ねこのからだ ※
「ただいまー」
「ヒョク、おかえりー!!」
重たく感じる荷物を抱えて宿舎のリビングに入ったら。
ソファに座ったドンヘが元気よく答えた。
耳とシッポがピンと上を向いてるのが見える。
「ば・・ッか!! 誰かに見つかるぞ!!」
焦って駆け寄ってパーカーのフードをかぶせた。
なのにドンヘはにへっと笑ってる。
「今日ここのみんな帰ってこないよ」
「そーだったっけ?」
「うん。ほら、ソンミナヒョンは飲み会あるってゆってたしー・・・」
メンバーのスケジュールを指折り数えて教えてくれる。
言われてみればそうだ。
気づかずにみんなのもパン買ってきちゃった。
「そう。そんなら、いいんだけど・・・」
「ヒョクがひとりじゃ寂しいかなーと思って待ってたの」
「別に!! 寂しくねーし」
「ホントー? こういう時ヒョクも実家泊まったりすんじゃん」
「ぐーぜんだよ。・・・も、いいからお前これ食え」
パンの紙袋をドンヘの胸に押し付ける。
だって余っちゃうでしょ。
「わーい、食べるー」
ほっとくと意外と食べないドンヘ。
でも俺が与えると急にめちゃくちゃ食べる。
ほおばってるドンヘのシッポが、左右におっきく揺れた。
「おいしい? それ新作なんだけど」
「うん!! チョコがめっちゃおいしーよ」
「よかった。母さんにゆっとくよ」
幸せそうにもぐもぐしてる様子に安心して、俺はとりあえず着替えることにした。
ドンヘを置いて、自分の部屋に一旦戻る。
「・・・ッ・・」
シャツを脱ぐのにやわらかい布が肌を滑ったら、なぜかヘンな感覚が走った。
・・・なんだろ。
さっき衣装から着替える時もそうだった。
なんもしてなくても、なぜだかシッポがゆらゆらする。
落ち着かないというか、なんというか。
「ひょーくーちぇー!!」
「にゃあ!!」
ふっとチョコの匂いがしたと思った一瞬後、後ろからがしっと抱きつかれた。
予想はしていたのに体がビックリする。
「かわいいー、にゃあだって」
「・・・お前が、驚かすから・・・」
「ごめんね、ちょっとでも離れたくなくて」
「・・・・・・すぐ、戻るのに」
「ヒョクを一秒でも長く見たいんだもん」
「ばか・・・」
チョコレートよりもずっとずっと甘い言葉。
『みんなの彼氏』のドンヘだもの。
口説き文句は大得意。
慣れてるっていうのもおかしいけど、俺はこういうコトを数え切れないほど言ってもらってる。
だから、おかしいんだ・・・こんなの。
どっくんどっくん。
初めて好きな人とくっついた時みたいに、バクハツしちゃいそうな胸。
なんで・・・?
「耳、こっちの色もかわいいね」
「・・・んッ」
頭の上の耳を摘まれて肩が跳ねる。
ドンヘが触れたところがヤケドしそう。
あつくって、息が上がる。
なに・・・これ・・・?
「ヒョク? どうしたの?」
さすがにドンヘが気づいた。
両肩に手をかけて、正面から見据えられる。
「ど・・んへ・・・」
掠れたような声が出た。
ワケわかんない、助けてよ。
「わ、・・なんか・・・ヒョク、えっち」
なんだよそれ、って思いかけて・・・
変に納得した。
だってきっと今の俺、そんなカンジだ。
「ど・・しよ・・・ドンヘ。あっつい・・・」
風邪とかそーゆーんじゃなくって、内側がおかしい。
腰のあたりで騒ぐ、マグマみたいな疼き。
「ヒョク・・・・・・もしかして、・・・発情期・・とか?」
俺がうたがってる答えを、ドンヘが出した。
人間にはそんなのないからわかんないけど、言葉にするならそれしかない。
「・・そう、かも・・・。くるしい・・」
認めてしまうのは恥ずかしいけど、仕方ない。
自分でどうにかなんて、できそうにない。
「くるしいんだ・・・。わかった、助けてあげる」
ドンヘはいつになく、落ち着いた様子で微笑んだ。