Be mine ※
「・・・う・・・」
太陽に起こされるかたちで、目が覚めた。
この季節にしては強い日差し。
白い光のなか、少なすぎる距離に眠るヒョクチェは溶けちゃいそう。
覚醒したばっかの脳は、そんなことを考えた。
気がつくと手を伸ばしていて。
ほぼ無意識に前髪を梳いた。
現れた瞼のあたりが、すごく赤い。
特に薄い皮膚が、かわいそうなくらい充血してる。
ああ、また泣かせすぎちゃった。
後悔しないワケでもないんだよ?
たぶん、そう伝えてもヒョクは、嘘だって言うだろうけど。
それも仕方がない程度には、こんなコトを繰り返しているから。
「ヒョクチェ・・・」
宝物みたいに大事に、その名前を舌に乗せた。
だけど、ヒョクが目を覚ます気配はすこしもない。
眠るというより、きっと気絶に近いんだろう。
起きたらお風呂入りたいってゆうかな。
激しくしてしまった後はやっぱり体がだるいらしい。
せめて我が儘聞いてあげるくらいしないと・・・
だいぶ無理もさせたし、怒ってるかもしれない。
のそのそ起き上がったら、俺でさえちょっと体が重かった。
軽く部屋着を羽織って、ヒョクチェのおでこにキスをする。
寝てようが起きてようが、そうしてからじゃなきゃヒョクから離れられない。
ヒョクは規則正しい呼吸で応えた。
※
「・・・あれ?」
「おはようございます、ドンヘヒョン」
静かなリビングに出たら、誰もいないかと思ったのに挨拶された。
気だるそうにコーヒーを淹れてるキュヒョナ。
「お前にしちゃ、早いね」
「その言葉、そっくりヒョンにお返しします」
育ちの良さそうな笑顔で、さらっと嫌味を言う。
朝からキュヒョナらしすぎて、いっそ爽やかだ。
口答えするのを諦めて、さっさとバスルームに向かった。
湯を張るついでにヒョクチェの好きなバスボムを入れて、リビングに戻る。
キュヒョナは出来上がったコーヒーを、やっぱり気だるそうに啜ってた。
そんな様子を見て、ふと思いつく。
冷蔵庫から炭酸のペットボトルを取り出して、向かい側に座ってみた。
「ねえ、俺らの後輩のあの子・・いるじゃん?」
「ああ、はい」
名前を言うとキュヒョナは深く頷く。
飲み仲間で普段から仲がいいらしいからさ。
「あいつ、ヒョクのこと・・・気に入ってたりする?」
キュヒョナならなんか知ってるかなって、思ったりして。
聞かれたキュヒョナは目をパチクリさせた。
「それはないでしょう。彼、グループ内に本命いますから」
「・・・ああ、そうなんだ?」
「お気に入りのヒョンはいっぱいいるみたいですけどね」
へえ、ちゃんと本命いるんだ。
この言い方なら、ヒョクが特別どうってワケでもなさそう。
まあ、俺としては・・・
だからといって、あの親密さが許せるって意味ではないけど。
「・・・というか」
ぶつぶつ言いながら考えを巡らせていると、キュヒョナが唐突にそう言って俺を見る。
「先日まったくおなじ質問を、ヒョクチェヒョンにされましたけど?」
予想外の言葉に、俺は一瞬フリーズした。
「・・・・・・うっそ」
「嘘ついてどうするんですか」
おかしそうに笑うキュヒョナ。
え、だって・・・
俺のビックリもわかってよ。
俺が誰かとじゃれたりしてても、気にもしてくんないヒョクだよ?
むしろ厄介払いできたーみたいな顔するもんだから、そのあと余計くっつきまわるんだけど。
「彼が昔からドンヘヒョンを慕ってる気がするって」
「そ、そんな時期あった?」
「それはありましたよ、俺から見てても。ヒョン自覚なかったんですか?」
「・・・・・・ない」
悪いけどそんな記憶はまったくない。
でも、よくよく思い返してみれば・・・
やたら背高ノッポのシルエットが、しょっちゅう傍にいたコトもあったような。
「一緒にいるの見ると、どうしても不安になるんですって」
「・・・不安?」
「可愛い後輩なのにねって、寂しそうな顔してました」
「・・・寂しい?」
俺に対してヒョクがそんな風に感じるなんて。
そんなの、思いもよらなかった。
炭酸が弾けて胸が騒ぐ。
わ、どうしよう・・・
なんだか、いてもたってもいらんない。
「お互い取り越し苦労ですから、なんの心配も・・・」
「わかった!! わかったから!!」
「な、なんですか」
「それ以上もう言わないで」
突然テーブルに突っ伏して耳を塞いだ俺に、キュヒョナは面食らった声を出す。
だって、ヒョクへの愛しさが湧き上がりすぎて・・・
これ以上聞いたら、どうにかなりそうなんだもん。
「・・・ドンヘヒョン? 大丈夫ですか」
「たぶん駄目。助けてくんない?」
「助けるって・・・」
「今日、俺のこと見張ってて。すっげー暴走しそう・・・」
伏せたまんま、もごもご答える。
そこそこホンキで頼んだつもりだけど、俺が言い終わらないうちにため息が聞こえた。
「嫌ですよ」
「随分バッサリだな、おい」
「必要ないことに付き合っていられるほど、ヒマじゃありません」
「必要ないってなんでわかんの」
「ドンヘヒョンの暴走になんて、ヒョクチェヒョン慣れっこじゃないですか」
「う・・・まあ・・、そうかもしんないけど」
そう言われると困る。
俺が場所を考えずにハグしたりキスしたりすんのは・・・もはや日常茶飯事。
突発的に触りたくなると、どうもブレーキがかからないようにできている。
でもさ、慣れてるとはいえ・・・
昨夜やりたい放題しちゃったから、さすがに今日はおとなしくしようって。
俺にしては理性的に考えてたのに。
朝日のおかげで、暗いキモチもだいぶ晴れたことだし。
「自力で頑張ってください」
「でもさ、キュヒョナ・・・」
「あ、ほら、お風呂沸きましたよ。ヒョクチェヒョンを入れてあげるんでしょう?」
「うん・・・」
給湯器がピーピー鳴る。
タイミングいいんだか悪いんだか。
キュヒョナには正面に見えてるだろうつむじのところを、コツコツ叩かれた。
「ヒョーン」
わかったってば。
俺の髪の毛で遊びだしたキュヒョナの手をどけさせる。
急かさないで。
なけなしの理性を総動員させるには、集中力がいるんだから。
虐めみたいなセックスをされてきっと、ヒョクチェは神経が逆だってる。
そんなヒョクチェをちゃんと労わって洗い上げてあげなくちゃ。
すっげー可愛いと思っても、不用意に触ったりしたら駄目だからね?
こういう面では自分を信用できない俺は、酔っ払ってるみたいな脳みそを叱りつける。
「ふー」
大きく深呼吸した俺を、キュヒョナは面白そうに見ていた。
End......
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