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君が見るセカイ ※



するする、衣擦れの音が微かに鼓膜を揺らす。
シーツが肌を滑る。
・・・誰?
半分だけ目覚めた意識が探る状況。

背中に触れるのは、若干俺より高い体温。
落ち着く位置を探してもぞもぞしてる。

・・・・・・ドンヘかな、やっぱ。
ドラマとか入って忙しいと、たまにこうなる。
俺がもう眠っていても、ベッドに勝手に潜り込むんだ。

俺だってさっき眠ったばっかだと思うのに・・・
でも、コンタクトレンズを外してしまってるから、壁掛けの時計を読むことはできない。
かろうじて夜が明けてはいないことがわかるだけ。

「・・・ふぅ・・・」
後ろからするっと回される腕。
腰の窪みにやたらとしっくりフィットした。
満足したみたいに吐かれる息。

どうやら納得のいくポジションが取れたらしい。
よかったな、おやすみ。
声を出すのはめんどくさいから、心のなかで挨拶をして。

俺もなんだか安心して、まだすぐそこにある眠りの海にもう一度戻ろうとした。

「・・・・・・ヒョク」
ごくごくちいさな声に呼び戻される。
ああ、やっぱりドンヘじゃん。
まあ不思議なくらいの体温の馴染みでわかってたけど。

「すき・・・」
大事そうに紡がれた言葉。
俺はほとんど眠りながらも、ぽわんとほっぺがあったかくなった。
嬉しいけど、今ゆーなよ。
面と向かって言われても、恥かしくて困るけど。

「ほしい・・なー・・・」
きゅっと、さっきまでより一段階密着度が増したと思ったら、
「・・・・・・ッ・・」
かぷっと耳朶を噛まれた。
反射的にちょっとだけ震える体。

そしたら気を良くしたのか、あむあむとその唇が動いた。
回されていた手は腰のあたりを這い回る。

・・・くそう、応じてやるもんか。
さっきは不意打ちだったから反応しちゃったけど、絶対我慢してやる。
これ以上の反応がなければ、きっとつまんなくなってやめるだろう。
さすがのドンヘだって。

俺は一生懸命眠りだけを追いかけて、与えられる刺激を意識から逃した。

「・・・ぁ・・」
だけど、胸を探っている左手に乳首を弾かれて、ついほんのすこし声が漏れた。
だめだってば、流されちゃ。

「ん・・ん・・・」
ちょっと、ズルい・・・そーゆーの。
俺が息をついてしまう前に、ドンヘは切なそうにちいさく声を出した。
そんな風にされると触発されちゃう。

「よく・・なってよ、ヒョク」
「・・・ッ・・」
撫で回すだけだった右手が両足の間に入り込む。
そうなる気がしてすごく気を張っていたから、なんとか耐えた。

ほら俺寝てるでしょ?
早くお前も寝たらいいよ、疲れてるんだろうから。
触れてる部分から届くように祈って、ドンヘに語りかける。

「ふふ、ムダな努力・・するんだ」
なんだとー?
ムダとはなんだムダとは!!
俺は健全に睡眠を取ろうとしてるのに、なんてコトを言うの。

「あッ・・んぅ・・・んッ」
もう・・・俺のばか。
ムキになったせいで一瞬警戒が緩んだ。
その隙をつくみたいに、ねっとりそこを撫で上げられる。
急いで唇を噛んだけれど、ちょっとだけ遅かった。

「やっぱりここがいいんだ?」
くるくる遊んでる指先。
そんなコト聞かなくてももう、ドンヘのほうが知ってるでしょ。
ついそんな風に思って、それじゃ分が悪い・・・とか気づいた。

だって指先はいつの間にか服のなかに潜り込んでるし。
的確に送られてくる刺激。
ちょっとでも気を抜いたら、ドンヘにしがみついて腰を擦り付けちゃいそう。

「ねえ、ヒョク」
ドンヘは甘い息を吹き込んでくる。
「せっかく目閉じてるんなら、想像してごらん?」
な・・・なにを言い出すの・・・?

「目の前に誰かいるとしたらどーする? リョウクとか、きっとびっくりするだろうね」
「・・・ん・・・ゃ・・」
「ヒョン、何してるんですか? どーしてここ、こんなに腫れちゃったんですかー?って」
「・・・やだって・・ば・・」
ダメって必死に思ってるのに、言われた光景は俺の瞼の裏に映る。

「なんか、先のほうすごい濡れてます。どうしてこーなっちゃうんですかー?」
声マネすんなアホ俳優!!
胸の奥で文句を言ってみても、できあがったビジョンは消えてくれない。

「あ、すごいぴくぴくしてます。なんかバクハツしちゃいそうですよ」
ああ、リョウクのなにも知らなさそうなあの目に、ホントに映されたらどうしよう。
思っちゃいけないコトを思ってしまって、あっという間に限界が訪れた。

「あぅッ!! や・・、離・・して!!」
イッちゃうトコなんて、ドンヘ以外に見せられるワケない。
だから絶対ガマンしなきゃって、思えば思うほど恐ろしく気持ちよくなる。
お願い・・・見ないで・・・
仮想と現実が混じり合ったら、残酷なくらい相乗効果しか生まなかった。

「ヒョク、ガマンしないで」
「・・ッ!!・・ア!!・・んんーーッ!!」
声色を戻したドンヘに言葉をそそぎ込まれた瞬間、強烈なほどの快感が駆け上がってきた。
脊椎を這う震えが、一気に首の後ろから抜けていく。
びゅくびゅくと勢いよく放たれる熱い粘液。

「いい子。ちゃんと、イケたね」
「ああー、あッ、あ・・・あ・・・」
抑え込んでいた反動でいつもの何倍もよくって、俺は口を閉じれない。
唇の端からこぼれ落ちる唾液に身震いした。

その動きにつられて、ぎゅっと閉じていた瞼が開く。
だけど、コンタクトレンズも眼鏡も通さない俺の視界なんて、なんの輪郭も捉えられない。
ぽわぽわと広がる世界のなかに、誰もいない保証がない。

急に怖くなって涙が溢れた。

「ヒョク? ・・・どうしたの・・?」
「・・う・・っく・・・」
「泣いてるの? ねえ、どっか痛かった?」
ふるふると頭を振る。
ドンヘはひょいっと俺をまたいで位置を変えた。
目の前に現れる心配そうな顔。

「ゴメン、なんかイヤだったの?」
これ以上ないくらい眉が下がってる。
離れると見えない分、ほんの近くにあるものは裸眼の方がよく見える。

「イヤっていうか・・・見えなくて、怖かった・・・の」
「見えない? あ、そっか・・・」
俺が素だと目悪いの、忘れてただろ。

「じゃあ、俺でいっぱいにして? 世界を」
ドンヘは歌の歌詞みたいなことを言って、俺を抱きしめた。


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