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Lips


トントントントン、机を指で叩く癖が出てしまう。
「うわあああああ」
「ちょっとおおおお、待ってえええ」
メンバーが揃いはじめた控え室に、はしゃぐ声が響いていた。

ソンミナヒョンとヒョクチェヒョンが手をつないでクルクル回って遊んでいる。
相変わらず、俺には思いもつかない遊び方をするな。
いつもの光景だけど、俺は落ち着かない気分でいた。
これがいつもの光景っていうのも問題な気がするけれど。

「わ、わ、早いってヒョクううう」
「楽しいいいい」
ぐるぐるぐるぐる。
すごいスピードになってきている。

このふたりはものすごく付き合いが長いし、本当に兄弟みたいなものだ。
いや・・・醸し出している空気は兄弟通り越して姉妹みたいにキャッキャしている。
そんな可愛らしい様子を、普段はそこそこ微笑ましく見ている俺なんだけど・・・

俺にちょこちょこ向けられる、リョウクの心配そうな視線。
別にヒョクチェヒョンには妬いたりしないよ?!って言いたくなる。
今にも立ち上がってそう叫んでしまいそうで・・・

「わー!! 俺もやるー!!」
ドンヘヒョンまで加わった。
「はぁ・・・・」
寝不足の耳には騒ぐ声が痛くて溜め息をついたら、リョウクはいつの間にか隣の席に来ていた。

「キュヒョナ・・・」
「なにも言うな」
「だって・・・」
なんでお前が妬いてるみたいな表情してんの。
ちょっと尖らせている口を人差し指で押してみた。
頼むから普通にして。

性欲とかと無縁そうな彼にはきっと、俺のこの感情なんて予想もつかないんだろう。
ただ片思いに悩んでいる、切ない男に見えるのか。
優しさゆえなのは分かっているし、昨日の言葉にも感謝はしている。
だけど、放っておいてほしい。
というか、世界が違う気がするから巻き込みたくないんだよ。

「でもほら、ソンミナヒョン、キュヒョナを見てるよ?」
「そんなわけないよ」
ゲームの電源を入れた俺の横で、リョウクはさかんに周りを気にしている。
「ヒョンが俺を見てくれるのは夜だけなの」
小声で付け足すと、切なそうな顔をした。
「・・・・・・・素直じゃないのはキュヒョナもなんだ」
素直になったところで、心まで受け入れてくれる保障はないじゃないか。
同じ部屋で過ごせるあの空気ごとなくすよりよっぽどマシだ。

「いいんだよ、俺はこのままでも」
「・・・・・・・」
起動したゲーム画面を操作しながら言ったら、リョウクは大人しくなった。
納得したかな。

しばらく画面に熱中していると、隣から鼻を啜る音が聞こえた。
ふと見るとリョウクは目に涙をいっぱい溜めている。
瞬きと一緒に粒になって零れ落ちた。
「え?! なんで泣くの!」
「だって・・・ッ・・なんか、寂しいこと、言うから・・・ッ」
・・・それは既に優しいのを通り越しているよね。

そんなにも感情移入してくれてしまうとは思わなかった。
多少引かれてもいいから、ありのまま話してしまおうか。
でも俺のこんな劣情を、彼は理解できるだろうか。
迷いながらも何も出来ずにいたら、さっきまで回っていた2人と目が合った。

「あれ! リョウク泣いてる!! どした?!」
「キュヒョナ何言ったんだよ!」
「いじめるなよマンネの癖にー」
「ほら、こっちおいでリョウガー」
この状況には俺が泣きたい。

ウネコンビが囃し立てるせいで、控え室中の人間に注目された。
どうしてこうなった!
もしかしてこれが、日ごろの行いってやつだろうか・・・

あっという間に俺の隣から連れ去られるリョウク。
その小さな体を引き受けたのはソンミナヒョンだった。


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