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平子編

二人のその後 14

 近藤の隣は真だった。
 真は五番隊に移ってきてから、ずっと近藤と一緒に訓練を担ってきた為、近藤の成長には人一倍感慨深く感じていた。
「素晴らしい指導だった。戦いながら、動きをよく見てる。経験と知識がないと、あの指導はできないよ」
「霧島さんを見て学んでましたから。あ、前に借りた本が役に立ちました」
「それは良かった」
真は近藤と話しながら酒を注いであげていた。もちろん真はお茶だ。
 しばらく歓談してから、真が席を立ちお手洗いに行った。真が居なくなった後、近藤はしばらく黙ってお猪口を見つめていた。
「近藤君、どうかした?飲みすぎちゃった?」
雛森が心配して声をかけると、近藤は緊張した面持ちで顔を上げて、雛森を見た。
「俺は……一人前になれたでしょうか。雛森副隊長」
「う、うん?そりゃあ、集団訓練を一人で回せたんだから立派に一人前だよ」
「よしっ」
近藤はまた俯くと、一回唇を噛んでまた雛森を見た。
「俺、今日、霧島さんに告白します!」
いきなりの宣言に、場の全員が驚いて酒を吹いたり、持っている物を落としたりした。雛森も呆気に取られているし、平子の顔も引きつっている。二人とも、近藤の気持ちに全く気づいていなかった。そして直ぐに玉砕する結末が分かり、哀れに思った。そんな事は知らない周りは、ワーワー騒いでいる。
「近藤!?お前、そうだったのか?!」
「やだ、全然気づかなかった」
「可能性あんのかよ」
それぞれが好き勝手近藤を追求し、近藤は決意の表情のままお猪口を見ていた。
「可能性…は、無いさ。でも、霧島さんに釣り合う男になれたら言おうって、ずっと思ってやってきたんだ。今日がその時だ」
そう言って近藤は、お猪口の中の酒を一気に飲み干した。周りは近藤の男気に触発されて、応援モードになっていた。
「男前だぜ近藤!!」
「頑張ってね近藤さん!」
「骨は拾ってやるよ!!」
皆が近藤を囲って励ましていると、ちょうど真が帰ってきた。
「なんの話?」
ハンカチで手を拭きながら、盛り上がる周りを不思議そうに見ているが、誰も説明できずに慌てていた。
「いやあ、近藤の努力が実って良かったなあ、と!!!なあ!?」
「そうそう!!!ホント近藤さん今まで頑張ってたから!」
白々しい笑顔でそれぞれが自分の席に戻っていき、真は首をかしげながら近藤の隣に座った。
「あ、あの、霧島さん」
鳥つくねに箸をを伸ばす真に向かって、近藤が緊張した声で吃りながら話しかけた。
「うん?」
「い、今まで指導して貰った、お、お礼を、したいと思うんですが………」
近藤の誘いに、お喋りをしている全員、話をやめずに耳を欹てた。真は別に驚かずに、鳥つくねを小皿に取った。
「そういうのは、受け付けないようにしてるんだ」
いつも通りの冷静な声で、真は近藤の誘いを断った。
「昔、いろんな隊の人をまとめて指導した時、きりが無くなってね。それに、物を貰うと無意識に贔屓の気持ちが出かねないから。近藤が成長してくれれば十分だよ」
気持ちはありがとう、と微笑んで、真は食事を再開した。近藤の寂しそうな笑顔に気づいているかは分からない。
 相変わらずの難攻不落っぷりやな。隙が微塵もあらへんやん。まあ、俺はそれでええんやけども。
 二人の様子を横目で見ながら、平子は苦笑いをした。よくもまあ、この女を陥落させたものだ、と自画自賛してしまう程、真は高値の花なのを再確認した。
 食事をする姿も、何と言うか、品がある。酔って声が大きくなっていく周りとは違い、真の周りだけ別の空間のようだった。平子はそんな真に見とれていた事に気づき、直ぐに目をそらした。
 
 宴会が終わって皆で帰っていると、八席の女が平子にそっと寄ってきて囁いた。
「二人きりにさせてあげましょう」
彼女の目線の先には、最後尾で肩を並べて話す真と近藤がいた。周りが気を利かせて二人にさせている。平子はゲンナリしながら、彼女に囁き返した。
「さっきの見たやろ。可能性無いで」
「それでも、です!」
平子は腕を引かれて、真と近藤から離れていった。
 街灯の無い建物の隙間に押し込まれると、既に全員が待っていた。
「隊長、霊圧消して消して!」
「はあ〜。二人にさせといて、覗くんか〜い」
まあええわ。と言いながら平子は言われるがまま霊圧を消した。
「……隊長が一番乗ってきそうだと思ったのに、意外ッスね」
「せやかて、近藤がかわいそうやろ。見せもんにされて」
不安の中気持ちを伝える辛さが平子には痛い程分かり、近藤に同情した。
「やっぱ全員帰るぞ。ほれ、そっちから出エ」
平子はグイグイと皆を押して、反対側に進ませ、その場から離した。
 「あれ、皆は?」
 近藤に明日の引き継ぎを話していたら、知らないうちに皆がいなくなっており、真は辺りを見回した。五番隊の人達だけでなく、人影は1つも見当たらなかった。
「あ、あの!霧島さん!」
近藤に呼ばれ真がそっちを見ると、緊張した顔で真を見つめる近藤がいた。何かを決意した顔だ。
「どうかした?」
「ずっと好きでした!!ようやく、あなたに釣り合う男になれたと思います!!俺と付き合ってください!!!」
早口で思いを告げ、頭を下げて手を差し出す近藤を、真は驚いて凝視した。
 しばらく沈黙したあと、真が息を吸う音が、頭を下げる近藤に届いた。
「ごめん。気持ちには、応えられない」
近藤は止めていた息をようやく吐き出し、顔を上げた。真は笑ってもいなかったが、近藤から距離を取るような様子もなかった。
「……分かっていました。でも、どうしても言いたくて。はっきり言ってくださり、ありがとうございました」
近藤は無理矢理真に笑顔を向けた。真はそれでも笑わない。
「しばらく、君を傷つけると思うけど、仕事で距離は取らないから」
「はい……むしろありがたいです。明日から…は、居ないか……明後日からまた、よろしくお願いします」
近藤はまた勢いよく頭を下げると、夜道を走って帰っていった。
 真は近藤の姿が見えなくなるとため息をつき、頭をかいてから伝令神機を取り出した。
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