ボーナストラック ※
「密着取材!!」
「うん、うん」
「これがかの有名な、ウニョクさんの可愛らしーお尻です!!」
「そーだねー」
ニッコニコでビデオカメラを俺のお尻にくっつけてるこの人。
そうです、これがファンの間で『みんなの彼氏』と名高いイ・ドンヘ氏です。
日本向けのDVDで持たせてもらったのが、いたく気に入ってしまったらしく。
あれ以来何度も、スタッフの空いてるサブカメラを借りてくる。
コンパクトだけどそこそこ高そうなカメラを手に、上機嫌で俺の部屋にやってきた。
もらってきたお弁当で食レポまでさせられて、俺は正直もう疲れました。
「ウニョクさん、その肌を保つ秘訣はなんですか?」
「・・・・・・いっぱい食べていっぱい寝る」
「そーですか。恋人のドンヘさんのおかげじゃないんですか?」
「なんでドンヘのおかげなんだよ」
「恋をすると綺麗になるって言うでしょ?」
はあ・・・
反論すんのもめんどくさい。
曖昧に笑っててきとーにレンズを見たら、ドンヘはカメラの向こうでニコーっと笑う。
「笑顔が可愛いですねウニョクさん」
そんなことを言いながら、ガサゴソ、カメラを鏡台のところに設置し始めた。
「もーちょい、こっちかなー・・・よし、おっけ」
満足そうな顔をして、ベッドに腰掛けてる俺の隣にボスンと座った。
「ホラ、挨拶するよー」
こっちを向いたカメラに向かって、ドンヘは俺たちのお決まりのポーズを取っている。
「えー、いいよ。ふたりしかいないし」
「じゃあウネです、でいいじゃん。あ、ホントはヘウンだけどね?」
「どっちでもいいけど、やんない」
「ヒョク冷たい・・・」
冷たくないよ。
どれだけ付き合ってあげたと思ってんの。
リョウクあたりなら、最初の2~3分で飽きてるトコロだよ。
しゅんとなったドンヘの頭をガシガシ撫でた。
こういう仕草はもう、条件反射みたいなもんで。
「ヒョク・・・俺に優しくしてよ・・・」
ドンヘが限りなく俺に甘えるのも日常茶飯事。
俺の目をじっと見つめたあと、ドンヘはきゅうっと俺を抱きしめた。
「あったかいね、ヒョクチェは」
「そう? 平熱はお前の方が高いでしょ」
「ん・・・、でも、あったかいよ。きもちい・・・」
幸せを詰め込んだ声を出されて、ある意味居心地が悪くなる。
もう、離れてよ。
体温がまた1℃上がっちゃう前に。
「俺も、あったかくして?」
「んッ・・ぅ・・・」
ドンヘの囁きが耳元で甘く響いたと思ったら、素早く唇を奪われてた。
「ふ・・あ・・・」
「ん、ん・・・ッ」
ちゅるちゅると舌を絡めてはほどく。
そんな動きが繰り返されて、だんだん空気がとろんとしてきた。
たまに音を立てて啜られると、肩がどうしても跳ねてしまう。
「・・・ヒョクの唇、おいしい」
ぼやけるくらい目の前でそんな言葉がつくられる。
すこしだけほっぺを上気させて、ドンヘは俺を後ろから抱え込むように体勢を変える。
首の後ろに息がかかったら、なんだかゾクゾクして。
「あ・・・ぅッ・・」
ブレーキをかけるヒマもなく、鼻にかかる声が漏れた。
「ヒョク・・・」
「んーッ、あ、ちょ・・・とぉ・・」
「かわい・・・、もっと・・触りたくなっちゃう」
「や・・・、待って・・・」
慣れた様子で俺の体を刺激していくドンヘ。
意識より先にどんどん加速してくから、思わず慌ててしまった。
あっという間に落ち着けなくなる。
なんかウズウズしちゃって。
「ねえ・・・」
「な、に?・・あッ!!・・う・・」
「カメラ・・・見て?」
「・・・?!・・」
はっとして顔を上げた。
そうだった・・・、さっきからずっとカメラ・・・
どうしよう・・・ずっと撮ってたんじゃん!!
撮影中なのを示す赤いランプを確認して、一気に混乱した。
「このまま撮ろうよ」
「や!!・・・絶対、やだ!!」
冗談じゃないよ!!
ただでさえ恥ずかしくって仕方ないのに、そんなの・・・・
どう考えてもムリ!!
「撮ってあげよっかって、前言ったじゃん」
「そん時もやだって、言ったじゃん!!」
「そうだっけ? ・・・いいじゃん、誰にも見せないから」
「当たり前、でしょ?! ・・・・・あ・・ッ、ばか!!」
器用に潜り込んでた指が、足の付け根を撫でて思わず息を飲む。
必死に抵抗してるつもりなのに、功を奏さない。
もう力が抜けちゃってるのか、思い通りにいかなくて。
「お願いヒョクチェ。ひとりで寂しい時とかに、ヒョクの姿が見たいの」
「さっきまでのじゃ、ダメなの? こんな場面・・・イヤだ」
「さっきまでのも要るけど・・・なんてゆーか、ボーナストラック的な?」
「意・・味、わか・・な・・・い、やだって・・ばぁ!!」
矛盾してるって言われたらそれまでなくらい、体だけ暴走する。
だって一度アクセルかかっちゃったから。
ドンヘの指先は、じわじわ確信を付くような動きに変わってく。
口論をしていてもうまく隙をついて。
「でも、俺もう止まれないもん」
「もん、じゃない・・・ッ・・あ、こらー!!」
「ヒョクも止まれなくしてあげる」
「んあッ!!・・いや・・、やーッ」
「・・・やだって言われながらすんのも、ちょっと萌えるかも」
キュヒョナみたいなコト言うなよ。
俺はソンミナヒョンにはなれないぞ?!
あんなに素直に可愛く、しかも色気を出すなんて技、ヒョンにしか出来ない。
そんなことを考えている間に、くっと弱いトコを握りこまれた。
今や状況としては、ドンヘの方が正しい。
止まれないのは、俺も同じ。
・・・・・・っていうか、そうされちゃったワケで俺の意思じゃないからな!!
「言っててもいいよ、やだって」
「俺で・・遊ぶ、なッ・・・!!」
「遊んでないよ。感じて欲しいだけ」
「じゃあカメラ・・・止めて・・・よッ」
「それはお断りー」
もう!!
なんでこんなに的確に触るんだよ。
アタマのなかがなんだかとろとろしてきた。
冷静でいれなくなる予感でいっぱい。
「可愛いんだもん、記録・・・させて?」
「・・ふあッ・・あ!!」
甘えるような声を出すくせに、俺の肩に噛み付いたドンヘ。
ピクンと震えた俺は、その拍子に設置されたカメラのレンズと目があった。
電池でも切れたらいいのに。
恨めしい機械に対して、脳内で文句を撒き散らした。
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