GAME OVER ※
「う・・・」
奥底まで沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。
涙で濡れた頬を拭っている細い指の感触。
その指でならどこに連れてかれたっていいのに。
「きゅひょ、な・・・」
動かしにくい唇で、ぼやけた視界にいる彼を呼ぶ。
少しだけ口角が上がってるように見える。
「すごかったですね、ヒョン」
少し目を眇めるような表情。
キュヒョナが満足してるのがよくわかる。
「・・・イヤだよ、こんなの・・・」
絶頂は迎えたけれど、僕は全然足りない。
キュヒョナの熱じゃなきゃ、そんなの意味がない。
わかってるでしょ?
もう意地悪しないでよ。
「じゃあ・・・こういうのはどうですか?」
「え、ちょ・・・と・・・」
「じょうずに出来たら、あげますから」
「・・・ッ・・・ふ・・・」
さりげなく抵抗ができないように、両耳を掴まれて下半身へ導かれる。
服越しでもわかる、その部分のその熱さ。
「ヒョンの舌を、感じたいです」
「・・・でも・・・」
「脱がせてくださいよ、ね?」
「う・・・・」
そんなコトを言われたって・・・
まだ僕の手首は一括りのままなんだけど。
「出来るでしょう? 口は使えるんですから」
「・・・う、ん・・・」
出来ないなんて言っても、時間の無駄。
「そうですよね。欲しいなら、ちゃんとしないと」
ねっとりした触り方で僕の頭を撫でると、キュヒョナは膝立ちになった。
不自由な状態で体勢を変えようとして、
「・・・ッん!!」
体内の違和感に気づいた。
「ああ、そうでしたね」
キュヒョナがちょっとだけ目を見開く。
スイッチは切れてるけど、例の機械は僕のなかにまだ居座っていた。
イヤだ、もう出てってよ・・・
「このままじゃダメですよね」
品が良さそうに見える、目だけの笑顔。
その表情のままキュヒョナはコントローラーに手を伸ばす。
「・・・アッ?!・・や、だあああ!!」
迷いなくダイヤルを回されて、止まっていた振動が再び始まる。
やだやだ、なんで?!
ふいをつかれて、へたり込んで蹲ってしまう。
「ソンミナ」
名前を呼ばれただけなのに、刺すような威圧感が僕に降りかかる。
ああ、本当にしなきゃいけないんだ。
脳みそが勝手にそう判断して、僕はなんとか顔を上げる。
「休んでいいなんて言ってません」
「ん、んんッ・・・わかって・・る」
幸いそんなに強くはされてない。
頑張らなくちゃ・・・長引いたら苦しいのは僕だ。
「早くしてください。貴方のせいでこうなったんですから」
「ん・・・く・・」
体の奥の振動からできるだけ意識を逸らして、キュヒョナの服に噛み付いた。
歯と舌を駆使して引っ張って、なんとか素肌を晒すことに成功する。
「手は、使ったらダメですよ」
「うん、・・・ん・・ふッ」
あっつい・・・
口内に受け入れたものの熱に、一瞬で酔ってしまいそうになる。
「もっと、ちゃんとして」
「う、う、・・・くッ・・んん?!・・」
支えがないってコトだけで意外と自由が利かない。
キュヒョナにちょっと揺らされただけで喉まで詰まる。
襲い来る嘔吐感を、目をぎゅうっと閉じてなんとか耐えた。
そうして無意識に力が入ったコトで、今度は別のところが圧迫される。
「んぅーッ・・ふ・・ああああッ!」
震える機械に気を取られて、思わず口を離してしまった。
ぽたぽた垂れる僕の唾液が、シーツに染みを作っていく。
ああ、ちゃんとしなきゃダメなのに。
どうしよう・・・なんて言って叱られるんだろう。
そんな考えが頭をぐるぐる巡る。
でも、果たしてホントにそれが純粋に不安なのか、自分でもわからない。
どくんどくん加速する鼓動に混じる、期待のようななにか。
「ダメな人ですね」
「う・・・」
ぐいっと乱暴に顎を掴まれる。
仰向かされて強引に絡み合う視線。
冷たく見下ろされているのに、僕の頬は熱くなる。
「ソンミナ。どうされたいんですか」
僕がどうしたいかなんて、この状況じゃ考えられない。
「キュヒョナの・・・好きにして」
もう、それが僕の望みだもの。
キュヒョナの温度のない瞳が、すっと細められた。
「だったら・・・」
僕を捕まえたまま、ゆっくり僕のところまでおりてくる。
「なにも隠しちゃいけませんよ」
丁寧にヤスリをかけたみたいにどこにも角がない、深い深いキュヒョナの声。
柔らかく僕を縛り付けるんだ。
*
つうっと、内ももを流れていく生暖かい感触。
珍しく挿入してすぐに一度放ったキュヒョナの精液が、僕の中から掻き出されていく。
「これ、気持ち悪いですか? ぜんぶ出しちゃいましょうか」
気づいたキュヒョナがそれを掬う。
「うう・・くッ・・んんーッ」
顔を押し付けてるシーツが、涙やら唾液やらでびしょびしょ。
縛られた両手は背中で固定されたまま、腰だけを突き上げてうつ伏せにされている。
「そんなに奥では出してないんで、こうすれば・・」
「・・ッ・・ッ、イヤ、しないでッ」
頭をぶんぶん振ってみるけど、聞いてくれない。
抉るみたいに浅いところで動かされて、ぴりぴり震えが走る。
「なんか・・ヤバイですねこの光景」
「だ・・からッ、やめてぇぇ」
じっと見られているかと思うとおかしくなりそう。
ちゅくちゅく変な音がして耳を塞ぎたいのに、腕は1mmも動かせなくて。
「ソンミナ」
急にぎくっとするような呼び方をされた。
僕は反射的に息を飲む。
「隠しちゃいけませんって、言いましたよね?」
「ふあッ!!・・あ!」
確認するみたいに突き上げられる。
「やめて欲しいんですか、本当に」
「う・・、ごめ・・なさッ・・」
そうだ。
好きにしてって言ったのは僕。
恥ずかしがったりする理性はもう、捨てなきゃいけない。
「ゴメンじゃなくて。どうなんですか」
「そこも、・・きもちい・・よッ・・・・でも、・・」
「でも、なんですか?」
「焦れった・・い・・のッ・・・もっと、深くしてッ・・!!」
本音はどこまでも欲張り。
僕のこんな本性なんて、キュヒョナにしか到底見せられない。
「そう、素直が一番ですよ」
「だ、から、・・はやくぅ・・いっぱいッ・・ちょうだい?」
「いやです」
「ちょ・・とッ、ん、ん、きゅひょ・・な!!」
キュヒョナの動きは結局変わらない。
抜けてしまいそうなギリギリのところで、その熱で内壁をくすぐってる。
言葉に出した通り、そこも気持ちいい。
でも、奥のほうが疼いて苦しいのに。
「言うコト聞いてあげますとは、言ってません」
「・・そ・・だけどッ・・、も・・苦し・・」
「ヒョンを焦らすの、俺好きですから。焦れるって言って欲しかっただけです」
「いじ・・わる・・ッ」
「ふふ、ヒョンにそう言われるのも、好きです」
ああ、夢中だったとはいえ失言だった。
キュヒョナが好きにしたらこうなっちゃうんだ。
とろとろになってく思考回路の片隅で、そんな後悔をしてみる。
「じっくり、してあげますからね」
そんな囁きと一緒にキュヒョナは僕の背中を舐め上げる。
「そのために一度、出したんですから」
「ひゃ、あ!・・んんッ」
羽根で触れるような微細な動きに、肌は敏感になっていく。
この夜が明けるまでに、僕はどれだけ浅ましいことを口走ってしまうだろうか。
いっそそれもわからないくらい、めちゃくちゃにしてくれたらいいけど。
「いい子にして、ソンミナ・・・」
それだけ聞いたら天使みたいな、甘い声でキュヒョナは囁いた。