にたものどうし ※
キラキラして、眩しい。
ヒョクチェが手首に嵌めている、幅広の金のブレスレット。
ライトが当たる度に光を反射して、俺の目を痛くする。
まだ治んないんだ・・・あの傷。
季節柄、長袖を着せるワケにいかなかった、スタイリストの苦肉の策だろう。
傷の理由を聞かれたら、きっとほっぺを真っ赤にしたんだろうな。
そうやって俺を思い出したらいい。
いつだって。
「・・・ヒョク・・・」
リハーサル中で音楽はガンガンに流れてる。
聞こえるワケないけど小さく呼んでみた。
その名前を舌に乗せるのは、もう癖みたいなもんなんだ。
俺の念が飛んでったのか、ヒョクチェはちょっとこっちを振り向いた。
ほんの一瞬ですぐ逸らしちゃったけど。
あ、もう大丈夫。
直感が、そう言った。
あれから5日。
ヒョクチェの心はもう、俺を恋しがってる。
ソンミナヒョンの厳戒態勢は続いているけど、きっとそう。
だって俺がどれだけヒョクチェを見ていると思うの。
口では素直じゃないコトを言う彼の、本音を見抜く勘だけは鋭くなった。
会いたくないなんて言った手前、しかも傷の手当をしてくれたソンミナヒョンに、言えなくなってるだけ。
そうでしょ、ヒョク?
観客が入る前のステージの上で、一生懸命テレパシーを送る。
もう一度だけでも視線を捕まえたくて。
そうしていたらふいに、くんっと袖を引っ張られた。
「ドンヘヒョン、あの・・」
遠慮がちな高い声。
振り返るとリョウクが俺を見上げている。
「ヒョクチェヒョン、なんであんな元気ないんですか?」
「さあ、なんでだろうね。俺が一番知りたいんだけど」
こんなに愛してるのに、俺を避けて。
意地っ張り。
「ソンミナヒョンが、ヒョクチェヒョンにドンヘヒョンを会わせるなって・・・」
「うん、なんか御布令が出たらしいよ」
「でも僕は、ドンヘヒョンしかヒョクチェヒョンを元気にできないと思うんです」
「わかってんじゃん、お前」
小さな頭をがしがし撫でる。
「じゃあさ、協力してくんない?」
スタッフやメンバーたちから見えないように、ステージ袖までリョウクを引っ張る。
「協力?」
真っ黒な瞳が見上げてくる。
「うん。ソンミナヒョンがいない隙に、11階に引き入れてよ」
「あ・・・でも・・・」
「もしヒョンに見つかってもお前のことは言わない。約束するから」
指切りして覗き込んだら、リョウクは小さく頷いた。
*
『ソンミナヒョン、出かけました。多分、今夜は帰らないと思います』
「そう・・・よかった。間に合って」
『間に合う? なににですか?』
「いや、なんでもない。鍵開けといてね?」
2日後の夜。
リョウクからそんな電話がかかってきて俺は安堵する。
限界だった。
もう少しでも遅かったら、ヒョンをなんかで騙してでも乗り込むところだった。
実際、睡眠薬を常備してる棚を開けそうになったんだから。
靴を履くのももどかしいくらい焦って、俺は階下にたどり着く。
約束通り開錠されたドアを開けると、目の前にリョウクが立っている。
「なに? お迎え?」
「・・・ヒョン」
悲しそうな顔をして俺を見る。
「ご飯食べてくれませんでした。ヒョクチェヒョン・・・」
「そっか、心配だな。食いしん坊のハズなのにね」
「最近帰るとすぐ、部屋に篭っちゃうんです」
「俺がなんとかするから。安心して?」
「・・・はい」
狭い肩を叩いてやると、リョウクはふわっと微笑んだ。
寄せられた信頼は絶大だ。