このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Lips



エレベーターを降りたところで立ち尽くしてしまった僕の前に、キュヒョナが早足でやってきた。
かと思うと突然、肩と後頭部の髪を掴まれる。
「きゅひょ・・・ッ!!・・・・」
名前を呼ぶために開いた唇に、前触れもなく噛みつかれた。
ちょっと・・・! ここホテルの廊下だよ?!

「んッ・・んんーッ!」
言葉なんて作れないのは分かってるけど、必死にもがいてみた。
しばらく離してくれないかとも思ったけど、案外あっさり解放してくれた。

「こ、んなトコで!・・誰かに見られたらどーすんの?!」
文句を言わずにはいられない。
息を整える暇もなく訴えたら、見下ろす視線に射抜かれた。
「ソンミナヒョンに触らないと、おかしくなりそうなんです」
な、なにそれ・・・いや、それより!
「馬鹿! と、とにかくこっち!」
言葉の最後にはもう、顎を掬い上げようとするから焦った。
必死に手を引っ張って、自分の部屋まで連れて行く。




ダン!
「痛ッ・・・」
扉が閉じた途端、その場に背中を押し付けられた。
「なんでヒチョルヒョンにあんなこと、許すんですか?」
僕の背丈に合わせて少しかがんだキュヒョナは、真正面から見据えてきた。
「別に・・・許した訳じゃ・・・」
「ソンミナヒョンから誘ったじゃないですか」
「ち、違ッ・・・んぅ!」

またしても呼吸と言葉を奪われる。
めちゃくちゃなくらい舐めまわされて、一瞬状況を忘れそうになった。
かちかち、角度を変える度に歯が当たって音を立てる。
「ん・・・ふッ・・」
酸素が足りなくなってキュヒョナの胸を叩いても、がっちり抱えられてしまってる。
苦しい・・・
自然と涙が溢れて、頬を幾筋も流れ落ちた。

「ソンミナ・・・答えて・・・」
会話遮ったのはそっちじゃん・・・
「や、だ、キュヒョナ・・・」
酸欠で頭がくらくらするよ。

「嫌じゃないでしょ? ヒョンは俺のものでしょ?」
・・・・ものって、何?
代わりでもいいけど、そんな扱いはされたくない。
「僕は・・・もの、じゃないよ・・・・・・・もぅ、ヤダ・・・」
一気に辛くなってしまった。
急に押し寄せる悲しみに力が抜けて、ずるずるとしゃがみこむ。

「・・・ヒョン?」
目の前に座り込んだらしい距離からキュヒョナの声がする。
今は、声を聞いてるのも辛い。
・・・・もう、やっぱりこんな関係は駄目だ。
これ以上心に嘘はついてられない。

「そんなことに、・・・怒らなくていいよ・・・」
膝に顔を埋めたまま、ぼそぼそ呟いた。
「そんなことじゃないです、俺にとっては」
やけにキッパリと即答するから、なんだかヤケな気持ちになってきた。
「なんで? 僕よりリョウクにかまってあげたらいいじゃん」
変に所有欲なんて持たないでよ。
その分ホントに好きな人に、少しずつでも近づいたらいい。

でも・・・
「リョウク? ・・・どうしてですか?」
キュヒョナは珍しく意表をつかれたような声を出した。
思わず顔を上げる。
前髪が触れるような位置にいたのでびっくりして、溜まっていた涙がまたひとつ零れた。

「・・・・リョウクが好きなんでしょ? もう僕を代わりみたいにするの・・・やめなよ」
それでもいいとずっと思っていたけど・・・やっぱり限界かもしれない。
大好きなリョウクを、このままだとうっかり恨んでしまうこともあるかもしれない。
そう思うと余計に悲しくなった。

「ソンミナ」
なんでそんな風に呼ぶの。
肩を掴まれて視線を捕まえられた。

「リョウクは友達で仲間です。・・・そんな風に思ってたんですか・・・」
脱力が見えるような声でキュヒョナは言った。
「だって、すごい仲いいし、よく触ってるし・・・」
否定されたことに動揺して、勝手に口が動いてる。

「同い年で気が楽なだけで、ヒョンが代わりだなんてむしろヒョンの代わりが欲しいくらいだし、とにかくまあ要するに」
少し焦ったみたいに早口で言ったあと、キュヒョナはひと呼吸置いた。
「な、に?」
「好きです。俺が欲しいのはソンミナヒョンだけです」

「う、そ・・・」
どっくん。
心臓が一度、跳ねてから走り出す。
「嘘な訳ないでしょう。なんで俺がこんなに欲しがるのか考えませんでした?」
「リョウク、には手出せないから・・・かなって」
混乱したまま喋ってるもんだから、言わなくていいことまで言ってしまった。

「・・・俺を一体なんだと思ってるんですか」
ああ、溜め息つかせちゃった・・・
違うの、そうじゃなくて。

「好きって・・・思ってるよ」
もう言ってもいいんだよね?
ずっとしまっておくつもりの言葉だったから、戸惑いの方が大きいんだけど。
「え?」
見開かれた大きな瞳に語りかける。
「たとえ代わりでもいいから、抱いてほしかった」
「え、え・・・?」

僕の言葉が心底予想外だったらしいキュヒョナは、固まってしまった。
「・・・ホントは僕、そんなに経験豊富じゃないよ」
なんだか、笑みが零れてた。
まだ涙と一緒にいるけれど。

「無理、させたんですか・・・?」
珍しくキュヒョナの声が少し震えてる。
お互いに誤解してたんだもんね・・・僕と同じだけキュヒョナも動揺してるのかな。
そう思うと愛しさが倍になった気がした。

「ちょっと、ね。恥ずかしかったけど・・・」
こんなこと言う方が恥ずかしいのに、駄目だ・・・冷静じゃない僕。
頬があっつい。
と思ったらその頬を大きな手で包まれた。

「ホントのソンミナヒョンを見せてください」
「あ、うわぁ!」
真正面から早口でそう言ったかと思うと、次の瞬間には抱き上げられてた。

シーツの海に投げ込まれながら、今夜は出来る限り素直になろうと決めた。



 
End...
5/5ページ
スキ