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病める時も健やかなる時も(狛村佐陣)

7.朽木白哉はまだ独身

 二人はその日、同じ布団で寝た。
 朝としては、何時でも心の準備は出来ていたが、お固い佐陣は抱きしめるだけで手を出さなかった。無闇に手を出して、朝に失望されるのが怖かったのだ。
 多少不満はあるが、朝は同じ布団で寝起き出来て幸せだった。
 
 朝は佐陣より早く起きて、朝ごはんの用意をした。
 いい匂いにつられて佐陣が目を覚ますと、既にお膳が用意されていた。
「おはようございます。佐陣様」
「おはよう。朝。早いな」
お膳の前に座りながら佐陣が言った。朝は口が開いたまま、佐陣を見つめていた。
「どうした?」
「佐陣様が、私の手料理を食べてくださるなんて……夢のようです」
朝はしゃもじを握りしめて頬を染めた。佐陣は嬉しいが、言葉に詰まった。
 儂もおなじだ、とただ其れだけの言葉が照れて言えなかった。
 朝に白米を装ってもらい、二人で朝食を食べた。
「美味い……」
お世辞でも何でもなく、思わず口から出た。味噌汁の出汁の効き方、卵焼きのフワフワ感、焼き魚の焼き具合、全てが絶妙だった。
「よかった…!70年修業しました甲斐があります」
朝は嬉しそうに笑った。
 その後身支度をして、朝に見送られて出勤した。
 道中頭と胸がフワフワして、何度も躓いた。
 朝が、妻になったのか……。本当に……。

 定例会で隊長が集まると、元柳斎が佐陣の婚姻を皆に言った。
 予想していなかった佐陣は、喉から変な音が出た。周りの視線と驚きの声が佐陣に向けられ、今日程鉄笠の存在を有り難がった事は無かった。
 定例会が終わると、皆が佐陣の所に来ようとした為、佐陣はそそくさと帰ろうとしたが道を塞がれた。
「光代家の山猿を引き取ったか……」
「誰の事だ、朽木」
部屋の空気が一瞬で引きつった。佐陣に声をかけようとしていた面々が足を止めて、佐陣と朽木白哉を見つめた。
「あやつがどれだけの無礼を働き、由緒正しき光代家の家名だけで無く、山本総隊長殿にも泥を塗った事を知らぬとは言わせんぞ」
白哉の口調は静かだが、目が棘のように鋭く、佐陣を貫こうとしていた。
「貴様になんの関係がある」
朝を侮辱された事で、佐陣の腸が煮えくり返った。
 朝の何を知っているのだ……。
「同じ貴族として、個人の感情で家を蔑ろにする者が許せぬ。兄とて同罪だ、狛村」
「家が、人の心より重要か……」
「家の重さを解さない兄に教授しておるのだ」
佐陣の拳が無意識に握られた。
 何が貴族だ。何が家だ。70年、朝がどれだけ辛く恥ずかしい思いをしたかも知らぬ男が何を………。 
「おいおい、新婚さんにくらいお祝い言ってやれよ、朽木」
十番隊隊長の志波が割って入り、白哉をたしなめた。佐陣に目配せをして、ここは任せろと合図した。
「お前は恋愛を知らないから、狛村の気持ちが分かんねえんだよ。今度女の子がいるお店連れて行ってやろうか?な?」
「……貴様も貴族の端くれなら、節操を学んだらどうだ、志波」
白哉は志波を睨みつけると、首巻きを翻して去っていった。
「へーへー、人の結婚に文句つけるのが節操かよ」
志波は鼻をほじりながら白哉の背中を見送った。
 白哉が居なくなったのを確認して、皆が佐陣の周りに来た。
「気にする事無いぞ、狛村君」
藍染が狛村の背中に手を添えた。隣の東仙も頷いた。
「なんや六番隊長さん、やけに苛ついてはるなあ」
市丸が志波の隣に立って言った。
「去年隊長に就任してすぐ、銀嶺殿が亡くなって朽木家の当主になったんだ。気が張っているのだろう」
浮竹が白哉を哀れんだ。
「まあ、でも、さっきのは言い掛かりみたいな感じだったよねえ」
京楽だ。
「所で、お相手は光代家のご令嬢なのですか?」
卯ノ花が話題を変えた。
「名は、朝、と言ったか?」
東仙が佐陣に確認した。
「え?朝ちゃんなの?」
「朝殿か」
京楽と浮竹が驚いていた。
「知り合いだったか」
佐陣が聞くと、京楽と浮竹と卯ノ花が顔を見合わせた。
「だって、朝ちゃんが小さい頃、山ジイがよく連れてきてたからさあ」
「可愛らしいお嬢さんでしたね」
「そうか、あの子ももうそんな歳かあ」
3人がしみじみしていると、志波がズイズイ入ってきた。
「光代家の娘なんていやあ、美人で有名じゃねえか。ズルイぞ狛村」
「そうだよー、大人になった朝ちゃんに会わせてよ、狛村君」
志波と京楽の圧に閉口していると、砕蜂が怒ってきた。
「くだらない話をしていないで、仕事に行け貴様ら!!」


 帰宅して夕飯を食べながら、佐陣は朝に今日あった事を伝えた。白哉の事は伏せた。
「わあ、懐かしい!烈様には特にお世話になりました。春水様も十四郎様もお元気ですか?」
朝は目を輝かせて懐かしんだ。
「うむ。どうだ、お主の私物が届いて、落ち着いた頃に、卯ノ花殿達を呼ぼうか」
朝の目が更に輝いて、本当にございますか?!と大きな声を出した。
 それ以降朝はずっと嬉しそうで、寝る前も、どんな料理を作ろうか悩んでいた。

 次の日、3人に朝が会いたがっている旨を伝えると、喜んで伺うと行ってくれた。
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