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病める時も健やかなる時も(狛村佐陣)

8.自己肯定感が低い狼

 1週間後、狛村宅に浮竹と卯ノ花が来た。
「お待ちしておりました。十四郎様、烈様」
朝は玄関で三指ついて客を迎えた。
 すっかり大人の女性に成長した朝を見て、浮竹と卯ノ花は一瞬人違いかと思った。
「まあ、なんて美しい女性になられたんでしょう」
「見間違いましたよ、朝殿」
玄関に立ったまま、2人は朝を前に口々に褒めた。
「玄関ではなんだ、上がってくれ」
佐陣は2人を促して、奥の客間に案内した。鉄笠は取っていた。
 浮竹と卯ノ花は、お祝いの贈り物を佐陣に渡した。
 「そういえば、春水様は来られなくなってしまわれたのですか?」
4人で食卓を囲みながら朝が聞いた。それを聞いた卯ノ花がクスリと笑った。
「普段の行いが、身に返って来たのですよ」
 京楽は普段仕事をサボりすぎて、今日に限って残業をさせられているのだと、浮竹が説明した。
「おっと、噂をすれば京楽だ」
浮竹が伝令神機を取り出して、電話に出た。
 佐陣と朝と卯ノ花が見守っていると、浮竹の顔が驚き、電話を離して、佐陣と朝を見た。
「京楽が、藍染と東仙を連れてきてもいいかと言っているんだが…」
朝は佐陣を見上げた。
「あの2人なら構わぬ」

 数十分後、京楽が両脇に藍染と東仙を抱えてやって来た。
「いらっしゃいませ、佐陣が妻、朝にございます」
「おんやあ?朝ちゃん?まあ、美人になっちゃってー!」
京楽が朝に近づこうとするのを浮竹が止めた。
「人の奥さんに何をしているんだ…」
京楽を通り過ぎて、藍染と東仙が朝に挨拶をした。
「はじめまして、五番隊隊長の藍染惣右介です」
「九番隊隊長、東仙要です」
「お話には聞いております。いつも夫がお世話になっております」
「朝ちゃーん、僕も狛村君のお世話してるよー」

 部屋が一気に賑やかになった。
 朝は、卯ノ花や京楽と思い出話に花を咲かせた。
「朝ちゃん、突然隊舎に来なくなったよね」
京楽が酒を飲みながら朝に聞いた。朝は顔を赤らめて、チラリと佐陣を見た。
「なるべく佐陣様の近くにおりたかったので…」
「あら、そんな昔からの仲でしたか」
「はい、佐陣様は…」
「朝、もうよい。昔の事を話さなくとも……」
佐陣は焦って朝の話を止めた。いつもはどっしりと構えている佐陣がうろたえる姿は、隊長達には珍しかった。
「あの狛村隊長を狼狽えさせるなんて、朝様は只者じゃ無いかも知れませんね」
卯ノ花が微笑んだ。

 宴もたけなわになり、朝は片付けに立った。
「手伝いますよ」
藍染が立ち上がり、食器を持って朝を追った。
 佐陣が茶を飲みながら厨房の朝を見ていると、藍染の申し出しを断るが、藍染の人柄に断りきれず、一緒に流しに立つ様子が見えた。
 人当たりの良い藍染は、朝と片付けをしながら何か話しかけ、朝は笑顔になって藍染に相槌を打った。朝は相変わらず綺麗だし、藍染は好青年だ。
 何というか、お似合いだと思ってしまった。
 その途端、佐陣の胃に漬物石が入ったような、重苦しい感覚になった。
「なーに、奥さんを見つめているのさ。この色男」
京楽が後ろから現れて、佐陣の脇をつついた。佐陣は上手く答えられず、変な声が漏れただけだった。
 京楽が不思議に思って、佐陣の目線の先を見ると、藍染と楽しそうに話す朝がいた。
「へえ、君にもそういう感情があるんだねえ。何か安心するなあ」
「どういう事だ?」
佐陣は聞きたかったが、笑ってはぐらかされた。

 客人が帰り、就寝の準備をしていても佐陣の気分は浮かなかった。
「今日は賑やかで、楽しかったですね」
朝は楽しそうだった。みんなと話せた事が楽しかったと言っているのは頭では理解していたが、どうしても藍染との事かと勘ぐってしまった。
 反応しない佐陣に、朝は違和感を感じた。
「佐陣様…?」
朝が顔を覗き込んで、佐陣はようやく朝の顔を見ることができた。
「あ、ああ、すまない。寝ようか」
佐陣が布団をめくると、朝がその手に触れた。
「何か、ございましたか?佐陣様。どうか、わたくしに話してくださいませんか…?」
朝の顔は佐陣を気遣っていた。そしてとても不安そうだった。
 ああ、儂は馬鹿だ。間抜けな考えに囚われて、妻を不安にさせて…。
「朝…すまない。儂は、間抜けだ……」
「何故そのような事をおっしゃるのですか……」
佐陣は朝の手に自分の手を重ねると、朝の肩に顔を乗せた。
「お主が藍染と話している姿を見て、嫉妬してしまったようだ……すまない」
朝がハッとするのが分かった。
「も、申し訳ありません、佐陣様。私が迂闊に……」
「違う。違うのだ、朝。朝は誰と話そうが自由だ。儂の了見が狭いのだ」
佐陣は両腕で朝を抱きしめた。佐陣がしっかり朝を抱きしめるのは、出会ってから初めてだった。
「佐陣……様…」
「お主に、ちゃんと気持ちを伝えた事はなかったな……儂は、霊術院に入る前から、朝を好いておった。お主の気持ちにも、多少気づいていた。だが、この姿だ、貴族のお主と結ばれる筈は無いと諦めておった。こうして結ばれても尚、儂は朝を失うのを恐れておる。いつか、儂の元から離れてしまうのでは無いかと、不安で仕方ないのだ。情けないだろう……」
佐陣の腕に力が籠もった。朝は手を伸ばして佐陣を抱きしめた。腰の後ろ辺りまでしか、手は届かなかったが。
「どうすれば、佐陣様の不安を消せますか?朝は、何でもいたします」
「何もせずともよい。ただ、共に暮らせれば、それで」
「そうは行きません。佐陣様、わたくしを抱いてくださいませ」
佐陣は驚いて朝から離れた。朝は、決意した目で佐陣を見ていた。
「何を言うのだ、朝。自身を大切にしろ」
「大切だから、申しているのです」
朝はするすると着物を脱いだ。佐陣は初めて見る、朝の玉のような肌に釘付けになった。
「私の初めてを、自ら望んで佐陣様にお渡しします。これが愛で無く、何でございましょう。佐陣様、頭だけで無く、体で理解してくださいませ」
朝は佐陣にすり寄り、佐陣の腰紐を解いた。佐陣の体は火照り、下半身に熱を持った。我慢など到底できなかった。
「朝……儂とて男だ。長年想い続けたお主を抱くとなると、優しく出来ぬかもしれぬ……」
「本望にございます」
 
 佐陣は朝を布団に沈め、積もりに積もった想いを晴らすように、何度も朝を求めた。
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