first love

「こら!!」
「あたっ」
丸めた資料でポコンとされた。
「見・す・ぎ!」
「な、なにが!」
ヒチョルヒョンはがしっと俺の肩を抱いてニヤニヤしてる。
「ねー、俺の言ったとおりでしょー?」
「べ、別に、ヒョク可愛いとか思ってないよ!!」
「ぶッ・・アホか! 自分でバラしてんなよ」
「やっぱ可愛いとは思ってんだ!!」
なんか嬉しそうなトゥギヒョンに逆の肩を組まれて、両手に83年組。いや、嬉しくない。

雑誌のインタビューと写真撮影で、みんな揃ってスタジオにいた。
昨日、ヒョンたちが揃ってあんなコト言うもんだから、俺はすっかり睡眠不足。
欠伸をかみ殺してソロカットの順番を待っていたら、こうなった。
・・・・・・確かに視線の先にいるのはヒョクチェなんだけど・・・

「ウニョガー! ファイティン!!」
突然、撮影中のヒョクにヒチョルヒョンが声をかける。
おしくらまんじゅう状態の俺ら3人を見て、全力笑顔でぶんぶん手を振ってる。
元気だなぁ・・・

「ドンヘ、顔デレてるけど」
「・・・! イヤ、俺はもともとこんな顔なの!」
ヒョンたちさ、俺で遊びたいだけなんじゃないの?
「あのね、トゥギヒョン・・・」
「あ、ほらほら! ドンヘの番だって! いってらっしゃーい」
「痛いってば!」
そんな押さなくても行くって!

撮影の間も、俺はなんだか落ち着かなかった。
俺と入れ替わりにヒョクがあの2人に挟まれているから。
まさか余計なコト吹き込んでるんじゃないよね?
困る困る!

「ドンヘさーん? 目線こっちくださーい!」
「あ、すみません・・・」
だめだだめだ!・・・ちゃんと仕事しなきゃ・・・


                   *


ふーーーーーーーーーーー。
なんだか、昨日から異様に疲れる。
宿舎の自室に帰ってベッドに倒れこむと、寝不足もたたってすぐに瞼が重くなった。
シャワー・・・浴びたいけど・・・ちょっと寝てから、でいーか・・・

「ん・・・」
なんか甘くていー匂い。シャンプーかなんか。
ふと半分だけ覚醒した意識に、滑り込む香り。
正体が知りたくて目を閉じたまま手で探ったら、さらさらで柔らかい感触。
「んー・・・?」
瞼を持ち上げたら栗色の髪が目の前にあった。
「・・・ヒョク・・・?」

「起きた? おはよ」
うお!ホントにヒョクだ。
どうやら俺に背中をつけて寝っころがって、その両手はゲームをしてるらしい。
ボタンを叩く音がする。
俺が寂しがるせいで、ヒョクは自室に篭ってPSPをしなくなった。
時計を見るとなんだかんだで2時間くらい寝ちゃったみたいだ。

「うっす。てかお前いつ来たのー?」
顔は見えないから頭に話しかける。
「シャワー浴びてからだから30分ぐらい前かなー。気持ちよさそーだったから俺も布団入っちゃった」
ドンヘのベッドなんか好き、とか言ってくすくす笑ってる。
その笑い声が背中から伝わって心地いい。

「トゥギヒョンは?」
向かいのベッドを見ると着替えたみたいだけど本人はいない。
「ヒチョルヒョンとどっか出かけたよ」
デートかなぁ、いいなあ。
俺もヒョクとどっか行きたい。
・・・・・・・あれ? なんでここでヒョクなんだ俺・・・
女の子じゃないの?
うーん・・・・・・・まぁいいや。

それにしてもヒョクあったかい。
洗い立ての髪も気持ちよくて、もう一回撫でてみる。
「シャンプー変えた?」
いつもより甘い匂いかする。
多分さっきはその違和感もあって目覚めたんだ。
「自分の切らしちゃって、リョウクの借りちゃった」
「バレたら怒られるぞー。あいつそーゆーの何気ウルサイ」
「・・・気をつける・・・」
オンマみたいにメンバーを叱り付ける様子を思い出したらしい。ちょっとうつむいた。

可愛い。
こーゆーストレートな反応が俺にとっては気が楽だ。
ヒョンたちは色々言うけど、やっぱりヒョクとはずっと一緒にいたいんだ。
このままでいるのが幸せ。
・・・彼女は・・・きっとそのうちバッチリ相性いい人が現れるよ。
今んトコそこらの女の子より、ヒョクのこと可愛いって思う方が多いけど・・・
いや、きっとそれもそのうちなくなるよ・・・たぶん。

自分を説得してひとりでうんうん頷いていると
「ねー、どんへー」
間延びした声で呼ばれた。
「んー?」
同じくらいまったり返事している最中に、くるっとヒョクが反転した。
うわ・・・近・・・
よく見えないくらいの距離にヒョクの顔。

「キスして欲しい時ってどーすればいいとおもう?」
・・・・・・・・・へ?!
言葉に誘われてヒョクの唇を見てしまう。
ぷくっとして、なにも塗らなくてもちょっと赤い。
ちょっと開いてたりするとなんかエロくて、触ったらすごい柔らかそう。
キス、したら・・・気持ちいいだろうな・・・・・

「ポッポじゃなくてホントのキスだよ?」
「あ? う、うん」
黒目がちの瞳が、確認するように覗き込んでくる。
「俺、どうすればいいかわかんなくって」
どう、って・・・今の目で充分なんじゃないか・・・
心臓が一旦きゅうっと締め付けられて、そのあと急に加速しはじめる。
どうしよう・・・訳わかんないくらいキス、したい・・・

「・・・ドンヘ・・?・・・んッ」
後はもう、衝動だった。
気づいた時には自分の唇をヒョクのそれに押し付けていて、思った通り柔らかい・・・と思ってなんか感動した。
感動しすぎて、触れてるだけのキスなのに、体が緊張してこれ以上動けない。
耳元でやたら心臓が騒いでる。

「や・・・」
ぐっとヒョクの腕で押しやられて唇が離れる。
目の前の瞳がみるみるうちに涙を生んだ。

「・・・ば、か、・・どんへ」
「あ・・・・・・う、わ!」
ドンっと胸を押されて後ろの壁に頭をぶつける。
その間に耳まで真っ赤にしたヒョクは、俺の顔を見ないようにして部屋を飛び出していった。

「・・・・・・・・・・」
しばし停止。
・・・え?俺、なにしてんの。
ついさっき友達だって自分に言い聞かせたばっかじゃんか!
なんでこんな暴走しちゃってんの!
ぼすぼす、枕に八つ当たり。
したらコードかなんかが引っかかって、どっかから抜ける感触がした。

『♪~』
置き去りにされたヒョクのPSPから音が流れる。
イヤホンのコードを引っかけたらしい。
画面を一目見て俺は固まった。
・・・・・・恋愛シュミレーションゲームじゃんコレ。
ってことは・・・
え?さっきのヒョクの質問ってゲームの話だったり、する?

「うそでしょ俺」
思わず口をついた呟きは、PSPの電子音に消されていく。
あざ笑われているような気がした。
とりあえず・・・・自己嫌悪で死にそうだ。
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