chocolate ※




「・・・いちごミルク飲みたい。持ってこい」
「はいはい」

翌朝、ソファに埋もれる俺。
だってうまく体が動かないんだ。

楽しそうに俺の言うコトを聞くキュヒョナは、いたって元気。
あいつ、あの体力どこにしまってるワケ?
ジム通おうかなとか言ってたけど、全力で阻止しようと思う。
これ以上無駄に元気になられたら、困るのは俺かもしれない。

「お待たせしました」
「ストローも差してよ」
「はいはい」

むーっとふくれて我が儘を言ったら、それも聞いてくれた。
甲斐甲斐しすぎてちょっと怖い。
そんなに気に入ったんだろうか、昨夜のアレが。

頭をよぎった記憶が我ながらあまりにも過激で、ボンっと顔が熱くなる。
結局何回イったのか、もうよくわからないくらい。

「あと、ほしいものありますか?」
俺の前に座って見つめてくるキュヒョナの顔。
昨日の表情と重なって見えて、直視できなくなる。

「お、お風呂。入りたいから・・・沸かして来て」
「はいはい」
ふっと口元だけで笑って、キュヒョナは俺の髪を撫でる。
そのままハミングまでしながら、バスルームにむかっていった。

びっくりするくらい上機嫌だな。
そんなに嬉しいんなら、また素直になってみてもいいかな。

・・・いやいや!!
もうダメだよあんなの。
媚薬のせいで一時的に頭がおかしかっただけ。
チョコも当分食べないかんな!!
香りだけで思い出しちゃいそうだもん。

ちびちびミルクを飲みながらそんなことを考える。

「あ、ヒョン! おはようございます」
そこに響いたちょっと高い声。

「おー、おはよリョウク」
にっこり挨拶してくれる可愛い弟。
キュヒョナが同じマンネラインとは思えない。

「なんか元気ないですか? 風邪ひいた?」
ふにゃーっと答えた俺の声に、リョウクは心配そうに眉を下げる。
メンバーの健康に敏感な彼は、こういうことにすぐ気づくんだ。

「うーん、だいじょぶ」
「そうですかー? なんか声ちょっと枯れてません?」
「そ、そうかな。ちょっと、疲れただけだよ」
キュヒョナに鳴かされすぎたなんて、言えない。

「あ、じゃあいいものあげます」
ぽんっと可愛く手を叩いて、リョウクはすぐそこの棚からなにかを取り出した。

「はい」
「・・・なに?」
手渡された小さなピンクの箱。

「チョコレートですよ。昨日スタッフさんにもらったの」
「チョコー?!」
「な、なんですか? ヒョン好きでしょ?」
思わず大声を出した俺に、リョウクは目を白黒。
驚かせてゴメン。
でも、今はダメなんだよー!!

「い、いらない!!」
「えー?! どうしたの・・・まさかダイエットですか?」
「あ、えっと・・・」
「ダメですよ、ヒョン細いんだから!!」
「ち、ちがうってば」
ぐいぐい押し付けられて、甘い匂いがそこらに漂う。

「ポリフェノールは体にもいいんですから、うまく食べればチョコは健康食品で・・・」
リョウクさーん!!
違うんだってば。

栄養士かってくらいすらすらと利点を喋り出した。
そんな彼を前に、俺は箱を抱えて困り果てる。

うちのマンネたちには、どっちにだって兄さんは敵わないよ。

俺のため息は、カカオの香りと一緒に空気に溶けた。


End....
3/3ページ
スキ