平子編
二人のその後 13
乱菊と射場のすれ違いくらいのタイミングで、リサが五番隊執務室に来た。真の様子を見に来たらしい。
「どう、体は。乱菊から、随分酒に弱いって聞いたよ」
「はい。お陰様で…なんともありません。ご心配おかけしました」
リサはソファに座り、真にも座るように言った為、真は向かいに腰掛けた。雛森はお茶を淹れに行き、平子は自分の机で二人の会話の様子を見守った。
「調子を見に来たのもあるけど、一個提案があってね」
「提案、ですか?」
「うん。明日、1日副隊長試してみるの、どう?」
「えらい急な誘いやな」
机から、平子が呆れたような声を出した。
「こっちも早めに答えがほしいでね」
間髪いれずにリサが受け答えると、平子が、ほうかい、と諦めた様子を見せた。
「明日が無理なら明後日でもええよ。でも、やるなら早めにやりたい。どう?」
「仕事の割り振りを考えてから、返事を……」
「あら、それなら私が割り振りますよ」
お茶を持ってきた雛森が、にこやかにリサと真に言った。
「急ぎの仕事もありませんし、真さんの分は私と平子隊長でできます。それに集団訓練も、もう近藤君に任せられるって言ってましたよね?」
雛森は真に、ね?と確認してから、平子の方をちらりと見た。
「………俺はどっちでもええ」
平子は椅子にもたれて、ぶっきらぼうにそう告げた。平子の様子を見たリサが、また真に向き直り、確認をとった
「隊長はああ言っとるけど、アンタはやりたい?やりたくない?」
「…ぜひ。お願いします」
真の返事を聞くと、リサは口の端を上げて笑った。
「じゃあ、明日八番隊に出勤してこやあね。筆記道具とかはコッチで用意するで、持ってこんくていいから」
「はい」
リサはそれだけ言って立ち上がり、平子や雛森に挨拶をすると執務室から出て行った。
真は、副隊長昇進に前向きだ。見ていて分かる。今は多分、八番隊、もといリサとの相性とか、副隊長になるに当たっての心構えとか、そういうのを模索しているのだろう、と平子は感じていた。真が進みたいなら止めはしない。だが、いささか早急なリサの行動に不満が無いと言えば嘘になる。
平子は自分の感情を隠すように、お茶を啜った。
「真さんは、明日に向けて準備をしてくださいね。割り振りは私がやりますから」
雛森はにこやかに真と話している。真に引き抜きの話が来た時は寂しそうだったが、切り替えが早いというか、さっぱりしている。雛森の事だから、真を思っての行動だと思うが、芯の強さを感じる。
「桃は、寂しくないんか」
午後、執務室には平子と雛森の二人だけだった。真は集団訓練に行っている。
窓からは、六席の近藤が前に立って指示を出している姿が見えた。今日は最初から最後まで任せるようだ。
「真さんの昇進ですか?」
雛森は仕事の手を止めて、平子を見た。
「昨日は寂しそうやったやん」
平子は頬杖をつきながらハンコを押しており、雛森の方は見ていない。
「寂しいですよ〜。でも、真さんにはそんなの見せたら駄目じゃないですか。真さんが昇進したいなら、心置きなく行ってほしいですから」
「桃は優しい子やな〜」
平子はハンコを置いて、伸びをした。
「平子隊長こそ、真さんが居なくなると寂しいんじゃないですか?」
「そんな訳無いやろ。会えんくなる訳や無いし」
平子が横目で窓の外を見ると、訓練場の隅で近藤を見守っていた真の横に、弓親がいるのが見えた。
「桃、来てみ。綾瀬川が来とるぞ、真どないするやろ」
平子の呼びかけに、雛森は筆を置いて窓に駆け寄った。
「真さん、ファイトですよ!」
聞こえる訳は無いのだが、雛森は拳を握って真にエールを送った。
真は弓親と真っ直ぐ対面して、何か話しているような雰囲気だった。数秒話したあと、二人の動きは止まり、弓親がゆっくり踵を返して帰って行った。
それを見ていた平子と雛森は、執務室で手を叩いて喜んだ。
「よーやった。頑張ったなあ、アイツ」
「ホントですよー!あー良かった!安心しましたー」
真は弓親の後ろ姿を見送る事も無く、直ぐに集団訓練の見守りに戻った。遠くからでもその清々しい姿が分かり、真が弓親と完全に決別できた事が見て取れた。
その日は、最初から最後まで六席の近藤が訓練を進め、明日を前にして真の心配が1つ無くなった。
真が執務室に戻ると、平子も雛森も含みのある笑顔で真を待ち受けていた。
「合格やなあ。真」
「お疲れ様でした、真さん。大変でしたね」
二人の言葉に、弓親の事を言っていると分かったが、真は大した反応はせず微笑み返すだけで、席についた。
「それより、近藤を褒めてあげてください。あの人数の訓練を殆ど一人で回して、指導も上手くやれていましたから」
「せやな。桃、店予約し。打ち上げするぞ」
「はいっ」
「真は、近藤と他適当に声かけ、十席の駿河まででいいやろ」
「はい」
真が近藤を改めて労いに部屋を訪れ、打ち上げの事を話すと、近藤を含め他のメンバーも喜んで了承してくれた。
夜、全員が居酒屋に集まると、平子が乾杯の音頭を取った。
「はい、ほんなら、六席の近藤雪貞君の成長を記念して、かんぱーい」
ゆるい乾杯のあと、近藤を中心にして和やかな宴会が始まった。
乱菊と射場のすれ違いくらいのタイミングで、リサが五番隊執務室に来た。真の様子を見に来たらしい。
「どう、体は。乱菊から、随分酒に弱いって聞いたよ」
「はい。お陰様で…なんともありません。ご心配おかけしました」
リサはソファに座り、真にも座るように言った為、真は向かいに腰掛けた。雛森はお茶を淹れに行き、平子は自分の机で二人の会話の様子を見守った。
「調子を見に来たのもあるけど、一個提案があってね」
「提案、ですか?」
「うん。明日、1日副隊長試してみるの、どう?」
「えらい急な誘いやな」
机から、平子が呆れたような声を出した。
「こっちも早めに答えがほしいでね」
間髪いれずにリサが受け答えると、平子が、ほうかい、と諦めた様子を見せた。
「明日が無理なら明後日でもええよ。でも、やるなら早めにやりたい。どう?」
「仕事の割り振りを考えてから、返事を……」
「あら、それなら私が割り振りますよ」
お茶を持ってきた雛森が、にこやかにリサと真に言った。
「急ぎの仕事もありませんし、真さんの分は私と平子隊長でできます。それに集団訓練も、もう近藤君に任せられるって言ってましたよね?」
雛森は真に、ね?と確認してから、平子の方をちらりと見た。
「………俺はどっちでもええ」
平子は椅子にもたれて、ぶっきらぼうにそう告げた。平子の様子を見たリサが、また真に向き直り、確認をとった
「隊長はああ言っとるけど、アンタはやりたい?やりたくない?」
「…ぜひ。お願いします」
真の返事を聞くと、リサは口の端を上げて笑った。
「じゃあ、明日八番隊に出勤してこやあね。筆記道具とかはコッチで用意するで、持ってこんくていいから」
「はい」
リサはそれだけ言って立ち上がり、平子や雛森に挨拶をすると執務室から出て行った。
真は、副隊長昇進に前向きだ。見ていて分かる。今は多分、八番隊、もといリサとの相性とか、副隊長になるに当たっての心構えとか、そういうのを模索しているのだろう、と平子は感じていた。真が進みたいなら止めはしない。だが、いささか早急なリサの行動に不満が無いと言えば嘘になる。
平子は自分の感情を隠すように、お茶を啜った。
「真さんは、明日に向けて準備をしてくださいね。割り振りは私がやりますから」
雛森はにこやかに真と話している。真に引き抜きの話が来た時は寂しそうだったが、切り替えが早いというか、さっぱりしている。雛森の事だから、真を思っての行動だと思うが、芯の強さを感じる。
「桃は、寂しくないんか」
午後、執務室には平子と雛森の二人だけだった。真は集団訓練に行っている。
窓からは、六席の近藤が前に立って指示を出している姿が見えた。今日は最初から最後まで任せるようだ。
「真さんの昇進ですか?」
雛森は仕事の手を止めて、平子を見た。
「昨日は寂しそうやったやん」
平子は頬杖をつきながらハンコを押しており、雛森の方は見ていない。
「寂しいですよ〜。でも、真さんにはそんなの見せたら駄目じゃないですか。真さんが昇進したいなら、心置きなく行ってほしいですから」
「桃は優しい子やな〜」
平子はハンコを置いて、伸びをした。
「平子隊長こそ、真さんが居なくなると寂しいんじゃないですか?」
「そんな訳無いやろ。会えんくなる訳や無いし」
平子が横目で窓の外を見ると、訓練場の隅で近藤を見守っていた真の横に、弓親がいるのが見えた。
「桃、来てみ。綾瀬川が来とるぞ、真どないするやろ」
平子の呼びかけに、雛森は筆を置いて窓に駆け寄った。
「真さん、ファイトですよ!」
聞こえる訳は無いのだが、雛森は拳を握って真にエールを送った。
真は弓親と真っ直ぐ対面して、何か話しているような雰囲気だった。数秒話したあと、二人の動きは止まり、弓親がゆっくり踵を返して帰って行った。
それを見ていた平子と雛森は、執務室で手を叩いて喜んだ。
「よーやった。頑張ったなあ、アイツ」
「ホントですよー!あー良かった!安心しましたー」
真は弓親の後ろ姿を見送る事も無く、直ぐに集団訓練の見守りに戻った。遠くからでもその清々しい姿が分かり、真が弓親と完全に決別できた事が見て取れた。
その日は、最初から最後まで六席の近藤が訓練を進め、明日を前にして真の心配が1つ無くなった。
真が執務室に戻ると、平子も雛森も含みのある笑顔で真を待ち受けていた。
「合格やなあ。真」
「お疲れ様でした、真さん。大変でしたね」
二人の言葉に、弓親の事を言っていると分かったが、真は大した反応はせず微笑み返すだけで、席についた。
「それより、近藤を褒めてあげてください。あの人数の訓練を殆ど一人で回して、指導も上手くやれていましたから」
「せやな。桃、店予約し。打ち上げするぞ」
「はいっ」
「真は、近藤と他適当に声かけ、十席の駿河まででいいやろ」
「はい」
真が近藤を改めて労いに部屋を訪れ、打ち上げの事を話すと、近藤を含め他のメンバーも喜んで了承してくれた。
夜、全員が居酒屋に集まると、平子が乾杯の音頭を取った。
「はい、ほんなら、六席の近藤雪貞君の成長を記念して、かんぱーい」
ゆるい乾杯のあと、近藤を中心にして和やかな宴会が始まった。
