このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Lips

【SungMin side】



「リョウクー? だいじょぶ?」
「・・・ッ・・は、い・・・」
答えるそばからぽろっと一粒流れるのを、ぬぐってあげた。
可愛い弟が泣いてるのなら慰めてはあげたいけど・・・
実のところ、あんまり詳しい話を聞くのも怖い半面があった。

「いじめてませんってば」
「無意識だ! 無意識でいじめてるんだ!」
「マジか! こえー、うちのマンネこえー」
「ちがいますって」
リョウクの心配してたはずのヒョクチェとドンヘは、キュヒョナをからかうほうが楽しくなってしまったみたい。
盗み見るキュヒョナの横顔。
涼しい表情でヒョンふたりをかわしてる。

その視線がふと、こっちを向いた。
「!!」
弾かれるように僕は目を逸らす。
気づかれた?
いや、リョウクを心配で見てるんだよきっと。
いつだって、そうだもの。

「ソンミナ、ヒョン」
僕の手に大人しく撫でられていたリョウクが小さく呼んだ。
「ん? なんか飲む? 買ってこようか」
「だ、いじょぶです。それより、キュヒョナのとこ・・・」
リョウクの口からその名前を聞くと一瞬緊張してしまう。
「うん、行く?」
小さな体を起こしてあげようとしたら、ふるふるとかぶりを振った。
「ヒョンが、行ってください」
「・・・・・・・・なんで僕?」
「え、と、多分、話したいと思うから」

・・・・・・・?
キュヒョナが僕と?

「別に、そんなコトないんじゃない? リョウクが行ってあげたほうがいいよ」
「ソンミナヒョンじゃなきゃ、駄目です!」
急にリョウクは立ち上がって、僕をまっすぐに見て言った。
「わ、かったよ・・・」
意味は分からないけど、なんだか一生懸命な様子に負けて頷いてしまった。




「俺、いちご牛乳飲みたい」
「買いに行こ! ほら、リョウクもおいで!!」
「はい」
ヒョクチェのワガママにドンヘが乗って、リョウクも嵐のように連れて行かれた。
ウネコンビなりに、リョウクを元気づけようとしてるみたいだ。

しかし当の本人は扉が閉まる前に、しっかり念を押すような目をしていった。
・・・話してみるしかないのかな。

他のメンバーを見渡しても、それぞれ好きなコトをしてこっちに興味なさそうだし。

「・・・・キュヒョナ」
「はい」
隣に腰掛けても、画面から目は離さないで答える。
いつものことで誰にでもそうだし、何度言っても直らない。

「リョウクとなんか、あったの?」
「・・・・・・・なんでもないです」
一度なにか言いかけて、すぐやめて、それだけ言う。
気になるのはこういう態度。
やっぱり、体だけ重ねたってなにも変わらないよね。
期待しなかったといえば嘘になる自分がイヤだ。

「そっか」
「・・・・・はい」
出来るだけなんでもなく聞こえるように呟いた。
また、ちょっと迷うような間をおいてキュヒョナは返事だけをする。
それだけ。
あとは会話もなく、小さなゲーム音を聞いていた。




                    *


あの夜。
僕はホントは心臓が飛び出しそうだったんだ。
キュヒョナが僕にでも欲情できると知ったら、いてもたってもいられなくなって。
正常な判断は完全に迷子。
誘惑にホントに乗ってくれるのか、途中で想い人を思い出してしまうんじゃないか。
避けられる不安と触れられる幸福に、交互に惑わされて我を忘れた。

「ソ、ンミナ・・・」
名前を呼ばれるだけで震えるコトに気づかれないように、体をくねらせてむしろ奥へと誘った。
「・・・ッ・・あ!」
狭い粘膜がこじ開けられて、息が詰まりそう。
ああ、なんで経験豊富っぽいコト言っちゃったんだろう。
でも、気が向いただけなんだよってふりをするにはそうしなくちゃ。
ホンキだって知られたら、重荷にしかならないのは分かってる。

「ヒョン、い・・いですか・・・?」
囁きに耳を撫でられて、必死で頷いた。
ホントは痛みが半分を占めているけど、欲しかった熱を思えば快感に変換できる。

「・・キュヒョ、ナぁ・・・」
名前を呼ぶ声に涙が混じってしまうけど・・・知らないでいて。
ホントは焦がれて仕方ない心。
想いを叫んでしまいそうな喉を制御して、甘い悲鳴にすり替えた。



                    *


「・・・ッ・・」
回されていた腕をゆっくりと解いて、体を起こしたら鈍痛が響いた。
いつの間に眠ったんだろう。
というより眠ったかどうかもあやしいかな。
どちらかというと気を失ったと言った方が正しいのかも。

目を覚ましたらそこに想い人の寝顔があったので、しばらくは見つめていた。
でも、すぐにやめた。
恋人同士になったわけじゃない。
何もしないで見ていたら切なくなるだけだから。
熱くなりかける目頭を押さえて、シャツを羽織ってリビングに出た。



まだそこそこ早い時間だから他のみんなは寝てるかと思ったら、
「ソンミナヒョン! おはようございます」
元気な声に挨拶されてびっくりした。
フランスパンを抱えたリョウクが、朝に似合う爽やかな笑顔を向けていてくれた。
「お、はよ」
彼に比べてまだ濃厚な夜の気配を纏ったような自分が気になって、声が重くなってしまった。

「ヒョン、元気ない? 大丈夫?」
「・・・うん、だいじょぶ・・・」
僕は普段寝起きはいい方なので、心配してくれてるんだろうな。
リョウクのことは大好きで、こんなあったかい優しさはすごく嬉しい。
でも、同時に胸がちょっとだけチクっと痛んだ。

「ソンミナヒョン、チョコレート好きですよね?」
小首をかしげてそう聞いてくる。
「うん、好き、だよ」
甘いものはなんでも好き。
「ん、じゃあちょっとだけ待っててください!」
朝の日差しに負けない澄んだ笑顔でそう言って、パンの匂いとともにキッチンへ向かう。

「リョウクー、その間シャワー・・・浴びてくるね」
せめて色々と洗い流したら、少しはこの気持ちもマシになるかもしれない。
「はあい! いってらっしゃいヒョン」
わざわざキッチンから顔を出して手を振ってくれたから、少し笑顔になれた。



「・・・・・・?」
軽くシャワーを浴びて戻ってきたら、部屋中に甘くていい香りが漂っていた。
ココア?
「ヒョン! ちょうどできたよー」
小さな鍋をポッドみたいなのにセットしながらリョウクが笑う。
テーブルの上にはフルーツやマシュマロや小さく切ったフランスパン。
なんだっけ、これって・・・
「・・・チョコレートフォンデュ?」
こないだテレビでやってて、ふたりでおいしそうって話してたんだ。

「正解です! うろおぼえだったんだけど、できたー」
ぱちぱち手を叩いて、嬉しそうにしている。
・・・・・・・・僕を元気づけるために作ってくれたんだよね?
なんて優しくて可愛い。
「ありがとリョウク、大好き」
いろんな意味で涙が出そうになって、濡れた髪のまま彼に抱きついた。
「僕もです、ヒョン」
きゅっと抱き返してくれたので、涙の意味は嬉しさの割合が増えたかもしれない。



我ながら単純かなと思うけど、甘くとろけるチョコレートは僕をすっかり元気にさせてくれた。
マシュマロってちょっと焼くとおいしいよねーなんて話題で盛り上がっていた時、背後のドアが開く音がした。
僕らの部屋だ。
「あ! キュヒョナ、おはよ」
「うん、おはよう」
僕の斜め前にいるリョウクが手を振る。
内心、すごく緊張していた。
普通にしなきゃ・・・できるかな・・・

「おはようございます」
こっそり息を飲んでから、
「うん、おはよー」
いつもの自分に出来るだけ近く見えるように答えた。

キュヒョナもいつも通りに見える。
ってことは後悔とかはしてないのかな。
それともリョウクがいるから?

仲良さげに話し始めたふたりを盗み見る。
やっぱりキュヒョナはリョウクといる時が一番自然。
にこやかになるわけではないんだけど、なんとなく安心しているような。

キュヒョナは、好き・・・なのかな、リョウクのこと。
そう思い始めてから、だいぶ経つ。
それは同時に、僕の想いがかなわないことも指していた。

・・・・・あ、まただ。
ぷくっとふくらませたリョウクのほっぺたを、キュヒョナがつついてる。
こんな触り方をよく見る。
体を触ることはほぼないのに、顔を触ることはすごく多い。

多分だけど、・・・手を出せないからなんじゃないかと、思ってる。
セックスどころか、恋愛にさえあまり興味がなさそうなリョウク。
僕がもし彼を好きでも、きっと汚せない。
そう思わせる空気を、リョウクは放っている気がする。

あ、危ない。
忙しい思考回路に任せて見つめすぎてしまったかも。
キュヒョナがこっちを向く気配がしたので、一瞬早く目を逸らした。
今見つめあったら、僕のこんな中身が見えてしまいそうで怖い。

僕は、体だけ知ることができたらそれでもいいよ。
リョウクに触れられない切なさを、僕で少しでも満たせるなら。
つながっている間だけはきっと、僕のことをたくさん考えてくれるでしょ?
たまに痛みが伴うようなキュヒョナの抱き方は、行為に溺れたい僕には都合がいい。
いっそこんな気持ちさえも、乱暴にして壊して欲しい。
心ごと欲しいなんて、苦しくなること忘れさせて。



                   *



「零さないで。できなければおしおきですよ?」
口いっぱいに広がる苦味にためらっていたらそんな風に言われて。
息を殺して嚥下したら、ニヤリとするキュヒョナ。
「次は・・・ほら、キレイにしてください」
「ん・・・くッ」
まだ充分に熱いそれを、唇に押し付けられたら・・・反射的に口を開けて受け入れてしまった。

初めて体を重ねてからもう一ヶ月。
お互い別の仕事が入ったりもするから、同室と言っても毎日一緒にいれるわけじゃない。
でも、同じ部屋で過ごす夜が来るたびにそうなっていた。
相変わらずキュヒョナはフルーツやスイーツのお土産を差し出してくれる。
そしてそれを食べている僕の口内から、いつも横取りしてはかき回した。
だから、甘い香りに塗れながら溺れていくのが常だった。

「ッ・・・ぐッ・・」
一心不乱に舌を動かしていたら、それはみるみる硬度を取り戻した。
そうなると先端が喉の粘膜に当たって苦しい。
自然とぼやけてくる視界。
でも、僕が泣くところを見たいらしいキュヒョナにとっては、むしろここからがハイライト。
どれだけ泣いても手を緩めないのはもう知ってる。

だったら、
「キュ、ヒョナぁ・・・ね、も・・入れて?」
いっそ甘えてしまった方がいい。
もっと欲しいと思ってもらえる仕草と声色ばかりが上手になった。
だけど、そんな僕をキュヒョナがどう思っているのかは、今でも知らない。

終わったら気絶するように眠ってしまうし、朝は意地でも先に起きてリビングに出ている。
寝顔なんて、切なくて見てられないもの。
甘いより、淫靡な空気の方が体に馴染んでしまった。



                   *



僕もいけなかったのかな。
煽るような顔は確かにしたかもしれない。
だけど・・・・・・・
ステージ上で、どれだけの視線に晒されてるか分からないのに、それはやりすぎじゃないですか?
ヒチョルヒョンの突然の行動に、内心動揺しながら控え室に向かっていた。

「ソンミナヒョン! ・・・だ、だいじょぶ?」
ヒョクチェが僕を見つけて駆け寄って来てくれた。
「・・・・別に今つきあってる人いないし、大丈夫だよ」
だってそれが事実。
もちろんびっくりはしたけど、心配してもらうようなコトじゃない。

ツアーの企画でやることになったバンド演奏の、僕はギターを担当していた。
間奏で絡みに来てくれたヒチョルヒョンに、冗談で唇を差し出したら奪われてしまった。
思いっきりディープに。
よくその後演奏を続けられたと思う。

「で、でも、あんな・・・」
ヒョクチェは自分がされたみたいにほっぺを赤くしている。
嬉しいけど、あんまり大げさにしないで。
勝手に好きなだけなのに、キュヒョナに罪悪感を感じてしまいそうになるのを、抑えてるんだ。

「ありがと、ほらもう行かなきゃ」
まだもごもごしているヒョクチェの頭を撫でて急かした。
残りの曲を全力で楽しんで、忘れてしまおう。
幸い、今夜のホテルは、僕は一人部屋。
キュヒョナと同じ部屋に帰るんじゃなければ、一日寝たら忘れられるはず。


・・・・・・・だったのに。
無事に打ち上げまで終えてホテルに帰ると、僕の部屋の扉に背中を預けたキュヒョナを見つけた。

4/5ページ
スキ