平子編
二人のその後 15
「3日連続やな」
真はまた平子の家にいた。寝室でベッドを背もたれにして、並んで座っていた。
「……近藤の事、みんな知ってていなくなったんですか?」
真は浮かない顔で平子に聞いた。平子もバツが悪いらしく、真を見なかった。
「お前がトイレ行っとる時に、ユキが今日告るって宣言してん。玉砕覚悟やったから、皆協力したんやろ」
「あなたも?」
「無理矢理させられてん。分かるやろ」
「分かるけども………」
真は膝を抱えて頭を埋めた。
「どした」
「………心が疲れた」
頭を埋めたままそう言う真を、平子はジッと見てから、肩に腕を回して自分にもたれさせた。
「内緒の関係は疲れるなぁ」
「………うん」
二人はしばらくそうして、黙って寄り添っていた。
真は今日、自分を四席に引き上げてくれた弓親と決別し、大事に育てていた近藤を振ったのだ。それをステータスと思える女だったら、こんなにも疲れないだろうが、真には無理だろう。
自分以外の男の事で真が落ち込むのは平子的には複雑だが、そういう女を好きになったのだ。この繊細さが真なのだと割り切って、平子は真を受け入れていた。
夜の10時半になる頃、真は平子から離れ立ち上がった。
「ありがとうございました。帰ります」
「明日大丈夫か?」
平子も立ち上がり、玄関に向かう真について歩いた。
「切り替えます。もしかしたら明日もお邪魔するかも」
「おん。いつでも来ぃ」
振り向いて微笑む真に顔を近づけて、二人は短いキスをした。
「おやすみなさい」
「おやすみさん」
帰り道、真は頭から弓親の事も近藤の事も追い出して、明日への気構えをつくった。
翌朝八番隊に行くと、門の所でリサが待っていた。
「おはようございます。待っていてくださったんですか?」
リサの所まで駆け寄り挨拶をすると、リサは相変わらずの無表情で門番に門を開けさせた。
「あんな三席には任せれんからね。お願いしとるのは私やし」
門をくぐるリサを追って、真も門をくぐった。
リサはさっさと歩きながら、真に説明を始めた。
「隊士達には道場に集まるよう言ってあるで、まず自己紹介や。その後、いきなりやけど集団訓練の指揮をとってね。どんなふうに動かして貰ってもいいで。昼はあたしとや、それでいい?」
「はい、大丈夫です。集団訓練は、どの規模ですか?」
「私以外全員や」
大規模な訓練に真が驚いていると、そうや、とリサが振り向いて真を見た。
「円乗寺はおらんから。昨日からずっと書類仕事しかさせとらん」
まだ許されていないんだ………。
道場の前には席官と思われる男が待っており、リサと真の姿を見ると、少しだけ扉を開けて中にいる人とボソボソ話してから扉を閉めた。
「おはようございます、霧島さん。五席の有堂龍介と申します。まだ全員集まっていないので、今しばらくお待ちください」
有堂は丁寧に真に挨拶をすると、リサと真を外に置かれた長椅子に案内した。
リサに促され、真はリサと並んで座った。すると、女が湯呑を2つお盆に乗せて現れた。
「おはようございます。霧島三席。四席の曽我部アンです。よろしくお願いします」
人の良さそうな笑顔で彼女は挨拶をして、真達の元から離れていった。
「できとるやろ。七緒がちゃんと教育しとったから。何故か円乗寺だけ変なんやて、個性が強すぎて」
苦笑いをするリサにつられて、真も思わず苦笑いをした。
「真が来るって言ったら、皆嬉しそうやった。他隊の隊士からも慕われとるんやね」
「昔、八番隊の人達にも指導した事があって」
「ああ、七緒から聞いたわ。更木に何も言われんかった?」
「更木隊長は人が何しようが気になされないので」
「そうやろうね」
リサは受け答えが軽くて楽だった。無理に賑やかにさせようともせず、肩の力を抜くことができた。
二人でしばらく話していると、有堂が呼びに来た。
「隊長。全員集まりました」
「分かった。今行く」
立ち上がったリサに続いて真も立ち上がると、リサが真を真剣な顔つきで見据えた。
「……先に言っとくわ。あんたがウチでどんな副官になりたいか、イメージが持てないようなら、悪いけど、この話は断って」
まるで真の考えを見透かしているようだった。真も、直ぐに答えを出さないのはそこが引っかかっていたからだ。ただ頑張るだけじゃ駄目なのは分かっている。どこをどう頑張りたいのか、明確なイメージがほしかった。
「はい」
真は力強く返事をして、リサについて道場に入った。
「今日1日、副隊長を務めます、霧島真です。よろしくお願いします」
真が挨拶をすると、割れんばかりの拍手が起きた。隊士達の中には、むかし稽古をつけた記憶のある顔がチラホラあった。
「とりあえずお試しやから、今後副隊長になるかは分からん。期待は持たずに、今日1日は本当の副隊長として接して」
リサは説明をし終えると、真を見た。
「で、この後はどうするの。考えた?」
リサの質問に、真は少し考えたあと、提案をした。
「全員を一斉に動かさないといけませんか?」
「別に何でも構わんよ」
それを聞くと真は微笑んで、真の指示を待つ全員を見た。
「ここにいる全員と手合わせをします。皆さん、木刀を持ってください」
真の発言に、場内は一気にザワついた。皆が口々に疑問を口にした。
「霧島さん1人と全員ってこと?」
「何を言い出すんだ」
騒ぐ皆を尻目に、真は脇にいた曽我部に頼んで木刀を出してもらった。
「これをする意図は?」
リサは特に不信感も無さそうに、ただ興味があると言うふうに真に質問をした。
「道具を用意したり班分けの時間が惜しいですし、皆を理解して私の事も理解してもらうには1番いいかと」
「ふーん…まあいいわ。やってみて」
リサは道場の上座に置かれた座布団に座り、真は全員を隅に寄せた。
「じゃあ今年見習いになった人から」
そう言った真の手には木刀は握られていなかった。
「3日連続やな」
真はまた平子の家にいた。寝室でベッドを背もたれにして、並んで座っていた。
「……近藤の事、みんな知ってていなくなったんですか?」
真は浮かない顔で平子に聞いた。平子もバツが悪いらしく、真を見なかった。
「お前がトイレ行っとる時に、ユキが今日告るって宣言してん。玉砕覚悟やったから、皆協力したんやろ」
「あなたも?」
「無理矢理させられてん。分かるやろ」
「分かるけども………」
真は膝を抱えて頭を埋めた。
「どした」
「………心が疲れた」
頭を埋めたままそう言う真を、平子はジッと見てから、肩に腕を回して自分にもたれさせた。
「内緒の関係は疲れるなぁ」
「………うん」
二人はしばらくそうして、黙って寄り添っていた。
真は今日、自分を四席に引き上げてくれた弓親と決別し、大事に育てていた近藤を振ったのだ。それをステータスと思える女だったら、こんなにも疲れないだろうが、真には無理だろう。
自分以外の男の事で真が落ち込むのは平子的には複雑だが、そういう女を好きになったのだ。この繊細さが真なのだと割り切って、平子は真を受け入れていた。
夜の10時半になる頃、真は平子から離れ立ち上がった。
「ありがとうございました。帰ります」
「明日大丈夫か?」
平子も立ち上がり、玄関に向かう真について歩いた。
「切り替えます。もしかしたら明日もお邪魔するかも」
「おん。いつでも来ぃ」
振り向いて微笑む真に顔を近づけて、二人は短いキスをした。
「おやすみなさい」
「おやすみさん」
帰り道、真は頭から弓親の事も近藤の事も追い出して、明日への気構えをつくった。
翌朝八番隊に行くと、門の所でリサが待っていた。
「おはようございます。待っていてくださったんですか?」
リサの所まで駆け寄り挨拶をすると、リサは相変わらずの無表情で門番に門を開けさせた。
「あんな三席には任せれんからね。お願いしとるのは私やし」
門をくぐるリサを追って、真も門をくぐった。
リサはさっさと歩きながら、真に説明を始めた。
「隊士達には道場に集まるよう言ってあるで、まず自己紹介や。その後、いきなりやけど集団訓練の指揮をとってね。どんなふうに動かして貰ってもいいで。昼はあたしとや、それでいい?」
「はい、大丈夫です。集団訓練は、どの規模ですか?」
「私以外全員や」
大規模な訓練に真が驚いていると、そうや、とリサが振り向いて真を見た。
「円乗寺はおらんから。昨日からずっと書類仕事しかさせとらん」
まだ許されていないんだ………。
道場の前には席官と思われる男が待っており、リサと真の姿を見ると、少しだけ扉を開けて中にいる人とボソボソ話してから扉を閉めた。
「おはようございます、霧島さん。五席の有堂龍介と申します。まだ全員集まっていないので、今しばらくお待ちください」
有堂は丁寧に真に挨拶をすると、リサと真を外に置かれた長椅子に案内した。
リサに促され、真はリサと並んで座った。すると、女が湯呑を2つお盆に乗せて現れた。
「おはようございます。霧島三席。四席の曽我部アンです。よろしくお願いします」
人の良さそうな笑顔で彼女は挨拶をして、真達の元から離れていった。
「できとるやろ。七緒がちゃんと教育しとったから。何故か円乗寺だけ変なんやて、個性が強すぎて」
苦笑いをするリサにつられて、真も思わず苦笑いをした。
「真が来るって言ったら、皆嬉しそうやった。他隊の隊士からも慕われとるんやね」
「昔、八番隊の人達にも指導した事があって」
「ああ、七緒から聞いたわ。更木に何も言われんかった?」
「更木隊長は人が何しようが気になされないので」
「そうやろうね」
リサは受け答えが軽くて楽だった。無理に賑やかにさせようともせず、肩の力を抜くことができた。
二人でしばらく話していると、有堂が呼びに来た。
「隊長。全員集まりました」
「分かった。今行く」
立ち上がったリサに続いて真も立ち上がると、リサが真を真剣な顔つきで見据えた。
「……先に言っとくわ。あんたがウチでどんな副官になりたいか、イメージが持てないようなら、悪いけど、この話は断って」
まるで真の考えを見透かしているようだった。真も、直ぐに答えを出さないのはそこが引っかかっていたからだ。ただ頑張るだけじゃ駄目なのは分かっている。どこをどう頑張りたいのか、明確なイメージがほしかった。
「はい」
真は力強く返事をして、リサについて道場に入った。
「今日1日、副隊長を務めます、霧島真です。よろしくお願いします」
真が挨拶をすると、割れんばかりの拍手が起きた。隊士達の中には、むかし稽古をつけた記憶のある顔がチラホラあった。
「とりあえずお試しやから、今後副隊長になるかは分からん。期待は持たずに、今日1日は本当の副隊長として接して」
リサは説明をし終えると、真を見た。
「で、この後はどうするの。考えた?」
リサの質問に、真は少し考えたあと、提案をした。
「全員を一斉に動かさないといけませんか?」
「別に何でも構わんよ」
それを聞くと真は微笑んで、真の指示を待つ全員を見た。
「ここにいる全員と手合わせをします。皆さん、木刀を持ってください」
真の発言に、場内は一気にザワついた。皆が口々に疑問を口にした。
「霧島さん1人と全員ってこと?」
「何を言い出すんだ」
騒ぐ皆を尻目に、真は脇にいた曽我部に頼んで木刀を出してもらった。
「これをする意図は?」
リサは特に不信感も無さそうに、ただ興味があると言うふうに真に質問をした。
「道具を用意したり班分けの時間が惜しいですし、皆を理解して私の事も理解してもらうには1番いいかと」
「ふーん…まあいいわ。やってみて」
リサは道場の上座に置かれた座布団に座り、真は全員を隅に寄せた。
「じゃあ今年見習いになった人から」
そう言った真の手には木刀は握られていなかった。
