いちごみるく ※

「♪~」
自室に帰ってすぐ、投げ出したばかりのケータイがメールの受信を知らせる。
着替えの途中だった俺はまごまご腕を通してから音を止めた。
誰?
あ、キュヒョナだ。
『ドンヘヒョン、すぐこっちに来たほうがいいと思います』
『俺が暴走してもいいなら話は別ですけど』

・・・意味が分からない。
でも、あいつの言う暴走って・・・すっげぇ不安だ!!
ホントは一息くらいつきたかったけど、いいや!
ケータイだけ掴んで一階下のもうひとつの家へと急いだ。




「天然って、罪だと思うんですよね」
「なんで? 自然なのはいいことじゃない?」
「じゃあ俺が誘惑されても仕方ないってことですか?」
「誘惑ってなんだよー 話飛んでるよキュヒョナ」
「飛んでません。ヒョクチェヒョンが自覚ないだけです」

エレベーターを待つのがもどかしくて非常階段を駆け下りてきた俺の耳に、リビングのキュヒョナとヒョクチェの会話が聞こえた。
でもなんか、勢いで来てしまったからなんて声かけよう。
なんとなく不穏な空気なんだけど・・・

「自覚ー? なにそれ」
「ソンミナヒョンにはヒョクチェヒョンが怒られてくださいね」
「俺、悪いことしてないよ?」
「俺がするんですよ?・・・これから、ね・・・」
「わ! なんでボタン外すの?」
「悪いコトするからです」

不穏だ!不穏すぎる!!

「キュヒョナ! なにやってんだ?!」
「あれ、ドンヘー」
「ヒョン遅いです。時間切れですよ」

きょとん顔のヒョクチェと、そのヒョクチェのシャツを脱がせようとしながら答えるキュヒョナ。
なにこの状況?!

てかヒョク!!
その白シャツ1枚しか着てないってどういうことなの!

「遅くないよすぐ来たよ!! 手ー放せバカ!!」
「いーたーいー」
「警告したんだから優しいでしょ?」
「この素早さじゃ警告じゃなくて宣言だろ!!」
「痛いってばぁぁぁ!」
両側から手をぐいぐい引っ張られてヒョクが泣き声を上げる。

「あ、ゴメンッ!!」
「急に来てなんだよ、もう」
「そうですよドンヘヒョン。こっちは俺たちの家なんですよ」
「うっさい! お前は黙ってろ」
ビシっと指を突きつけるとうちのマンネは悠然と笑った。
くそう・・・こいつなんか余裕ぶっこいてやがる・・・
ああ、俺も11階に住みたい!!
ってかヒョクの部屋に住みたい!! 

「ヒョク!! お前の部屋行くよ!!」
「えー、待ってよ。俺いちご牛乳持ってくんだから」
「・・・早く持ってきて!!」
なに怒ってんだよーとかぶつぶつ言いながら、ヒョクはキッチンにとたとた歩いてった。

「ホント無防備ですよねー」
その後姿を見ながらキュヒョナがそんなコトを呟く。
「お前さ・・・」
思わず溜め息が出る。
「ソンミナヒョンがいるだろ?! ヒョクに手出してどーする気だよ!」
俺たちより先にさっさとくっついたくせに。

「ヒョクチェヒョンならいいんです。味見しても」
「・・・あ、味見ってなんだよ!!」
「ソンミナヒョンも、ヒョクなら3人でしてもいーよー☆って言ってますから」
ちゃっかりヒョンのモノマネまでしながら、とんでもないことを言う。

「3人でなにすんの?」
1リットルのでかいパックとみかんの袋を持ってきたヒョクが何も知らずに混ざってきた。

「ヒョクは知らなくていーの!! ほら行くよ!!」
「わかったから引っ張んなよー」
「ドンヘヒョン、もっと優しくしなきゃダメじゃないですか」
「うっさいっつってんの!! お前も愛の巣に帰れ!!」
「俺のソンミナヒョンはまだ帰ってないので」
「俺のって! キュヒョナってば・・・」
なんでお前が赤くなんのヒョク。

「ハイハイじゃーね! キュヒョナ、おやすみー」
俺が早口で言うとキュヒョナはヒョクの手をとって
「ヒョクチェヒョン、萌えをありがとうございました」
にーっこりイイ顔で笑った。

「? なんもあげてないよ俺」
「いやあげてる! すっごい提供してる!!」
「そこは気が合いますね」
「・・・・な、なに?」
わかってない顔だな。
ヒョクがそーゆーコトわかってないのは可愛いけど、わかりまくってるキュヒョナは可愛くない。
なにを想像して口角を上げているのか、知りたいような知りたくないような。

戸惑い気味のヒョクの手を引いて、彼の部屋に篭もることにようやく成功した。




「まず言いたい」
「なあに?」
「エロイ!!」
「・・・ヒドイ!!」

だって、部屋に着いてやっとマジマジと見れたけどさ・・・そのかっこ・・・
ヒョクの細い体を包んでいるのは、太ももまで丈の大きめな白いシャツ。
どうやら下にショートパンツは履いてるらしいけど、丈が丈なのでシャツしか着てないみたいに見えて仕方ない。
お風呂あがりの素なカンジと相まって・・・あいつじゃないけど大いに萌えをありがとう!だ。

「なにその服!! どうしたの」
「え、ELFのみんなが・・・オッパに似合いそうだからって、こないだくれた」
それについてはELFグッジョブ!!
すげえ似合う!!
というか似合いすぎるから問題なんだけども。

「ダメだった? なんか変?」
ちょっとしかでてない指先をもじもじしながら、心配そうに見つめられて・・・
暴走、を理解した。

「すっっっっげえ可愛い!! いただきます!!」
「ぎゃああああああああ」
ぎゅうっと抱きついてそのままベッドにダイブした。
確かに天然は罪だ。
キュヒョナ、お前の意見自体には異論はないよ。

「ま、待ってよドンへ・・・ッんぅ!」
「なにを待つの? なにされると思ってんのヒョク」
柔らかい唇の感触を確かめながら聞くと、ヒョクはキレイにほっぺを染めた。

「べ、べつに具体的には、考えてないよ」
「そーかなぁ」
「もう!! いいから待ってって! まだ俺いちご牛乳飲めてないんだから!!」
ぐいぐい顔を押されて仕方なく離れる。
離れたからにはじっくり観賞させてもらうけどね!

「ドンヘもキュヒョナも、たまに言ってるコトわかんない」
そう言ってくすくす笑いながら、乳白ピンクの液体をストローでこくこく飲み始めた。
ああ、可愛い・・・
おまけになにその両手持ち!!
ヒョクは自分が可愛い仕草をしている自覚がホントない。

「分かんなくていい!って思ってたけど・・・ちょっと不安になってきたよ俺」
そんな警戒心のなさが、さっきみたいに作用するのなら考えものだ。
キュヒョナのやつ、どこまで本気なんだろう。

「ドンヘが不安になるようなコト、俺はしないよ」
「え・・・・」
ぽかんとしてしまった。
そんな可愛いモンを可愛いカッコで飲みながらなのに、やたら男前な台詞。
これだからヒョクには敵わない。

「ヒョク、大好き」
「な、な、んだよ・・・急に」
急なのはむしろお前の方でしょ。
さっきまで犯したくなる程可愛かったのに。
何度惚れ直させる気なの。

「いつも好きなんだから、急じゃないよ」
「・・・ど、んへ」
顎をつかまえて顔を寄せると、ヒョクはぱたぱた瞬きしてから目を閉じた。
キスされる予感にいまだに一度戸惑ってる。
愛しさに胸を満たされながら、ゆっくりと唇を近づけた。

・・・触れ合う寸前。

ダンダンダンッ
扉を叩くけたたましい音と、
「ヒョン!! ヒョクチェヒョン!ドンヘヒョン!!」
キュヒョナの叫び。
さっきの悪戯まじりの声とはあまりにも違う。
俺とヒョクチェは一瞬だけ見つめあって同時にドアを開けに向かった。

「どうした?!」
「あ、の! ソンミナヒョン、が!!・・・倒れ・・・たって!」
キュヒョナは血相を変えて転がるように飛び込んできた。
「倒れた?!」
彼を受け止めながらヒョクは息を飲む。

「マネヒョンが、今・・・メール・・・撮影終わったとたん気を、失ったって・・・」
動揺しすぎてうまく喋れてない。
「なんで?! 今朝まで元気だったのに!」
ヒョクも泣きそうになってる。

俺だってもちろん動揺してるけど、ふたりの様子に俺がしっかりしなくちゃと思った。
「キュヒョナ、落ち着け。病院は? わかるか?」
「・・・・・・はい、・・・その、メールに・・・」
「行こう! 早く!!」
「待てって! 飛び出してファンに見られたら騒がれる」
「・・・・で、でも・・・」

ヒョクの瞳からはもう涙が零れそうになってる。
安心させてあげたいけど、それより先に整理しなくちゃ。

「キュヒョナ、マネヒョンに電話して。迎えに来てもらえるか聞いて」




                   ※



「ふぅ・・・」
ひとりきりの自室の空気を、俺の溜め息が揺らす。

俺たちは結局誰も病院には行かなかった。
・・・というよりたまたま病院の近くにいて駆けつけたトゥギヒョンに止められた。

キュヒョナがマネヒョンに電話をかけようとした時、ちょうどトゥギヒョンからかかってきた。
『心配するな、大丈夫だから』
キュヒョナの動揺を見ていたみたいな、第一声の優しさに俺はとりあえず安心した。
トゥギヒョンがこういう声でこう言う時は、ホントに大丈夫。

気を失った、って表現が怖かったけど、ただの貧血ってコトらしい。
「・・・・・・・あと、睡眠不足かも知れません・・・」
チョギュさんそれは寝かせないようなことしてたって意味ですか・・・

とにかく責任も感じてるらしいキュヒョナは、詳細を聞いてもまだ飛んで行きたいようだった。
そりゃそうだ。
俺だってヒョクが離れたトコで倒れたら、どんなに大したことなくても顔を見に行きたい。
でも・・・
『ムリして来て、お前らまでどうにかなったら俺が困る』
リーダーらしい言葉に納得せざるを得なかった。

「寝よ」
あのままヒョクの部屋に泊まってもよかったけど・・・
やっぱ能天気にしてる気分ではなくなったから、3人とも自室に帰った。

ミニヒョン、早く元気になるといいな・・・



                    ※



地団駄ってやつを、踏みそうだ。
なんなんだよキュヒョナのヤツ!!
昨夜の動揺と憔悴は演技か?!

なんだかんだで疲れていたらしい俺は横になった途端眠ってしまった。
おかげで早く目が覚めたからヒョクの寝顔を見に来た(日課)んだけど・・・

なんでキュヒョナが一緒に寝てんの?!
昨夜確かに3人ともそれぞれ部屋に帰ったのに!!

「♪~~~」
「おわ?!」
キュヒョナだけ叩き起こそうかと思っていたら、彼の枕元のアラームが鳴り出して驚いた。
「・・・ん~」
もぞもぞしだしたから
「おい!! 起きる時間だぞ!! キュヒョナ!!」
ここぞとばかりに揺すり起こした。

「・・・ぅ、あれ? ドンヘヒョン・・・おはようございます」
「おはよーじゃねーよ!! お前なんでここで寝てんの?!」
「え、まぁ、人肌恋しくなりまして」
「ヒョクの人肌は俺のなの」
「それ使い方間違ってますヒョン」
「~~~~ッ」

結局、地団駄踏んでしまったよ。

・・・まぁ、不安だったんだろうけどさ・・・
既に寝入ってたらしいイェソンヒョンとリョウクのトコ行くのもアレだし・・・
階をまたいでまで俺やヒチョルヒョンのトコ来んのも変だし・・・

「ううぅぅぅ~」
俺がぐるぐる考えを巡らせていたら、ヒョクが半分しか目覚めてない様子で身じろぎした。
「・・・さむ、いぃ・・・」
呟いて隣の体温に抱きつく。
「暖めてあげますよ」
「!! こら!! 離れろ!!」
「これくらいいいじゃないですか」
「ダメ!!」
親友時代からヒョクに関しては嫉妬深いで定評のある俺だよ?
同じベッドで抱き合ってるなんて許す訳ないでしょ!!

「心が狭いですね、ドンヘヒョンは」
「ってかお前もう起きなきゃいけないんだろ? 今日KRYのイベントだろ?」
「そうなんです。こうしていたいのに」
「ぅぅ~、ん? ・・・きゅひょな?」
頭撫でたりするからヒョクが起きてしまった。
目を擦りながらいつもより舌たらずに喋ってる。
可愛い!!
俺が呼ばれたいのに!!

「はい俺ですヒョン。おはようございます」
「んー、おはよ・・・ちゃんと寝れたか?」
「おかげさまでぐっすりですよ。ヒョン抱き心地よくなりましたね」
「そお? 別に体重変わってないのにー」
「俺を無視するな!! ってか抱き心地ってなんだ!!」
「ぅわドンヘ!! いたんだ」
ええー!ヒドイ!!

「キュヒョナー!! こっちかー? もう起きろよ!!」
俺が打ちひしがれそうになっていたらイェソンヒョンがひょっこり顔を出した。
「ほら!! ヒョンに迷惑かけんなよ」
天の助け!!
早くこいつ連れてって!
キュヒョナは至極不服そうに頷いた。

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