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羽化にはまだ早い(弓親)

4.選択

 真が目覚めたのは翌日の夕方だった。怪我はすっかり治して貰えており、起きると空腹を感じた。
「生きてた…」
手を握るとまだ少し痺れている。またベッドに横になった。
 虚との戦いを思い出して、あの時の高揚感を振り返る。全身が痛かったが、体の血の流れまで感じるような、真後ろまで見えるような、神経が研ぎ澄まされるあの感じは、何だろう。
「夢みたいだった」
ベッドの上で、呟いた。また出来ないだろうか、どうしたら、また任務に連れて行って貰えるだろう。
「また戦いたい…」
「そうだな、また戦え」
一人言に返事が返ってきて、驚いて起き上がると、入口に斑目三席がいた。
「あ、ま、斑目三席…?」
急いでベッドの上で正座をした。斑目三席は黙って部屋に入ってくると、ベッドの横にある椅子に腰掛けた。
「虚の討伐ご苦労だった」
まさか三席に労って貰えるとは思わず、嬉しさと驚きで、上手く喋れなかった。口から出たのは空気が漏れる様な、…っす、と何とも間抜けな音だった。
「一人死んだが、二人は生きてる。お前の功績だ。六体もよく倒したな」
そうだったのか。記憶がハッキリしておらず、何体倒したか覚えていなかった。
「お二人が無事でよかったです…」
二人の無事を聞けたのは嬉しかった。だが、班長を亡くしてしまったのが悔しく、言葉の割に顔は笑っていなかった。それに気づいた一角は、話を続けた。
「阿近が言うには、六体のうち一体は中級虚に近い虚だったらしい。上位席官にしか倒せないレベルだ。死んだあいつには悪いが、あいつに敵う相手じゃねえ」
一角の言葉に真が身構えた。どう反応していいか分からない。喜んでいいのだろうか、でも人が死んでいる。
「班長が襲われて、虚に気がつけました…私一人の力では…」
そうか、と一角は腕を組んで真を見下げる。真は一角が何を考えているか分からず、黙って一角を見た。
「…お前、四席になる気はあるか?」
「え?」
「四席に、なる気はあるかって聞いてんだ。はいか、いいえかどっちだ」
答えを急かされて、真はツバを飲んだ。どうやら、先の一件で認めて貰えたらしい。今まで実践の機会さえ与えられなかった自分に、チャンスが降ってきた。もっと戦いたい。その時は、ただそれだけだった。周りの目も何も考えていなかった。
「はい」
「…そうか。なら、お前には試験を受けてもらう」
「試験?」
「六席の阿散井と試合をしてもらう。勝った方が四席だ」
「あ、阿散井六席と…?」
「四席になるなら、六席に勝たなきゃ、話にならねーだろ」
「その後、綾瀬川五席とも試合するんですか?」
一角は一瞬眉を潜めた。こいつ、最初から勝つ気でいやがる。恋次は俺が戦い方を教えたんだぞ?
「それはまだ決めてねえ。まず恋次に勝て。弓親は……まあ、おいおいだ」
一角がそう言うと、真は目を見開き、期待に満ちた顔をした。遠い未来の事だと思っていた、上位席官との試合が目の前にある。勝てば実質四席の綾瀬川五席とも出来るかも知れない。
「いつですか?試合は」
待ちきれない、とでも言うように、身を乗り出して聞いた。
「お前の体が治ったらな」
真を落ち着けるように、声を落として一角は言った。ああ、こいつもやっぱり十一番隊だと思った。飢えている、戦いに。
「じゃ、俺は行くからな。早く治せよ」
そう言うと、一角は立ち上がり、斬魄刀を担いで出て行った。真は正座をしたまま頭を下げて送り出した。一角の姿が見えなくなると、直ぐ布団に入った。
 明日体慣らしをしよう。誰かに手合わせお願いしよう。ドキドキが止まらなかった。
「戦えるの?」
真っ黒な山羊が真の前に出てきた。蹄を鳴らしている。真の斬魄刀だ。
「始界をしていいか聞いてない。ごめん天領」
山羊は、なーんだと座り込んだ。
「やっと、天領を扱えるようになったのに。私も、早く戦いたい」
「真、体力ついた。天領を止め無い、できる」
「うん。一日中天領を扱える。天領のおかげで強くなれた。ありがとう」
「真、ヨンセキ、なって」
「うん」
そう言うと天領は消えた。真も、明日の為に早く寝ようと思ったが、お腹が空いていたため、夕飯を取りに食堂へ向かった。


一角が隊舎に戻ると恋次が待っていた。
「霧島は何て…」
「あいつ、お前に勝つつもりだ。負けんなよ」
「ウス」
弓親はそのやり取りを見ていたが、特に何も言わなかった。
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