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臆病は大人(ローズ)

2

 散々映画を堪能した陸が、映画館を替えようと外に出ると、息を切らした恋次がいた。辺りはスッカリ夜だ。
「何してんの?」
映画館の入口から、階段下の恋次に陸が聞いた。恋次は少し苛ついた様子で、非常識だと言わんばかりの口調で話しかけてきた。
「……お前、こそ、何してんだよ…!ここ、映画館だろ!ただ見か?!」
「死神料金が無いんだよ」
陸がふざけて笑うと、恋次は脱力してため息をついた。
「で、何の用なの?」
階段を降りながら聞くと、恋次は親指で後ろを指差した。
「浦原さんが、ケーキのお礼に夕飯食ってけって」
ありがたい申し出だが、今の陸には迷惑だった。次はミニシアターに行きたいのだ。
「ありがたいけど……いいよ。私次の映画館行きたいし」
陸が断ってクルリと背を向けると、恋次に襟首を掴まれた。
「お前が来ないと、俺が飯食えねえんだよ!!!」
陸はそのまま恋次に担がれて連行された。
 ああ…私のミニシアターが……。

 浦原商店では夕飯の準備をして貰っていたが、陸は浮かない顔だった。食べ物なんてテキトーでいいから、映画が見たい、と思っていた。
「お名前伺っていませんでしたねえ」
浦原が陸に話しかけたが、陸は上の空で聞いていなかった。
「すんません。コイツいつもこんな感じで上の空なんで、周りにはソラってよばれてるッス」
代わりに恋次が応えると、浦原はナルホド、と何故か感心していた。
「ソラさん、ケーキのお代ありがとうございましたぁ。みんなで美味しくいただきました。さ、狭い所で申し訳ありませんが、鉄斎さんのご飯は美味しいッスよー」
浦原の声と共に、鉄斎がオカズを並べ始めた。陸は立ったままその様子をボンヤリ眺めていたが、頭の中では、ミニシアターで見るはずだった映画の事を考えていた。
 ああ、あの不眠症の男の話……どんなオチだったんだろ…。チラシに載ってた少女の話は、映像がキレイそうだったな……。
 そんな事を考えていたら、知らないうちに涙が流れていた。
「お!オイ!どうしたんだよお前!!!」
恋次が驚いて陸の肩を揺すったが、陸はただポロポロ泣くばかりで、恋次の問いかけに答えなかった。
「あらー、阿散井さん、何しちゃったんスかー」
「女性に乱暴してはイケませんぞ」
「なっ!俺は何もしてねえよ!!!オイ!!ソラも何か言え!!!」
浦原と鉄斎に責められ焦った恋次が、激しく陸を揺すると、かすかに声が聞こえた。
「………い……たか………」
「え?」
全員が陸の声に耳を傾けた。
「………映画………見たかった…………」
「映画!!?お前、そんな泣くほど見たかったのかよ!!!」
陸はコクンと頷いた。
「あららー、映画見たかったのに、無理矢理連れて来られたんスねーかわいそうに」
「アンタが言ったんだけどな」
恋次が顔を引つらせて言った。
「ソラさんが見たかった映画はありませんが、我が家は○mazonプライムに入ってますから、見放題ッスよ〜」
浦原がそう言って指を鳴らすと、天井からスクリーンとプロジェクターが降りてきた。
 浦原がリモコンで映画一覧を出すと、リモコンを陸に握らせた。
「さ、お好きな物を見てください」
陸が顔を上げてスクリーンを見た瞬間、涙が引っ込み、目が輝いた。
 それから全員で映画を見ながら、夕飯を食べたが、陸は映画に夢中で全然食べていなかった。
 皆が夕飯を食べ終わり、就寝の準備を始めても、陸は映画を見続けた。だが流石に睡眠の妨げで、恋次によって強制終了させられた。
 ションボリする陸を見かねて浦原が声をかけた。
「随分気に入られた様ですねえ」
浦原が話しかけても、陸はスクリーンがあった場所をボンヤリ見るばかりで応えなかった。
「あの~、精霊艇でも見れるように仲介しましょうか?お安くしときますよ?」
今までダンマリだった陸が、初めてまともに浦原を見た。
「本当!?」
「ええ、本当です。お暇な時に、電気屋に行きましょうか?」
「明日!明日も休みです!!」
食いつく陸を見て、浦原はニッコリと笑い、ではまた明日、と言って寝室に消えていった。
 陸は興奮して、また夜の街に消えていった。

 日が登り、朝が来た。
 映画館の座椅子で仮眠をとった陸は、足早に浦原商店に戻り、寝ぼけ眼の浦原の前に正座した。
「今日です」
「おはようございますぅ…ちょっと待っててくださいね。アタシまだご飯も着替えもまだなんで……」
浦原は陸の横を通り過ぎ、ちゃぶ台の前に座ると、ゆっくり朝ごはんを食べ始めた。
 待ちきれない陸は、浦原の後ろをソワソワしながら歩き回った。だが、目障りだったらしく、ジンタに怒られた。
「ウロチョロすんじゃねえ!!!オイ赤パイン!!コイツどっかやれ!!!!」
「クソっ!オイ、ソラ!!こっち来い!!!」
完全にトバッチリの恋次が、渋々陸の腕を掴み、修行部屋に押し込んだ。
 修行部屋をキョロキョロ見回す陸の前に恋次が立ちはだかった。
「お前のせいで怒られたんだからな」
朝ごはんを十分に食べられなかった恋次が、鬱憤を陸にぶつけた。
「ごめんね。私のせいで。それより、凄いねここ」
形ばかりの謝罪に恋次の我慢が限界に達し、斬魄刀を抜いた。
「お前……いい加減にしろよ」
陸は横目で恋次を見たが、直ぐに視線を上に向けた。
「あの天井は絵かなぁ?映像かなぁ?」
とうとう恋次が陸に斬りかかったが、陸は斬魄刀を抜刀した所作だけで恋次の刀を止めた。
「……副隊長には勝てないから、やめよ?」
「お前の残術、まだ鈍ってねえな?勝負しろ荻野目陸」
「……やめてよ。私非番なのに……」
「吠えろ!!蛇尾丸!!!」
始界した恋次を見て、陸はため息をついた。
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