少年タイム



「ヒョクに一番似合いそうなの、厳選したんだよ!!」
ドンヘは至極幸せそうだ。

「やっとシウォンと意見合ったのがこれなの。可愛いでしょ?」
「・・・・・・」
「アカウント借りる以上シウォンの意見も無視できなかったからさー」
「・・・・・・・・・」

嬉々として喋り続けるドンヘを見ながら考える。
・・・どうしてこうなったんだろう。

とりあえずなんかもやもやしてた俺の時間を返して欲しいよね。
このためにシヘコンビはこそこそしてたワケか。

俺のベッドの上に鎮座する真新しい学生服。
ブルーベースのチェック柄のパンツとネクタイ。
紺色のブレザーにはそれらしい校章もついてる。
金色に輝くボタン。
可愛いよ、可愛いけどさ。

「色々聞きたいコトはあるんだけど・・・」
「なあに? サイズはもちろんピッタリだよ!!」
ドンヘはウインクまでしてみせる。

「ちがくて・・・。俺着るって言ったっけ?」
まだ一週間も経ってないし、そんなに記憶が曖昧なハズないけど。
ため息を飲み込んで聞いてみると、ドンヘは目をまんまるくする。

「大事にするって言ったじゃん」
「・・・??」
「ファンを大事にするって言ったでしょ」
「・・・う、うん・・・? 言った・・っけ?」
「ヒョクのファンとしての俺のお願い聞いてくれるんでしょ」
「ん? えっと・・・」

イ・ドンヘ独自の論理大暴走。
自信だけは満々で、こうなると意外とドンヘのペースに呑まれる。

「ね? 見たいの。ヒョク・・・お願い」
去年くらいから急に大人っぽい顔になったドンヘだけど。
いつまで経っても目だけは少年みたい。

「意味わかんない。・・・まあ、着るだけなら・・・いいけど」
その目が半月型に微笑む瞬間が、好きなんだから仕方ない。
でもずっと見つめてはいられなくて、途中からそっぽを向いて答えた。




「わあああ!! やっぱ俺の目に狂いはないでしょ!!」
「まあ、シンプルなのよりこういう柄ある方が好きだけど」
あんな公言しただけに、確かにサイズは測ったみたいにぴったりだ。

「すっごい可愛い!! はい、笑ってー!!」
「わ、勝手に撮るなよ!!」
「いーじゃん。撮んないと勿体無い!!」
「・・・誰にも見せないでよ」
「今もうシウォンに送っちゃった!!」
「ばか!!」
「だって送るって約束だったもんー! 痛い痛いひょくううう」

ペロっと舌を出して見せるドンヘをばしばし叩く。
機械ダメなくせに、ケータイの扱いだけはなんでめちゃめちゃ早いの?
あとでシウォンに消しとけって言わなくちゃ。

「・・・わかった!!」
しばらくニコニコ俺を見つめたと思ったら、急に大声張り上げて。
今度はなんだよ、もう・・・。
テンションの上がったドンヘはびっくり箱みたいだ。

「女子はともかく、変な男性ファンついたら困るもんね」
「・・・どゆこと?」
うんうん頷いてるけど、さっぱり話が見えてこない。

「だから、監督さんヒョクには制服着せなかったんだよ!!」
「制服くらいで男性ファン増えないでしょ・・・」
「いーや絶対ヤバイ!! 良かったぁ、ライバル増えなくて・・・」
「・・・そお、良かったね・・・」
なんだか脱力してしまって、ドレッサーの椅子に腰掛けた。

「うん!! じゃあ、俺だけの生徒でいてね?」
「・・・?」
ドンヘはすちゃっと眼鏡をかけて俺のと違うジャケットを羽織った。
「ドンヘ先生と呼びなさい」
「はあ?!」
見上げる俺の前で、ポケットから指示棒までだしてくる。

「似合う?」
「ってかお前も同じの着るんじゃないの?!」
制服デートごっこしたいとかなんとか言ってたじゃん!!

「22歳のあの頃ならやりたかったよ。でもさすがに無理があるし・・・」
「俺だってもう27なんだけど?!」
顔があっつくなってきてるのを感じながら抗議した。
なんならお前より俺の方が誕生日早いし!!

「ヒョクは今でも違和感ないよ!! ホントに高校生みたいー」
「んなワケないじゃん・・・実際着てた頃から10年経ってんだよ」
ドンヘも着るんだろうと思ってたからやったのに・・・
話が違う!!

「年とかより似合うんだからいいじゃん。ヒョク、かわいー」
コイツはホント、俺の怒りを逸らすのが得意すぎて困るよ。

レンズの向こうで愛しそうに細められる目。
先生のイメージなのか、メタルフレームのかっちり眼鏡をかけてる。
こーゆーのだとなんかオトナっぽく見えちゃって、ちょっとドキドキする。
くそう、黒縁だったら見慣れてるのに。

「好きだよ、ヒョク」
微笑むな、ばか。
あっつい視線に顔を上げられなくなる、そんな自分が悔しい。

ネクタイを弄びながらうつむいていると、鏡台にかちゃかちゃ筆記用具が並べられていった。

「おベンキョ、しよっか?」
なんでもない台詞のハズなのに、なぜだか俺の鼓動は加速の一途。
肩に置かれたドンヘの手のひらは、予想よりも熱かった。



To be continued...
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