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臆病は大人(ローズ)

6.

 机をくっつけて男女に分かれると、乱菊が陸の恋を男達に説明した。
 陸を知らない檜佐木は普通に聞いていたが、やはり吉良は動揺した。相手を聞いた時は、吉良だけでなく、恋次も檜佐木も声を出して驚いた。
「な、え?鳳橋隊長…?何で?」
雛森と同じ質問を吉良もした。だが今回は陸が答える前に、乱菊がしゃしゃり出た。
「そんな野暮な事聞くんじゃないわよ!!そんな事より、鳳橋隊長との飲み会セッティングしてあげてよ」
「いや…でも、隊長はいろんな人がいる飲み会にあんまり行かないし。三番隊か、平子隊長や六車隊長達と飲むくらいしか……」
「ならここの3人で、隊長達で飲む日聞き出して、無理矢理混ざればいいじゃない」
乱菊は吉良、雛森、檜佐木を指差して言い放った。乱菊の横暴ぶりに吉良は呆れていたが、雛森も檜佐木も乗り気だった。
「やります!ソラちゃんの為に!!」
「ま、乱菊さんに言われちゃ断れねーな」
「ええ……えー………」
そして吉良は無理矢理協力する羽目になった。

 そして決戦の日は1週間後にやってきた。
 雛森から全員に連絡が入り、檜佐木と吉良が裏付けをとった。乱菊は仕事をサボって六番隊に走った。日番谷の怒鳴り声は安定のスルーだ。
「ソラ!連絡見た?」
「見ました!」
「行くわよ!」
「はい!」
二人は仕事をほっぽりだして(陸のは恋次が引き受けた)雛森から連絡のあった居酒屋に走った。
 あくまで偶然を装う為に、先に居酒屋に入ってスタンバイをするのだ。残りの3人は後で合流をする。
 居酒屋について先に飲み物を注文すると、陸が改まって乱菊に向き直った。
「こんなに良くしてもらって…ありがとうございます」
「何〜?改まって〜?楽しんでるだけだから、トントンよ〜」
乱菊は笑って、手をヒラヒラさせた。
 今まで人と深く関わってこなかった陸には、乱菊達の優しさに慣れていなかった。だから、当たり前に思えず、深く深く感謝した。
 現実に居場所が無い訳じゃないんだ……。
 程なくして、平子を先頭に、拳西、ローズの3人が居酒屋に入ってきた。雛森の情報通りだ。
「ほら、来たわよ」
乱菊が陸に耳打ちしたか、陸から返事は無かった。不思議に思った乱菊が陸の顔を見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。
 顔見ただけでコレって大丈夫……?

 3人は陸達から少し離れた所で飲み出した。乱菊と陸は雛森達の到着を待っていたが、その間も陸はチラチラとローズを見てばかりいた。
 「あれ、桃やん」
 檜佐木と吉良と一緒に居酒屋に入ってきた雛森を見つけて、平子が声をかけた。
「あれ?平子隊長」
雛森が白々しく、平子がいる事なんて知らなかったみたいな言い方をした。
「あれ、やないがな。俺この居酒屋行く言うたし、聞いたの桃やんけ」
「あ、そっか、ここでしたね。私達、乱菊さん達に呼ばれて来たんですよ」
そう言って雛森が手を振ると、隅の方から乱菊が手を振り返した。
 乱菊は陸の手を引いて、雛森達の所に来た。
「待ってたわよ〜」
「あれ、乱菊ちゃんおったんや。気づかへんかったわ」
「そりゃあ、隊長達のお邪魔はできませんし」
「気にせんでええのに〜。ムサイ男3人より、女のコおったほうが場が華やぐし、どや、皆で飲まへん?」
平子の誘いに、乱菊と雛森は顔を見合わせ、目で会話した。
 作戦通り………。
「えーいいんですかあ?」
「ええよな?拳西もローズも。それに、乱菊ちゃんの後ろにおる子は、初めましてやし紹介してや」
すると拳西とローズの目線が乱菊の後ろに向き、陸がモジモジしながら現れた。
「あれ?君……荻野目、陸ちゃん、だっけ?イヅルの同期の」
陸の顔を見た途端、ローズが2年前に聞いたきりの名前を呼び、吉良と陸が驚いた。
「……よく覚えてましたね、隊長。というか、よく分かりましたね。大分雰囲気変わったのに」
「フッ、女のコの名前と顔は忘れないさ」
ローズがカッコつけて髪をなびかせると、乱菊は背後の陸に囁いた。
「……本当に、アレでいいの?」
「……カッコイイ…………」
キラキラしている陸を見て、乱菊は少し引いた。
 その流れのまま、陸達と隊長3人は一緒に飲む事になり、陸はローズの横に追いやられた。
 憧れの人の横に座り、陸の体温は一気に上昇し、自分から話しかける事は最早不可能だった。ローズは、気まずそうな陸に、優しく声をかけた。
「陸ちゃんが話やすいのは、誰かな?」
ローズの優しい声を聞いて、陸はようやくローズをちらりと見た。だが、口を開いても声は出ず、また俯いた。
「乱菊ちゃんか、桃ちゃんの隣、いく?」
陸は必死に首を横に振った。
 やっと隣に来たんだ。皆んなが協力してくれたんだ。
「………前に」
絞り出すような陸の声に、ローズは前屈みになり、耳を傾けた。
「うん?」
「前に、失礼な事を……すみませんでした………」
初めての会話がこれだ。情けない……。
「そんなの、もう覚えてないよ」
陸は驚いて顔を上げた。
 嘘だ。私の名前を覚えていたんだから、覚えているに決まってる……。
 ローズは下がり眉でニコニコしながら、陸を見ていた。ローズの優しさが、陸の胸を痛めた。陸は、ナントカ挽回したくて、言葉を続けた。
「……その、前は、髪ボサボサで、眼鏡で…恥ずかしくて……思わず逃げてしまって……」
陸が言い訳しても、ローズの表情は変わらなかった。
「そっか、タイミングが悪かったんだね。こちらこそ、プライベートの時に、ごめんね」
「………覚えてる……」
「あ」
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