聞くよ、君を。 ※
「ドンヘ」
「なあにー?」
翌朝。
なんだかスッキリ起きられなくて、俺はいつまでもシーツの海のなか。
愛しい愛しいヒョクの声に呼ばれても、瞼が重くって持ち上がらない。
ふにゃふにゃと返事をしたら、突然シャツのボタンを外され始めてビックリした。
なになに?
まだ足りないのヒョクったら。
緩んでしまう口元を抑えられない。
「なに笑ってんだよ」
ヒョクはちょっと口を尖らせてそうな声を出す。
答えようとしたタイミングで、なにかを服のなかに突っ込まれた。
「んー・・・?」
クエスチョンマークが浮かぶ俺の腕を、ヒョクは押さえつけた。
なんだろこれ。
なんか身に覚えがあるような。
ピピピ。
しばらくしたらちっちゃな電子音が響いた。
「・・・・・・38.7℃・・・」
再び手を突っ込まれたあとの、ヒョクの呟き。
あーあ、体温測ってただけだったんだ。
せっかく珍しく、ヒョクから誘ってくれてんのかと思ったのに。
がっかりだよ。
深くふかーくため息をつく。
「さすがにやっと反省、した?」
前髪を梳く優しい仕草。
言葉の意味はちょっとわかんないけど。
目の前にいるだろうヒョクをやっぱり見たくって、頑張って瞳を起こした。
「おはよ・・・ヒョク」
「おっす。水かなんか、飲む?」
「ううん。それより、ちゅー」
「・・んッ・・う」
目覚めてからの一連の儀式みたいに、唇を合わせて離した。
ヒョクはぱちぱち瞬きしてから、俺をじっと見る。
「・・・・・お前、息も熱いよ・・・平気なの?」
またちょっと眉が下がってる。
心配自体はかけたくないけど、心配してる顔は好きだなんて矛盾。
「平気。楽しかったから」
黒い管を通って増幅されたヒョクの声と音が、大きく鼓膜を揺らした感覚を思い出して。
俺はにっこりと口角を上げて笑った。
「なんだよそれ。理由になってないし」
よく俺に見せるちょっと呆れた表情になる。
そんなヒョクから目を離さないまま、俺は指を滑らせてシーツの上で聴診器を探す。
「ヒョクの音聞くの、俺すごい好き」
「・・・・・・ドンヘ」
伸ばした左手の先に柔らかいチューブの感触。
やっとみつけたと思ったら、ヒョクにその手を取られてしまった。
嬉しいけど、どうしたの?
「なあに?」
「聴診器なんて、もういいから」
「え・・・・うわ・・」
前触れもなく強く引き寄せられる。
気づくとヒョクの胸に顔を押し付けるような体勢になってた。
そのままぎゅっと抱きしめられる。
母親が子供を宥めてるみたい、とか思ったり。
「ヒョク・・・?」
甘えるのとも違う、不思議な行動に俺は目をぱちくり。
篭もりがちな声で呼びかけた。
「いつも一番近くで俺の心音、聞けよ」
「え・・・?」
俺は一瞬、かたまる。
なにそのコロシ文句。
「あんなの通さないで、直接聞けっつってんの」
ある意味熱が上がっちゃうよ。
照れ屋でスナオじゃないくせに、そうやってごくたまーにさ。
死ぬほど男前なこと言うんだから。
「うん。大好き、ヒョクチェ」
「・・・・・・急に告んな」
なによりも効く薬をもらった気分で、薄い胸に顔を擦り付ける。
ヒョクは、ぶっきらぼうにちょっとヒドイことを言うけれど。
ホントは嬉しいの、俺はわかってるんだからね。
確かにヒョクを動かしてる鼓動に、癒されて俺は目を閉じた。
End....
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