にたものどうし ※
赤い・・・。
俯いたヒョクチェの手首が、出血してる。
それがいろんなトコを汚して、情事の後の匂いと混ざり合ってる。
「・・・ドンヘ」
ぐったりとベッドボードに凭れかかったヒョクチェの声。
カサカサに乾いて掠れてる。
「な・・に?」
覗き込もうとしても、髪に隠れて顔が見えない。
「・・・出てって」
かきあげようと手を伸ばしたら、触れる寸前でそんな呟きが聞こえた。
「え・・・?」
「出てって」
「・・・血、どうすんの・・?」
ヒョクチェは血を見るのが苦手で、自分で手当は出来ないはずだ。
「ソンミナヒョン呼んで。お前は帰って」
「でも・・・」
「帰れってば。俺に触らないで」
「・・ヒョク・・・」
静かな声なのに、ヒョクチェの怒りが頂点なのはよくわかる。
こうなってしまったら、一度は言うコトを聞くしかない。
「・・・わかった」
仕方なく俺は背中を向けた。
髪くらい撫でさせて欲しかったのに。
*
「理由は、あるわけ?」
その夜。
ソンミナヒョンが俺の部屋に乗り込んできた。
開口一番のその質問。
よくわからない。
「なにが?」
「ヒョクチェをあんな風に抱いた理由」
「ああ・・・」
ヒョクがどこまで話したかはわからないけど、あの手首の手当をしたんなら・・・
俺がなにをしたのか、だいたい予想がつくよね。
「ないよ」
「え?」
「理由はない」
「・・・なに・・それ」
なにって言われても・・・
特にヒョクチェが悪いコトをしたワケじゃない。
テレビの収録で女の人と仲良くしたってこと。
あと、びっくりするくらい淫乱になってること。
だけど、どっちも特に確信はないもの。
「不安なんだよ」
「なんで? ヒョクチェが浮気すると思うの?」
「そんな具体的なんじゃなくて、もう、なんか・・色々」
「それじゃわかんないよ」
無理もないと思う。
だって俺だってわかんない。
「俺が見てない時間があるだけで怖いの」
「そんな・・・」
困惑顔でソンミナヒョンはため息をつく。
「好きなんだもん。仕方ないじゃん」
「・・・でも、あのヒョクチェが裏切るワケないでしょ」
「うん、そう思う」
そんな性格じゃない。
馬鹿がつくほど正直だから。
俺から他のすべての目から隠れて、不義をはたらくなんて。
そんな器用なコトを、できるはずがない。
「だったら・・・なんで・・・」
なんでもなにも。
さっき言ったじゃん。
怖いんだ、知らないコトが。
「ヒョクを閉じ込めて俺以外誰にも会わせないようにするしか、ないんじゃない?」
「ドンヘ・・・」
2回目のため息。
ヒョンがそんな泣きそうな顔をするコトの方がわかんないよ。
「もういい? 俺ヒョクに会いたいんだけど」
「ダメだよ。まだ、会いたくないって言ってる」
「なんで?!」
会いたくないってなに?
血をださせたから?
それならいくらだって謝るよ。
俺がその倍、怪我をさせられたっていい。
「お前が疑ったりするからじゃないの?」
「疑ってるんじゃないよ、そう思って怖いだけ」
「そんなのヒョクチェにどうしろっていうの」
「だから、誰にも会わないしかないって・・・」
「ドンヘのわからず屋!!」
「そんなのヒョンの方でしょ?!」
横にあったクッションを投げつけられて、思わず大きな声が出る。
なんでもいいからヒョクに会いたい。
来月にはまた俺だけ違う仕事が入る。
思うように会えなくなる前に、今1秒だって離れたくないのに。
「いーから、反省して」
「痛い思いさせたのは謝るよ。だから会わせてよ」
「ダメだよ。メンバーみんなにも言ってあるからね」
「なんの権限があってヒョンがそんなコトするワケ?!」
「ヒョクチェの意思だもん。聞いてもらうよ」
ヒョンの目はもはや親みたいになってる。
俺よりもさらに長い時間を一緒に過ごしてきたせいか。
なにかあるとヒョクチェを守ろうとするのはソンミナヒョンだ。
そしてヒョクチェが頼るのも。
これが同じメンバーじゃなかったら、俺は敵として捉えかねない。
特別に許してるんだからね。
ヒョクチェに触れるのを。
「・・・わかったよ」
「謝ってたとは、言っとくから」
「うん・・・」
投げたクッションを直して、ソンミナヒョンは薄く笑って見せた。