隠れ家温泉お宿 ※
「おいしいねー」
「うん・・・」
箸を咥えたまま俺は目だけうろうろ。
忙しく動き回って配膳をしてくれてる旅館のお姉さんが、気になっちゃって。
だってギリギリだったから。
同時に上り詰めて息を整えてるその時に、トントン扉を叩かれたんだ。
大慌てで身支度をしたけど、ごまかせてるんだろうか。
「あー、ヒョクあたまぼさぼさ」
「さ、触んなよ!!
「なに怒ってんのー?」
このアホ。
一回だけとか言いながら、ドンヘは散々俺を焦らした。
泣きすぎて目元がまだあつい。
俺だってずっと欲しかったんだから、さっさと入れてくれたらよかったのに。
そんなコトをつい思って、そんな発想にひとりで焦る。
触ってみたらホントにぽわぽわになってた髪を、乱暴に直した。
「ねえ、足りないの?」
むしろさらに髪型が乱れた気がする俺を、ドンヘは覗き込んできた。
足りない?
目の前に広がったお膳を見渡した。
やたら品数の多い日本料理は食べれないものもあるけど、そこそこお腹はいっぱいになりそう。
食い意地張ってるとは言われるけど、そんなに量が食べたいワケじゃないから平気だよ。
「大丈夫だよヒョク」
「・・・なにが?」
ドンヘは来た時よりだいぶ血色が良くなった気がする。
その顔で自信ありげに頷くから、なんのことかと俺は首を傾げた。
「後でもっと、いっぱいイカせてあげるからね?」
にっーこりと微笑んで、ドンヘはとんでもないことを言う。
言葉の行き違いに気づいて、俺は頭が沸騰した。
「・・・ばかじゃねーの?!」
「うわあああ」
思わず手元にあったおしぼりを投げつけた。
びっくりしたドンヘが空のお椀を落として派手な音がする。
「ご、ごめんなさい!!」
焦って日本語で言うのを忘れたけど、着物を綺麗に着たお姉さんは黙って笑ってくれた。
割れなくて良かった・・・
とはいえ、なんか多方面から恥ずかしい。
「痛い、痛いよー」
お姉さんに見えないように、テーブルの下でドンヘの太ももを抓ってやった。
腹いせくらいさせてよね。
言葉が違うからってなにを言ってもいいわけじゃないんだから。