ねこのきもち ※
「おいしゅうございましたー」
「アホか・・・、もう・・それやめろよ・・・」
俺のお腹に向かってドンヘは頭を下げている。
どうやら、した後にそう言うのが気に入ってるらしい。
「だって可愛かったからあああ」
「こら・・・零れるだろ!!・・・って、ああほらー」
うわーっと抱きついてくるから、俺のお腹に乗っかっていたものが流れ落ちた。
「あーあ、ヒョクがいっぱい出すからー」
「ドンヘでしょ?!」
ドンヘがティッシュでがしがし拭いてくれながら、そんなやりとりをする。
ぶっちゃけ、どっちがどれだけ出したかなんてわかんないけど。
でも、拭いてもらうだけじゃ全然おっつかない。
汗もすごいからとりあえず、流してからまったりしたいんだけど・・・
「俺、シャワー浴びてくる」
「じゃあ俺も」
「ドンヘはシーツも拭いてから!! お前が零したんだから」
「えー」
とりあえずオーバーサイズの服でシッポを。
そこらへんにあったニット帽で耳を隠して、さっさとドンヘを置いてけぼりにした。
ドアを閉める前にちょっとだけ笑ってしまったのは内緒。
ちらっと見たらまた、お預けくらったワンちゃんの顔をしてて、思わず可愛いとか思っちゃったから。
「・・・ふー」
カラカラに喉が渇いていたから、まずキッチンで水を飲む。
一気に飲み干して息をついていたら、
「ヒョクチェヒョン」
「うわあ!!」
突然名前を呼ばれて飛び上がった。
音もなく開いた扉からキュヒョナが見ている。
気配消すの得意なヤツだな。
俺はよく驚かされていた。
「どこ行くんですか?」
「どこって・・・シャワー浴びるだけだけど・・・」
すたすた寄ってきながらそんなコトを聞いてくる。
「ニット帽かぶって、ですか?」
「え・・あ・・・、うん・・」
言われてみればおかしい。
頭を注視されて、思わず隠してる耳がぴくっと動いてしまった。
「なんか、俺に隠してます?」
「い、いや・・・べつに?」
さりげなく退路を絶たれている。
うー、どうしよう。
内心オロオロしてる俺の目の前まで、キュヒョナはあっという間に迫っていた。
「嘘ですね」
「わ!! ちょっと!!」
前触れもなくニット帽を剥ぎ取られる。
押さえる暇なんてどこにもなかった。
「・・・・・・ふーん。なるほど」
「なるほどってなんだよ?!」
「そういう趣味があったんですね」
「ちがーう!!」
当然遅すぎる上に隠れきらないけど、両手で耳を押さえてみる。
失敗したー。
ダッシュでバスルーム入っちゃえばよかった・・・
変に納得したような顔をしているキュヒョナに、せめて口だけでも対抗。
「ヒョクー! ちゃんとキレイにしたから・・俺・・・も・・・ってアレ?」
と、そこにドンヘが俺の部屋から能天気に出てきた。
床に落ちたニット帽。
耳を全然隠しきれてない俺の頭。
それを見ているキュヒョナの顔。
喋りながらドンヘの目線はその順番で動いていく。
そしてそのまま固まった。
といっても止まったのは表情と足だけ。
深くかぶったフードの中で、ドンヘの耳が動いてる。
「もしかしてドンヘヒョンもですか?」
「わあああ!!」
あ、と思った時にはドンヘもフードを取られていた。
ゲームの時とこーゆー時だけはコイツ素早いの。
言いふらしたりはしなさそうだけど、色々と厄介そうではあるヤツに見つかってしまった。
「あ、えっとね、今度俺がドラマで使う小道具でー、ちょっとヒョクにも試してもらったりしてー」
焦って矢継ぎ早に喋るドンヘ。
びっくりするくらい演技が下手。
この子確か俳優担当だったよね? 大丈夫か?
「はいはい」
どうしようもなくて俺がズレたコトを考えている間。
キュヒョナは呆れたように笑って、ぼふっとドンヘのフードを戻した。
「いつも楽しそうですね、ヒョンたちは」
「た、楽しくないよ!! べつに!!」
「うん、すっげ楽しい!!」
おかしそうにそう言われて、正反対の答えを同時に叫ぶ俺たち。
俺はムキになったからシッポの毛がぶわーっと逆立って。
ドンヘのシッポは嬉しそうに左右にバタンバタン揺れた。
「何事も楽しむのが大事ですからね」
キュヒョナはそんな俺たちを見比べて、にっこり品のいい笑顔を浮かべる。
言ってるのはいいコトだしその表情は綺麗なのに、なんだか怖い。
「俺も楽しみます。じゃあ」
俺が謎の胸騒ぎに震えていると、キュヒョナは出て来た時と同じくすーっと静かに自室に戻っていった。
なんなんだアイツ。
悪巧みとか、してないといいけど・・・
「見つかっちゃったねー」
ごちゃごちゃ脳内が忙しい俺の横でドンヘが笑う。
あんまり困った様子もない元気さが憎らしい。
「元はといえばお前が悪いんじゃんか!!」
「痛い痛いー!!」
ドンヘがミョーな願い事したのがそもそもの始まりなんだからな!!
思い知らせてやろうと、フードの上から思いっきり耳を抓ってやった。
「ヒョクチェー、ドンヘー? うるさいよー」
キュヒョナが消えた部屋から今度はソンミナヒョンの声がする。
「ご、ごめんなさい!!」
「わあ!!」
ヒョンにまで見られたら困るどころじゃない。
俺は慌てて謝りながら、ドンヘの首根っこを掴んでバスルームにまっしぐら。
心なしかネコ効果ですこし足も早くなってる気がした。