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君が見るセカイ ※



「ラセック・・・ですか?」
「そう、そっちの方が合ってるだろうって」
病院から帰った俺に、キュヒョナがコーヒーを淹れてくれた。
粉末のミルクと砂糖をいっぱい混ぜながら答える。

「痛いらしいから、それだけはイヤだったんだけど・・・しょーがない・・・」
「そうなんですか」

視力矯正手術を受けよう!と思って眼科に相談に行ったんだけど。
俺の目の性質とやってる仕事から言って、手軽な方のレーシックは向かないそうで。

痛いのはすっごいイヤだ。
でも耐久性とか、将来性とか、そういう言葉をはねのける勇気はない。
頑張るしかないのかなあ・・・
って、考えながら帰ってきたところだったんだ。

「・・・ヒョン」
「なあに?・・・あ、あっつ!!」
たくさんかき混ぜたハズなのにコーヒーが熱い。
舌を出して手で一生懸命扇いでいると、俺を呼んだキュヒョナはそのまま見つめてきた。

「どうして視力矯正しようと思ったんですか?」
「・・・え?・・・あ、あの・・・」
聞かれて思わず言いよどんでしまった。

「今まであんまり不満とか言ってなかったじゃないですか」
「う、うん。・・・まあ・・・」
「注射だけであんな騒ぐヒョンが、手術を決心するなんて・・・なにかきっかけがあったんですか?」
「う・・・・・・」

うつむいて両手で持ったマグカップを見つめる。
カフェオレ色の水面に映る俺の顔。
困ってるのが丸分かりだよ・・・我ながら。

だって・・・理由なんて、言えないよ。

ドンヘばっか、ずるい。
至近距離じゃなきゃ俺は見れないのに、ドンヘはいつもあんな風に俺を見てたなんて。
同じ世界を、感じたい。
ひとつになってるのに見えるものが違うのは、なんだか不公平だよ。

だけど、そんなの幼稚でしょ?
キュヒョナにそんなこと白状したら、からかわれるに決まってる。

「ヒョクチェヒョーン?」
「あ!・・はい!!」
「はいじゃないですよ。黙っちゃって、どうしました?」
「な・・なんでもない・・・。きっかけ・・・きっかけね!! えっと・・・」

一瞬のつもりが時間は動いていたらしい。
覗き込まれて我にかえる。
早くなんか言わないと、この子相手には話を逸らせない。

「あ、ほら。嵐の夜とか、見えないと怖いし・・・」
「嵐ですか・・・」
「チョコが来てて急に乗っかられたりとか・・さ、びっくりするし・・・」
「ふうん・・・」

な、なんだよ・・・
俺を通り越して未来でも見てるみたい。
キュヒョナはそんな風に思わせる目で俺を射抜く。

「とにかく!! 色々不便なだけだよッ」
勢いで言い切ってカップの中身を飲み込んだ。
う・・・熱いの忘れてた。
いつまで冷めないんだよ、もう!!
罪のないカフェオレに当たってみたり。

「色々・・・ですね。なるほど・・・」
「そ、だよ・・・。視力は、いいほうがいいじゃんか」
そんな俺に、キュヒョナはおかしそうに含み笑い。
俺は居心地が悪い。
なんとなく見透かされてるみたいで。

「別にいじめたい訳じゃないんで、まあ納得してあげますよ」
「・・・・うん」
結局くすくす笑って、キュヒョナは椅子から立ち上がる。
随分な上から目線だけど、墓穴は掘りたくないから。
俺はただ頷いて、湯気をたてる水面にふうふう息を吹きかける。

お願いもう、ほっといて。
コーヒー淹れてもらっといてなんだけど。

「・・・ヒョクチェヒョン」
「んー?」
自分のカップを濯いでおとなしく部屋に帰るかと思ったら。
キュヒョナは自室のドアノブを掴んだまま俺を呼んだ。

「急に乗っかるのは愛犬だけなんでしょうか、ね?」
「・・・ぐッ、けほッ」
「ふふ、おやすみなさい」
やっと飲める温度になったカフェオレが喉に詰まる。
ひらひら手を振ってキュヒョナは部屋に消えていく。

・・・やっぱりバレてる。
キュヒョナ相手にシラを切るのは俺には難しい。

うー、悔しい・・・
悔しいけど、まあいいことにするんだ。
ドンヘにさえ理由がバレなければ。

2週間後に生まれ変わることになる瞳。
それを守っている瞼を、人差し指でするっと撫でた。



End....
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