聞くよ、君を。 ※





「ねえ、ここ・・いい?」
「んッ・・い・・けど、もっときゅって・・して」
「ん? こう?」
「ふあッ!!・・ん、うんッ」

組み敷いて正面から見つめながら、どう手淫をしていいか聞いてみる。
聴診器はヒョクの心臓の上に置いたまま。

俺の指先が滑るたびに、どっくんって心音が跳ねてる気がする。

「もっと、声出して? ヒョク・・・」
「耳・・、痛くないの・・・かよッ?」

痛いわけないでしょ。
ヒョクの声や鼓動や呼吸の音。
どれだけのボリュームだって、平気に決まってる。

「聞きたいんだよ、だから聴診器を買ったの」
「で・・も、・・ッあ、んッ・・ん!!」
「そんなこと気にしないで。いっぱい感じてよ」
「わかっ・・・からッ、待って・・そこ、触んなッ」

嘘、ここがいいってことだ。
絶頂が迫ってくると、イヤがる振りをするのはヒョクの癖。

「イッていいよ、全部聞いてあげる」
「だ・・めッ・・おっきい声・・でちゃ・・ッ」
「いいってば、ほら」
「んぅーッ ひ、あッ・・あーッ!!」

くっとすこし強く握って擦り上げる。
ヒョクがいっぱい感じるトコに狙いを絞って、小刻みに動かした。

苦しそうな呼吸音に混じって、耳から俺に突き刺さるヒョクの悲鳴。
甘い声に鼓膜を満たされて、なんだか変な感じ。
ヒョクの体内に小さくなって入ったみたいな。

ああ。本当にそうなったらいいのに。
ヒョクを形づくる、細胞のひとつになりたい。

なんて、・・・・・・さすがに、あまりにも執着的かな。
普段とは違う聴覚の過敏さが、俺の脳みそをとろとろにしてる気がする。

というか、ホントに目の前がすこしちらついて見える?
なんだろう、このかんじ。

力が入ってうまく吸えない空気を、追いかけるみたいにヒョクは首を反らせている。
俺はぽやんとしたまま、その様子をずっと見下ろしていた。

「・・・・・ッ、・・ッ」

ふと、喉のおくになにかが引っかかったみたいになって、咳き込んだ。
ヒョクは、なぜかびくっとなって俺を見あげる。
途端に傷ついたみたいな顔になった。

「ドンヘ・・・、悪化・・・してる?」

ああ、そうか。
言われてみれば俺、風邪ひいてるんだったっけ。

二の次だった自分の体にちょっとは気を向けてみるけど。
自分のことはあんまりよくわかんない。

「・・・・・・んー、どうなんだろ」
「顔・・・赤い気がする・・・」

それはヒョクのせいじゃないかな。
さっきまでより輪をかけて、酔っ払ったような感覚が俺を支配してる。

「苦しいよ」
「え?・・・だ、だいじょぶ・・なの?」

なくても視界の変わらないメガネが、ヒョクの手で外された。
さっき測ったばっかりなのに、手のひらで俺のおでこの温度を確かめてる。

体温なんてどうでもいいよ。
俺に効く薬はわかってる。

「ううん、駄目」
「駄目って・・どうしよう・・・」

うろうろと視線を彷徨わせるところを、しっかり焼き付けてから。
俺はヒョクの首筋に顔をうずめて、ぎゅうっと抱きついた。

「はやく、ヒョクをちょうだい」

とくん。
聴診器を通ってまたひとつ、ヒョクの心臓の答えを聞いた。


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