first love

「また・・・か・・・」
ひとり目覚めたベッドの上。
呆れ声も出ようというもの。
ここのところ、俺は俺に失望しっぱなしなんだ。

衣装部屋停電事件から一週間。
ヒョクは去り際怒ってたわりには、翌日もう普通に戻っていた。
前日あんなに強張った表情だったのが嘘みたいに、あまりにもいつもどおりで、戸惑うほど。

普通じゃないのは俺の方。
ヒョクを毎晩、夢に見る。
それも、・・・純粋なリョウクあたりには絶対言えない内容で。

好きだと気づく前から、知らずに押さえ込んでいたみたいだ。
爆発したように止まらない欲が、夜な夜な無意識に表れる。
実際にしたキスを反芻することから始まったそれは、どんどんエスカレートして・・・
7回目の今日は、もうそこらのAVと変わらない。
はぁ、今日ヒョクの顔見れるだろうか・・・



                   *



「ただいまー」
「あ! お、おかえり」
仕事を終えて部屋でPSPの電源だけ入れてぼーっとしていたら、トゥギヒョンが帰って来た。
ヒョクがすぐ後ろからついてきてる。
ラジオの日はよくそうやってついてきて、ゲームしたりなんかして遊ぶ。
あれ以来来てくれたのは初めてだ。
嬉しい・・・けど、せっかく普通に接してくれてるんだから、ヨコシマな目で見ないように気をつけなくちゃ・・・
もうあの強張った表情はさせたくない。

「見てみてー、先取りー」
「そうそう、今度のステージの衣装。先に着させてもらっちゃった」
ヒョクが嬉しそうにポケットから写真を取り出した。
トゥギヒョンの説明を聞きながら覗き込む。
「わ、まっしろだね」
「うん、襟んトコがみんなちがうんだよ」
笑顔で写ってるふたり。
「ヒョクすげー似合う、可愛い」
ついポロっとストレートに言ってしまった。
「あ、りがと・・・」
わ!照れた!
ふわぁっと上気する頬が可愛くて、俺も顔が熱くなる。

「でしょ! 俺も可愛いって言ったのにー」
トゥギヒョンがヒョクに抱きつきながら言う。
「俺が言った時はこんなカオしてくんなかったー」
「べ、別に!一緒だよ!!」
つんつんとつつかれて、ヒョクの頬は更にピンクに染まる。
「嘘だ! ドンヘが言ったからだ! ハイハイ邪魔者は去りますよー」
ヒョンすごい早口・・・
「ど、どこ行くの?」
「みんなにも見せてくる!」
バッチンとウインクしてバタバタ出て行ってしまった。

「・・・・・・」
唐突にふたりきりになって内心焦る。
トゥギヒョンいてくれると思ったのに・・・
夢を思い出さないでいられるだろうか。

「なにやってんの?」
うお! 近い近い!!
俺の手元を俺の肩越しにヒョクが覗きに来た。
ちょっと振り返ったら、そのままキスしちゃいそうな場所にいる。

「俺それこないだクリアしたよー エンディング結構いいよー」
ゲームのタイトルを見て無邪気にそんなことを言っている。
のほほんとした言い方にちょっと和んだ。
そうだ、意識しすぎなだけだ。落ち着け俺!
今までだっていつもいつも、こんな限りなく近い距離にいたはずだ。

「ボスステージで足止めくらってんだ」
「うんとね、ここはねー・・・こーやって」
ゲームの話だもの。
早くなるな心臓!!
でも・・・やっぱ近いって!
後ろから手を重ねてプレイして見せてくれる。
ほぼ抱きつくみたいになってますけどヒョクチェさん。

「ここで攻撃すんの。ね?行けるでしょ?」
「・・・・・・・う、うん」
駄目だ、どうしてもうろたえてしまう。
「? わかんなかった?」
「!!」
一重なのにおっきいその目をまんまるくして俺を覗き込む。
かぁっと頬に熱が集まった。

「いや、わかるわかる! こまうぉ!!」
「うわ!」
焦って勢いよく体を起こしたから、後ろにいたヒョクを巻き込んでしまった。
「あ!ごめんッ」
「・・・痛ぁ、舌噛んだー」
俺の肩に顎がぶつかってしまったらしい。
口元を押さえている。
「・・・・だいじょぶ?」
「うー、血のあじがする・・・ちょっと切れてるか見てー?」

それはいいけど・・・
いやよくないかも。
でも断るのもおかしい。

「ろお?」
半開きの口から赤い舌が覗く。
夢の中でさせた行為がだぶって見えた。
口内に出した俺のを見せろっていうシチュエーションを。
・・・・・・・・・ってなんてコト思い出してんの俺!!

「だ、大ジョブみたい、かな」
嘘。
切れてるかどうかなんてわかんない。
色々それどころじゃない。
頭の中はすっかりエロエロモードですごめんなさい。

この一週間、こんな事態の繰り返し。
なんせ今までくっつきまくってたし、普段通りにしてるだけですごい密着度なんだ。
意識してしまったらある意味我慢大会。
だって次に暴走したら確実に押し倒してしまう予感しかしない。

「そお? でもまだじんじんするよぅ」
なにその可愛い言い方。誘ってんの?
いや違うでしょ。ヒョクがなにしても俺には可愛く見えてしまうだけ。
ぐるぐる、自問自答を繰り返す。

ヤバイ、気を紛らわさなくちゃ。
「お、俺お風呂入ってくる!!」
「んじゃ俺も」
「駄目!!」
「な、なんだよー」
無理ムリ!
絶対襲ってしまう自信がある。
今まで平気で一緒に入ってた自分をうっかり尊敬しそう。

「これ! やってていいから!」
「もうクリアしたってば」
「あ、そっか。・・・でもいいから! 待ってて!!」
ヒョクの手に無理やりPSPを押し付けて逃げてきた。
ごめんね・・・もう暴走するワケにはいかないから・・・


                   *


ヒョクだって俺がヒョクをどう思ってるか知ってるハズなのに。
あの無防備さはなんだろう。
脱衣所のドアを開けながら考える。

「お! ドンヘ久しぶり!!」
「ひ、ヒチョルヒョン!」
先客がいた。
ドラマ撮影で忙しかったらしく、あれからヒョンとはずっとスレ違いだった。
今日は早く帰ってきたんだ。

「会いたかったぜ! あれからどうなったんだよ?」
「う、やっぱあれヒョンの『協力』だった?」
「俺はやるっつったらソッコーやるからな」
ホントだね、翌日すぐだもの。

「ってか風呂入りながら話そーぜ」
「・・・ハイ、お兄様」
そうだとは思ってたけど、なんだか力が抜けてしまった。

「意気地なし!! なんでヤっちゃわなかったんだよ」
ヒョンにゴマカシは効かないと死ぬほど知っているので、ありのまま話したらそんな風に言われた。
色々ヒドイわ、お兄様。
「だって泣いたみたいだったし・・・」
「バカじゃないの。泣くってコトはなんかしらの執着はあるってコトじゃん」
「そおなの?」
がしがし体を洗いながら言うヒョンの言葉に、キョトンとしてしまう。

「ジョンスがヒョクチェ暗所恐怖症っぽいって言うから、ブレーカーまで落としたのに!!」
「あれもヒョンがやったの?!」
「そだよ? 恐がるの宥めてそのまま押し倒しちゃえるかなって」

あれはただの偶然かと思ってた・・・
まぁ、暗かったおかげで告白はできたワケだけど。
「ってかヒョン、いつの間に押し倒すための計画になってんのー」
「同性で元々が友達なんだから、それぐらいやんないとインパクトないだろ」
ヒョンらしいぶっとんだ意見だけど、一理あるといえばある。
俺はぶくぶくと湯船に沈んだ。

「そんで? 告白してキスして、今はどうなってるワケ?」
今・・・それが俺にもよくわからない。
「どうもしない。ヒョクは今までどおりだよ」
「・・・優しいヤツってそうだよなー・・・」
ヒョンは急に懐かしむような口調になった。
「ジョンスもさ、最初そうだった。自分の気持ち見極めるまでは、無理してでも普段どおりにすんの」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
なにも言えなくなった。
俺はヒョクチェにそんな思いをさせてるの?

「・・・でもさ、お前らの場合更につらそーだな?」
「なんで?」
自分の不甲斐なさに若干ヘコみそうになっていたら、ヒョンの口調が戻った。
「元々のくっつき方が半端ねーから」
「・・・うん」
「しかもヒョクチェ天然で可愛いことするトコあんだろ、お前も自重すんの大変だな」
「そーなの!! もお俺限界近いよ!!」
わかってくれるのヒョン!!
思わずざばぁっとお湯から半分飛び出した。

「限界来たら来たでいいんじゃね?」
「いいの?!」
「イヤ、ただの勘だけど」
「・・・・ヒョン・・・」
喜んだのもつかの間、ヒチョル節にやられる。
俺はまた湯船に沈んだ。
「でも俺の勘当たるよ?」
ニヤリ笑ったヒョンはバサっとタオルを肩にかけながら、
「ま、またなんかあったら言えよー」
俺の頭をひと撫でして出て行った。

「うーん・・・」
なんか深いコト聞いたような、結局振り回されただけのような。
でもきっと、ヒョクが『普段どおり』にしているのは確かだろう。
無意識の行動で俺をドギマギさせてる自覚はないにしろ。

でも。
俺の限界が近いのも確かだ。
見極めてくれるまで、待てるかな・・・




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