ乳首の周りだけを指先が通る。
焦らさないで、はやく。
もういっそ、噛み付いてくれたらいい。
脳みそが叫んでるコトバを、俺の口はなかなかかたちにできない。
けど。
従順なのは下半身。
さっきから腰が揺れて、催促してる。
そのうごきで下着に擦れて、蜜を零すのがわかった。
なにこれ、ヘンだよ。
まだまだ始まったばっかり。
なんでこんなになっちゃってるの。
「どうしたの? すごい敏感だけど」
「ッ・・あ、・・ぅんッ!!」
「こんな触り方がイイなんて・・・。ヒョクチェってば、ホントに女の子だったの?」
「んなワケな・・・ッ、あ!!・・やあッ」
相変わらず、力加減は限りなく優しい。
優しすぎて苦しいのに、おんなじだけ感じてしまう。
言われてるコトは全力で否定したい。
さすがにまだそれだけの理性はあるけど、説得力がないのもわかってた。
「こっちで、確かめよっか?」
乳首で遊んでいた指先が、するりと落ちていく。
待って待って、こっちって、なに?
不安になって、下着ごとショートパンツを脱がされる隙に身を捩る。
それは思ったような抵抗にはならなかった。
「なんか余計なものついてるね」
「あ、あ、あ・・・ッ」
「でも、女の子だったらここ、だよね?」
「んやッ!! なに、それ・・ッ」
ヘンな表現をして、性器にはほとんど触れないで。
すぐに通り越して、ドンヘの指はその下に潜りこむ。
女の子だったら亀裂があるはずの、そんな場所の皮膚を撫で上げた。
そこを、なんて呼ぶのかは知らない。
まともに触られるのなんて初めてだし。
「あな空いてないねぇ」
「当たり・・前・・ッだろ!! ばか!!」
「でも、きもちいい?」
「・・・く、くすぐったい・・だけだよッ」
「そうかなぁ」
含み笑いが聞こえてその一瞬後。
ふわっと抱きかかえられたと思ったら体勢が変わってた。
「やだ!!・・やめ・・ッ、・・・んあッ?!」
太ももを大きく広げられて焦りたかったけど。
ねっとり舌が這う感覚に、震えることしかできなかった。
「ん、・・やっぱり、イイんじゃん」
「ちが・・よッ!! やめ・・てぇッ!!」
なんの役目もないはずのそこの肌が、なんでそんなに反応するの。
ドンヘの舌がなんかおかしいんだ、ぜったい。
責任転嫁、するしかない。
だって、実際。
性感帯をいじられてるのと、なんの違いもない快感が俺を追ってくる。
傍から見たら、普通に男女のセックスに見えるかもしれない。
やだ、やだ、そんなの。
抱かれるのはドンヘだからいいけど、だからって。
・・・女の子になりたいワケじゃない。
そう思ったら、目のうらが一気に熱くなって。
急に洪水みたいに涙が出てきた。
混乱も手伝って、すっごいカッコ悪い泣き方になる。
「ヒョクチェ、ヒョクチェ・・・、どうしたの」
しゃくりあげる俺に気づいて、ドンヘがいささか慌てる。
顔を覆ってひたすら首を振った。
嗚咽が苦しくて、まともに喋れもしない。
「ごめん、いやなの? ねえ、ヒョクチェ」
「・・・・ッ・・・や、・・だ・・・・」
「うん、うん。普通にするから・・・・、だから、泣かないで」
「・・・ん・・・・、ぅ・・ん・・・・」
手を外されて、キスされる。
瞬きするたびに零れて、黒髪に吸い込まれていく涙。
それを何度でも丁寧に拭う仕草が続いて。
それでやっと俺は落ち着いた。
「息、ゆっくり吸って、吐いて?」
促されて深くした呼吸の合間に見たドンヘの唇。
もう、真っ赤な口紅はぜんぶ、どこかに紛れて消えていた。