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平子編

二人のその後 16

 真は道場の中央に進んだが、手には何も持っていなかった。
「霧島さん、木刀を」
曽我部が木刀を渡そうとしてきたが、真が断った。
「いや、いらないよ。私は素手でやる。ほら、見習いの人達、並んで。時間がおしい」
真に急かされ、死神見習い達がおずおずと木刀を握って列を作り始めた。
 「よろしくお願いします」
最初の1人が礼をして木刀を握ると、真も白打の構えを取った。
「変わった構えですね」
リサの隣の有堂がリサに話しかけたが、リサは、うん、と言うだけで大した反応はしなかった。
「いつでも来ていいよ」
真に言われると、彼は地面を蹴って木刀を振り上げた。
「振り上げる動きが遅い。素振りが足りない」
 真の間合いに入った瞬間に、脇腹に回し蹴りが入って、横に吹っ飛んだ。
「次」
真は列の見習い達に直ぐに出てくるように言い、手合わせした者には必ず1言添えて倒していった。
 死神見習い達はあっという間に手合わせを終え、一般隊士達は慌てて列に並んで行った。それまでは15分もかからなかった。
「死神見習いの皆は、先輩達の動きをよく見て。どこが弱いか予想しながら観察してごらん」
真は隅に集る見習い達に声をかけ、さっきと変わらないペースで隊士達をさばいていった。
 「よっぽど余裕がないとできませんね」
 リサの隣の有堂が、真の指導を見ながら和やかにリサに話しかけた。リサは表情を変えずに真を見ている。
「悠長な事言っとったらあかんよ、龍介。あんたもやるんやで、善戦しんと、カッコ悪いよ」
「あ、そっか」
「そっか、やないて。アンタは緊張感が無いんやて、いっつも」
二人が話している間に、いつしか半分以上の隊士が終わっていた。真は汗一つかいていない。
 みるみるうちに一般隊士は終わりに近づき、1時間経つ頃に席官の順番が回ってきた。
 真の動きはいよいよ磨きがかかり、蹴りや突きは見習い死神達には見えなくなってきていた。だが彼らは真に言われたように、真剣に真と対戦相手の動きを見ていた。
「振るまえに一回刀を引く癖がある。直さないと、動きが読まれるよ」
真はとうとう一般隊士達を倒し終え、席官に移った。その目は高揚して、随分楽しそうに見えた。
「強いだけじゃ無く、凄い集中力だ。アドバイスが単調じゃ無いですね、裏付けがあるから分かりやすい」
「龍介。あんた、アレできるようになりゃあ」
「俺は無理ですよ、集中力無いんで。アンの方が向いてます」
「アンよりアンタの方が副官に近いで、アンタが出来るようにならなかん」
「…?霧島さんは副官にしないんですか?」
「するよ。でも、ずっとうちには置いとけん。アレは、いろんな隊に行くべきやら」
「なるほど。できる限り努力します」
 そのうちに、善戦した曽我部が下され、有堂の番になった。有堂も、その上の四席も善戦はしたものの、真に木刀がカスル事も無く終わってしまった。昼までには、1時間以上時間が余った。
「ありがとうございました。じゃあ各自で、指摘された所を直すように鍛錬してください。分からない事があれば、何でも聞きにきて」
清々しい笑顔の真の声で手合わせは終わり、皆それぞれの鍛錬をしに解散していった。
 走り込む者、素振りをする者、仲間と木刀を合わせる者、と様々だったが、皆やるべき事が明確で迷いや不信感は無さそうだった。
 「お疲れ。良い指導やった」
 戻ってきた真に、リサが座ったまま声をかけた。流石に汗はかいているが、真には疲れている様子は無かった。
「ありがとうございます。イベント的に良いとは思ったんですが、もっと時間を上手く使った方が良かったですか?」
「いや、皆も楽しそうにやったし、いいよ。普段はこんなの見る機会無いしね」
「良かった」
「後ろ。話したいみたいやよ」
真の後ろには、緊張気味の死神見習い達が真に質問しに来ていた。真は快く質問答え、構えから丁寧に教えた。昼まで真の元には質問の列が途切れなかった。

 正午の鐘がなると、有堂が真を解放してくれた。
「さあ、昼ごはんだ。質問は指南役にでも聞いて。はいはい散った散った」
皆はやや不満げだったが、渋々去っていった。
「真、何が食べたい。アンタの食べたいのでいいよ」
ずっと座っていたリサが、よっこらしょっと立ち上がって真に質問をよこした。真は少し考えたあと、リサに答えた。
「蕎麦、でもいいですか?」
「いいよ。行こ」
リサは真の横に並ぶ事なく、サッサと道場から出て行った為、真は急いでリサを追った。


 蕎麦屋で向かい合わせで座り、メニューを見ていると、何やら何処かから不穏な空気が漂ってきた。ヒソヒソ話しているが、こっちにワザと聞こえるようにしているのが、雰囲気で分かった。
 リサも気づいているようで、真に目配せをしてから声の方に目だけ向けた。真もリサが見た方を見ると、見たことあるような顔の女達が額を寄せ合って話していた。
 どこで見たっけ。見覚えはあるけど……。
 女達の声は、集中すれば容易に聞こえた。
「うわっ、一緒にいる……」
「やっぱデキてんじゃない?」
「女同士じゃん、キモっ」
「平子隊長知ってんのかな」
「キス写見せる?」
平子の名前が出た所で、モーニングを食べに行った時に見た女達だと思い出した。
 キス写と言うことは、リサに口移しで水を飲まされた時の写真が手元にあると言う事だろうか。平子隊長のファンらしいけど、なんとも稚拙なやり方で人を貶めるな…。よっぽど私が気に入らないんだな…。
 真は呆れ返り、はあ…と大きくため息をついた。
「すみません、矢胴丸隊長、少し行ってきます」
「ん、よろしく」
真が立ち上がると、女達の軽蔑の目が真に向いた。
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