隠れ家温泉お宿 ※






「助手席きてよおおヒョクううう」
「るっさい!! 黙って運転しろ!!」

レンタカーのハンドルを握ったドンヘが、情けない声を出す。
俺はそのシートを後ろからぼすぼす叩いてやる。

行きにずっとドンヘが運転してくれてたから、帰りは代わってもいいかと思ってたけど。
思いっきり、気が変わった。

「そんなご無体なー」
「意味知ってて言ってんの?」
「ううん、しらない」
「アホ」

お行儀が悪いけど、靴を脱いで足を投げ出した。
だって騙されたんだから。
ちょっとくらい横柄にしてもいい状況だと思う。

公共の場で遠慮もなく犯されて、俺は怖くて堪らなかったのに。
ドンヘはこっそり、『清掃中』の札を入り口に掛けてたんだそうだ。

朝ご飯を食べながら、茶目っ気たっぷりに種明かしをされて。
しかも俺にはそれを内緒にしたのは、『怖がってるヒョクも好きだから』だそうで・・・

もう、飲んでたお茶をぶっかけてやろうかと思った。
また世話をしてくれてたお姉さんに、迷惑をかけないように我慢したけど。

「信号まちの間はふりかえってもいい?」
「別に俺のこと見なくても死にゃしないだろ」
「死んじゃうよー」
「あっそ、じゃあ好きにすれば?」

反省しろよって意味を込めて、俺はわざと運転席の真後ろの席に陣取った。
バックミラーでも見えないようにちょっと深く座って。

運転慣れしてるドンヘは、そんなことを言いながらもちゃんと車は操ってる。
俺はせっかくの旅行だからとりあえず景色でも眺めることにした。

「・・・かわいいー」
「・・・・・・」
「怒っててもかわいいとか奇跡?」
「・・・・・・・・・」

だけど、信号で止まる度にドンヘがぐるんとこっちを向いて呟く。
ハッキリいって輪をかけてウザイ。
静かに風景を堪能するつもりだったのに、気が散ってしょうがない。

「あ!!」
「・・・・・・なんだよ・・・」

何度目かの信号で、ドンヘが大声を出した。
まんまるい目に穴が開くほど凝視される。

「肌、すっごいキレーになったね」
「そ、そう・・かな」
「・・・温泉効果?」
「・・・・・・・お前、今なに思い出した?!」

イヤな予感がして聞いてみると、ドンヘは隠しきれない様子で口の端を上げた。

ばーかばーか。
せっかく助手席戻ってやろうかと思ったけどやっぱやめた、永遠にやめた。

俺はまたむくれて、空港までもう少しの町並みを眺めた。

同じ台詞をソンミナヒョンに言われて、思わずヒョンを叩いてしまうのは・・・
ここから数日後の話。




End・・・・・
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