ひとりよりふたり ※
ベッドボードに背中を預けて、俺はドンヘの声を聞いている。
『脱いだ?』
「うん・・・、足が寒いよ」
ドンヘは俺の短パンだけを脱ぐように指示をした。
丈の長いシャツが素足を滑って落ち着かない。
『声、聞かせてね?』
「え・・あ、うん」
『どっちの手、使う?』
「・・・・・・右」
『右ね。じゃあ、始めようか。体触ってごらん』
受話口を当ててる左耳があっつい。
その熱でなんかおかしくなって、言われるまま手を動かしてしまう。
『ゆっくり・・ね、滑らして・・・そのまま右の乳首、擦って』
「・・・あ!!・・・んッ」
なにもしてないのに肌が、やけに敏感になってる。
すでにぷくっとしてたその突起を、指先が撫でていっただけで声を上げてしまった。
『いいんだ? もうピンピンしてるでしょ?』
「う・・あッ、んんッ」
『ヒョク、どうなの? 教えて?』
「う・・ん・・・、してる・・・」
普段はなんかの拍子にそこに触れたって、なんともないのに。
ドンヘにそうされた時と、おんなじように気持ちいい。
『擦り合わせるみたいにしてみて。くりくりって』
「あーッ・・ん、んうー」
なんでこんななの、俺。
自分でこんなトコ抓って、感じちゃってる。
『ヒョクはねぇ、ちょっとだけど左の方がいっぱい感じるんだよ』
ドンヘの声が鼓膜に染み入る。
そんなこと、教えてくれなくたっていいよ。
『だから、左も触って? さっきみたいにしてみて』
「んあッ!!・・んーッ!!」
うー・・・、ホントに、左の方がヤバイ。
胸を触ってるのに、腰がびくびく跳ねてしまう。
『ムズムズしてこない? 下の方』
「んッ、ふ・・・わかんな・・・ッ」
『だったら・・・確認、してみようか。ね?』
「う・・・うー」
ホントはわかんなくない。
もう結構早い段階で、下半身に溜まった違和感に気づいてる。
「・・・あッ?!」
確かめようと触れたら、ぴくんっと跳ねるその部分。
びっくりして手を引っ込めてしまった。
思ってたよりずっとすっごい反応してる。
『触ったの? どうなってたのヒョク?』
覗き込んでくるドンヘの顔が、記憶から見え隠れ。
実際そこにいたら、おでこでもつっついてやるところなんだけど。
ねえねえって何度も懲りずに聞いてくる声が、携帯から流れ続ける。
「・・・なんか・・・、触るだけで、ぴょんぴょん動いてる・・・」
仕方なく観察結果を口にした。
恐る恐る撫でるだけで、おっきく応えるんだ。
『・・・思い出しちゃった、その場面。すっごい、やらしー』
「う・・・」
残念ながら、反論はできない。
自分でちゃんと見たのは初めてだけど、なんて反応をするのって思う。
こんなの、いつもドンヘに見られてたのかな・・・
『ヒョクのが、よくなりたいって言ってるんだよ。してあげようね?』
「う・・・ん・・・」
『直接触ろうか。ね、きゅって握ってあげて』
「ん・・あ!!・・・あッ」
言われたようにすると途端に、熱が増した。
ドンヘより若干冷たい俺の手のひらに、どんどん温度が移っていく。
『ねえ、そこ・・いつも俺がどうやってしてるか、わかる?』
「え・・っと・・・ッ」
そうなんだ。
すっごいイイんだけど、ほんのすこしの違和感。
『中指を支えにして動かすの。先の方は優しく・・ね』
「ん・・んッ・・、よく・・わかんな・・・ッい・・」
今までドンヘにいっぱいされる中で、感覚としてはイヤというほど知ってるけど。
どんな風に握って、どれくらいの力で擦っているのか、俺は案外なんにも知らない。
届きそうで届かない快感に、目が回りそうになる。
『強くしすぎたらだめだよ。ヒョクってば敏感なんだから』
「んーッ、でも・・なんか・・・足りな・・いッ!!」
『足りないの? イケない?』
「ううん・・ッ、たぶん、イケるけど・・・でも・・でも・・・ッ」
一番のよさには、たどり着けない。
それでも解放だけはされたくて、勝手に手が動いた。
『だったら、イってよ、ヒョク。下から上に大きく擦りあげるの』
「ひ・・あ!!・・あーッ・・ん!!」
『そうすると、はじけそうになるでしょ? 我慢しないで』
「ん、うんッ、も・・くる・・きちゃうううッ」
強く閉じた瞼の裏が、一瞬ピンクに染まる。
ずんっと重たい程の性感が、意思とは関係なく腰を揺らした。
『ああ、イってるの、ヒョク? 可愛い・・・可愛いよ・・・』
「・・・ッ・・・ッ、ふ・・ぅ・・ッ」
そんなこと言うなよ、見えてないくせに。
頭を掠めていく文句は、唇を動かせない。
久々の吐精に、体はすっかり酔っちゃったみたいだ。
『・・・ヒョク・・・俺、もう・・・限界だよ・・・ほんっとに・・・』
「・・・・・・うん」
俺もだよ。
射精はできたけど、全然・・・満足はできてない。
ドンヘの温度が恋しくて恋しくて、涙が出てきた。
『・・・・・・駄目だ・・ちょっと・・・待っ・・・』
ドンヘの声がすこし遠くなったかと思うと、ガサガサ電話の向こうで音がして。
よくわからなかったんだけど、問いかけるヒマもなく通話が突然切れた。
「・・・・・・なんだよ・・・ドンヘのやつ・・・」
ツーツー。
冷たい電子音にかき消される俺のつぶやき。
突如訪れた状況に戸惑って、タオルでガシガシと自分を拭く。
涙はなんとなくぬぐう気になれなくて、足を投げ出してしばらくぼーっとした。
ガチャン!!・・・バタバタ・・・
玄関の方で騒がしい音がする。
誰か帰ってきたのかな・・・11階メンバーにしちゃ忙しないけど。
考えるでもなく考えていると、投げ出してた携帯が鳴りだした。
・・・・・・誰ー?
緩慢な動きで画面を見る。
・・・・・・ドンヘ?
急に切っちゃったくせに、どうしたの。
「なあにー?」
多少ちからが抜けたまんま電話に出る。
『ヒョク・・・』
走ってきたみたいな息遣いに、俺の名前が載せられる。
あれ? でも心なしか・・・
受話口からの声と、もうひとつ聞こえる気がする。
「『開けて?』」
「・・・・・・え?」
やっぱり・・・
この部屋の扉、その外からもドンヘの声が聞こえてくる。
どういうこと?
そう思いながらも、俺はまだ倦怠感が残ってるはずの体を動かしていた。
カチャ。
鍵を外した途端、向こうからすごいスピードで扉が開いて。
次の瞬間、俺は抱きしめられた。
「・・・・・・ドンヘ・・・」
包まれたかった体温が、その名前を呼ばせる。
なんでいるのとか、さっきまでどこにいたのとか。
色んな聞きたいことは、一旦まとめて胸の奥。
ほっぺに留まってた涙はぜんぶ、ドンヘのシャツに吸い込まれていった。