平子編
二人のその後 19
静寂を破ったのは、夜一だった。
「宴をしようかの!」
余りにも突飛な思いつきに、真も平子も毒気を抜かれ、口をポカンと開けた。
「いや良かった。儂はてっきり、平子の悪癖で真が良いようにされてると勘ぐっていたのじゃが、真が良いなら儂は何も言うことは無い。それに娘の幸せな報はゴロ先生もお喜びになるじゃろうし、ゴロ先生に代わって儂が祝の席を設けようかの」
夜一は自分の考えを早口で話し、一人でウンウンと納得していた。砕蜂も射場も何と言っていいか分からず、ただ黙って夜一を見ていた。
「ま、待ってや夜一さん。そんなんいらんわ、もうほっといて欲しいねん」
平子が夜一を止めようとすると、砕蜂の鋭い目がまた平子に向いた。だが夜一が砕蜂の肩に手を置いた事で、その目は直ぐにそらされた。
「そうか、ならば仕方がないの。宴の代わりに静寂を贈るとしよう。騒いで悪かったの、真。儂はいつでもお主の味方じゃ、困らせるつもりは無かった」
夜一が素直に謝罪した事で、砕蜂も射場も型無しと言わんばかりに顔をしかめ、気まずそうに床を見た。
「……その通りじゃな。悪かったのう、ボン。平子隊長も、すんませんでした…」
射場に続いて砕蜂も小声で謝罪した所で、夜一は満足そうな笑顔になり、真の肩に手を回すとドアの方を見た。
「一件落着じゃな!!おーい、いつまでそこにおるつもりじゃ、もう入って来て大丈夫じゃぞ!!」
夜一の掛け声に、全員が驚いてドアの方を見ると、ゆっくりとドアが開き乱菊、吉良、檜佐木、白、恋次、一角、拳西、ローズがゾロゾロと入って来た。
「……嫌な噂を聞いたから、心配して来たのよ、皆」
1番先頭の乱菊が、申し訳無さそうに喋りだした。
「そうしたら霧島君の怒鳴り声が聞こえて…」
「何か、入れない雰囲気だったから…」
「皆で終わるまで待と〜ってなって」
吉良、檜佐木、白と説明をバトンタッチしていき、二人の関係を知らない人達は何とも言えない顔で床を見ていた。ただし白は一人ニコニコしていた。
「よかったねえ、シンズィ!!おめでと!!まこリンもおめでとう!!!」
気まずい空気をものともせず、白は元気いっぱいに二人を祝福した。この時ばかりは、白の性格に助けられたと、誰しもが思った。
「そう、だな。言うべき事はそれだよな。霧島、良かったな」
白を見て、一角も二人を祝福すると、少しずつ皆の表情が和らいでいき、口々に祝いを述べ始めた。それを見て、乱菊や拳西、ローズは安心したように肩の力を抜いていた。
夜一を始め、執務室に来た面々は平子と真に詫びを言いながら帰っていき、ようやく静かな空間になった。
「あー…疲れたわ。桃、すまん、茶淹れて」
「はい」
平子はドサリとソファに倒れるように腰を下ろし、背もたれに頭を預けた。
真も雛森について給湯室に入ると、茶葉缶を持つ雛森の手が震えているのに気がついた。
「桃さん?……」
真が心配して雛森の顔を覗き込むと、雛森はポロポロと泣いていた。口をキツく結んで我慢をしようとはしているようだが、こらえ切れない涙の粒が頬をつたっていた。
「な、ど、どうしたんですか?!桃さん。あ、砕蜂隊長ですか?すみません。桃さんにまで迷惑かけて…」
雛森は首を横に振って、真の推測が違っている事を伝えた。何度も涙を拭い、深呼吸をして、雛森はようやく声を出した。
「見てて……嬉しくなっちゃって……」
雛森は鼻水を啜ると、赤く腫れた目元を細めて真に笑顔を見せた。
「真さんも、平子隊長も、お互いを凄く大事にしてるんだなーって、見てて思って………それで、なんて素敵な関係だろう、って………嬉しくなっちゃって………」
「かーっ!!桃はホンマに優しい子ォやのー!!」
いつの間にか入口に立っていた平子が、サッシに体をもたれさせながら声をもらし、真も雛森も驚いてそっちを見た。
「すまんかったな、桃。迷惑かけて」
平子は笑顔で二人に近寄ると、雛森から茶葉缶を奪って急須を取り出した。
「あ、私が…」
「ええ、ええ。俺やるわ。俺が飲みたい言うたんやし」
平子はさっさと3人分のお茶を淹れると、戸棚から茶菓子を出して、雛森と真を誘ってソファに行った。
3人共黙ってお茶を飲み、しばらく沈黙が続いたが、真が口を開いた。
「…私は、知られて良かったと思いました」
雛森も平子も、黙って真を見つめた。
「いろいろ…疲れちゃって…」
「せやなあ……俺も疲れたわ。なんでか、ここ数日、ホンマに隠すのしんどかったしなあ」
それにやな、と言葉を続けて、平子は首をかしげて真の目を真っ直ぐ捉えた。
「移動の話も、あったしな」
平子の目は、真の答えを受け入れる準備が整っていた。多分、初めから分かってはいたのだろうが、黙って待っていてくれた平子は、やはり偉大だと思った。
「………私は………。八番隊に、行こうと思います」
真も背筋を伸ばして平子を見据え、ハッキリとした言葉で意思を伝えた。
「せか。そういうと、思っとったわ」
平子は口元を上げて微笑み、一口お茶を飲んだ。
「今まで本当に、お世話になりました。桃さんも」
真はソファに座ったまま頭を深く下げ、二人に感謝を述べた。すると、真の隣から鼻をすする音が聞こえた。
「桃〜。泣くな泣くな。同じ副隊長になるんやから、喜べや」
「そうなんですけど〜、寂しくって〜……うわ〜ん!」
顔を覆って泣く雛森を見ていたら、真も悲しくなってきて、目頭が熱くなるのを感じた。
「桃さん……ありがとうございます……」
「真さぁーん!!」
真の胸に飛び込んで泣く雛森を、真もしっかり抱き止めて雛森の髪の毛に顔を埋めた。
五番隊に突撃した面々は、そのまま居酒屋になだれ込んでいた。(砕蜂は帰った)
「いやー、まさか真が平子のようなタイプに惚れるとは思わなかったのお。平子も今までとは大分趣味が変わったんじゃないか?」
「僕も最初真子から話を聞いた時は驚いたんだけど。今までとは気持ちの入れ方が違うんだよ、夜一さん」
夜一とローズが話しているのを横で聞いていた乱菊が、興味を持ったように夜一に近づいた。
「平子隊長のタイプって、どんなだったんですか?」
「ギャルや。ギャル。とりあえず彼氏がいたらいい、みたいな軽いやつ」
質問に答えたのは、夜一でもローズでもなく、今しがた到着したリサだった。どうやら白が呼んだらしく、手を振って迎えていた。
「ま、あたしは最初から気づいとったけどね、あの二人。早く言ってほしかったわ」
リサは着席しながら、淡々と言い放った。
「どういう事だよリサ。お前、霧島と接点無かったじゃねえか」
白の隣の拳西が不思議そうにリサに聞いたが、リサは拳西を見ずにメニュー表を見ていた。
「買っていくのの趣味が変わったで、好きな女が出来たって直ぐ分かったわ。真を初めて見たとき、そのまんま過ぎてすぐ分かったし、真子が突然買いに来んくなって、くっついたのもすぐ分かった」
「買っていくの?」
白が頭を捻ってリサを見ると、他の男達が突然お喋りをやめて、あからさまにリサを見ないようにしていた。
「ほーう、そういう事か………」
察した夜一が意地悪な笑みを浮かべると、リサの横に行き、酒の入ったお猪口をリサに渡した。
「ちなみに、あやつらはどんな物を買うていくんじゃ?」
「タイトル?ジャンル?」
「あー!!!!!!!!矢胴丸隊長!!!!!どうぞ先にこの酒をお飲みください!!!!!!!!」
「こちらもどうぞ!!!!」
「好きなの頼んでください!!!!俺らで出すんで!!!!!!」
「隊長副隊長揃ってますけえ!!!!!どんだけでも飲んでください!!!!!!」
突然男達が立ち上がりリサに接待するのを見て、夜一は腹を抱えて笑い、乱菊は喜んで酒を追加し始めた。
「いやお前らリサの店で買ってんのかよ」
「みんなお得意様やよ」
静寂を破ったのは、夜一だった。
「宴をしようかの!」
余りにも突飛な思いつきに、真も平子も毒気を抜かれ、口をポカンと開けた。
「いや良かった。儂はてっきり、平子の悪癖で真が良いようにされてると勘ぐっていたのじゃが、真が良いなら儂は何も言うことは無い。それに娘の幸せな報はゴロ先生もお喜びになるじゃろうし、ゴロ先生に代わって儂が祝の席を設けようかの」
夜一は自分の考えを早口で話し、一人でウンウンと納得していた。砕蜂も射場も何と言っていいか分からず、ただ黙って夜一を見ていた。
「ま、待ってや夜一さん。そんなんいらんわ、もうほっといて欲しいねん」
平子が夜一を止めようとすると、砕蜂の鋭い目がまた平子に向いた。だが夜一が砕蜂の肩に手を置いた事で、その目は直ぐにそらされた。
「そうか、ならば仕方がないの。宴の代わりに静寂を贈るとしよう。騒いで悪かったの、真。儂はいつでもお主の味方じゃ、困らせるつもりは無かった」
夜一が素直に謝罪した事で、砕蜂も射場も型無しと言わんばかりに顔をしかめ、気まずそうに床を見た。
「……その通りじゃな。悪かったのう、ボン。平子隊長も、すんませんでした…」
射場に続いて砕蜂も小声で謝罪した所で、夜一は満足そうな笑顔になり、真の肩に手を回すとドアの方を見た。
「一件落着じゃな!!おーい、いつまでそこにおるつもりじゃ、もう入って来て大丈夫じゃぞ!!」
夜一の掛け声に、全員が驚いてドアの方を見ると、ゆっくりとドアが開き乱菊、吉良、檜佐木、白、恋次、一角、拳西、ローズがゾロゾロと入って来た。
「……嫌な噂を聞いたから、心配して来たのよ、皆」
1番先頭の乱菊が、申し訳無さそうに喋りだした。
「そうしたら霧島君の怒鳴り声が聞こえて…」
「何か、入れない雰囲気だったから…」
「皆で終わるまで待と〜ってなって」
吉良、檜佐木、白と説明をバトンタッチしていき、二人の関係を知らない人達は何とも言えない顔で床を見ていた。ただし白は一人ニコニコしていた。
「よかったねえ、シンズィ!!おめでと!!まこリンもおめでとう!!!」
気まずい空気をものともせず、白は元気いっぱいに二人を祝福した。この時ばかりは、白の性格に助けられたと、誰しもが思った。
「そう、だな。言うべき事はそれだよな。霧島、良かったな」
白を見て、一角も二人を祝福すると、少しずつ皆の表情が和らいでいき、口々に祝いを述べ始めた。それを見て、乱菊や拳西、ローズは安心したように肩の力を抜いていた。
夜一を始め、執務室に来た面々は平子と真に詫びを言いながら帰っていき、ようやく静かな空間になった。
「あー…疲れたわ。桃、すまん、茶淹れて」
「はい」
平子はドサリとソファに倒れるように腰を下ろし、背もたれに頭を預けた。
真も雛森について給湯室に入ると、茶葉缶を持つ雛森の手が震えているのに気がついた。
「桃さん?……」
真が心配して雛森の顔を覗き込むと、雛森はポロポロと泣いていた。口をキツく結んで我慢をしようとはしているようだが、こらえ切れない涙の粒が頬をつたっていた。
「な、ど、どうしたんですか?!桃さん。あ、砕蜂隊長ですか?すみません。桃さんにまで迷惑かけて…」
雛森は首を横に振って、真の推測が違っている事を伝えた。何度も涙を拭い、深呼吸をして、雛森はようやく声を出した。
「見てて……嬉しくなっちゃって……」
雛森は鼻水を啜ると、赤く腫れた目元を細めて真に笑顔を見せた。
「真さんも、平子隊長も、お互いを凄く大事にしてるんだなーって、見てて思って………それで、なんて素敵な関係だろう、って………嬉しくなっちゃって………」
「かーっ!!桃はホンマに優しい子ォやのー!!」
いつの間にか入口に立っていた平子が、サッシに体をもたれさせながら声をもらし、真も雛森も驚いてそっちを見た。
「すまんかったな、桃。迷惑かけて」
平子は笑顔で二人に近寄ると、雛森から茶葉缶を奪って急須を取り出した。
「あ、私が…」
「ええ、ええ。俺やるわ。俺が飲みたい言うたんやし」
平子はさっさと3人分のお茶を淹れると、戸棚から茶菓子を出して、雛森と真を誘ってソファに行った。
3人共黙ってお茶を飲み、しばらく沈黙が続いたが、真が口を開いた。
「…私は、知られて良かったと思いました」
雛森も平子も、黙って真を見つめた。
「いろいろ…疲れちゃって…」
「せやなあ……俺も疲れたわ。なんでか、ここ数日、ホンマに隠すのしんどかったしなあ」
それにやな、と言葉を続けて、平子は首をかしげて真の目を真っ直ぐ捉えた。
「移動の話も、あったしな」
平子の目は、真の答えを受け入れる準備が整っていた。多分、初めから分かってはいたのだろうが、黙って待っていてくれた平子は、やはり偉大だと思った。
「………私は………。八番隊に、行こうと思います」
真も背筋を伸ばして平子を見据え、ハッキリとした言葉で意思を伝えた。
「せか。そういうと、思っとったわ」
平子は口元を上げて微笑み、一口お茶を飲んだ。
「今まで本当に、お世話になりました。桃さんも」
真はソファに座ったまま頭を深く下げ、二人に感謝を述べた。すると、真の隣から鼻をすする音が聞こえた。
「桃〜。泣くな泣くな。同じ副隊長になるんやから、喜べや」
「そうなんですけど〜、寂しくって〜……うわ〜ん!」
顔を覆って泣く雛森を見ていたら、真も悲しくなってきて、目頭が熱くなるのを感じた。
「桃さん……ありがとうございます……」
「真さぁーん!!」
真の胸に飛び込んで泣く雛森を、真もしっかり抱き止めて雛森の髪の毛に顔を埋めた。
五番隊に突撃した面々は、そのまま居酒屋になだれ込んでいた。(砕蜂は帰った)
「いやー、まさか真が平子のようなタイプに惚れるとは思わなかったのお。平子も今までとは大分趣味が変わったんじゃないか?」
「僕も最初真子から話を聞いた時は驚いたんだけど。今までとは気持ちの入れ方が違うんだよ、夜一さん」
夜一とローズが話しているのを横で聞いていた乱菊が、興味を持ったように夜一に近づいた。
「平子隊長のタイプって、どんなだったんですか?」
「ギャルや。ギャル。とりあえず彼氏がいたらいい、みたいな軽いやつ」
質問に答えたのは、夜一でもローズでもなく、今しがた到着したリサだった。どうやら白が呼んだらしく、手を振って迎えていた。
「ま、あたしは最初から気づいとったけどね、あの二人。早く言ってほしかったわ」
リサは着席しながら、淡々と言い放った。
「どういう事だよリサ。お前、霧島と接点無かったじゃねえか」
白の隣の拳西が不思議そうにリサに聞いたが、リサは拳西を見ずにメニュー表を見ていた。
「買っていくのの趣味が変わったで、好きな女が出来たって直ぐ分かったわ。真を初めて見たとき、そのまんま過ぎてすぐ分かったし、真子が突然買いに来んくなって、くっついたのもすぐ分かった」
「買っていくの?」
白が頭を捻ってリサを見ると、他の男達が突然お喋りをやめて、あからさまにリサを見ないようにしていた。
「ほーう、そういう事か………」
察した夜一が意地悪な笑みを浮かべると、リサの横に行き、酒の入ったお猪口をリサに渡した。
「ちなみに、あやつらはどんな物を買うていくんじゃ?」
「タイトル?ジャンル?」
「あー!!!!!!!!矢胴丸隊長!!!!!どうぞ先にこの酒をお飲みください!!!!!!!!」
「こちらもどうぞ!!!!」
「好きなの頼んでください!!!!俺らで出すんで!!!!!!」
「隊長副隊長揃ってますけえ!!!!!どんだけでも飲んでください!!!!!!」
突然男達が立ち上がりリサに接待するのを見て、夜一は腹を抱えて笑い、乱菊は喜んで酒を追加し始めた。
「いやお前らリサの店で買ってんのかよ」
「みんなお得意様やよ」
