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羽化にはまだ早い 番外編

「真、お前、そんな好きなら、自分で買うたらええやん」
慰安旅行から数日後、五番隊舎にCDを借りに来た真に向かって、平子が言い放つ。変な顔で平子を見つめる真。
「現世、俺がついてったる」
途端に真の目がキラキラして、いいんですか?と聞いた。
「俺も久しぶりに、行きたいとこあるしな」
 非番の日を教えろと平子にいわれて、真が伝えると、平子が合わせて休みを取り、現世に行く日が決まった。

 当日、二人で現世に行くと、平子が義垓を用意してくれていた。
「……平子隊長………」
「何や」
「何やじゃないですよ。何で、男の義垓なんですか」
文句を言う真は、男の体になっていた。背が高く、体つきもガッシリしている。顔は、丸みが無くなったが、普段とあまり変わらない。服は、平子が用意した、白シャツにチノパンにスニーカー。
「ええやないか。におうてる。におうてる。」
「そういう問題じゃ……」
パシャ!
「わっ!」
突然の光に驚いて目を瞑った。そろそろと目を開けると、カメラを持った平子がいた。平子は続けて何枚も撮ってきた。真は、訳がわからず、顔を手で隠した。
「な、なんですか?やめてください」
「隠すな隠すな。お前が写真集出すいうから、協力したってるんやないか」
「なっ…!出しませんよ!!」
乱菊か、七緒さんか……言ったな。
 真は平子のカメラを取り上げ、地面に叩きつけようと振り上げた。
「あー!!!それやったら、もう、ついてったらんぞ!!!」
焦った平子が叫ぶと、真はピタリと止まり、苦々しく平子を睨んだ。
「大人しく返し」
平子が差し出した手に、不本意ながらカメラを渡した。
「よっしゃ。ほな行こか」
平子は鞄にカメラをしまうと、スタスタと歩き出した。CDとプレーヤーを買ったら、あのカメラを奪ってやろうと、真は腹の中で考えた。

 平子が連れてきたのは大きなビルだった。入り口に英語が書かれている。
「このビル全部にCDが置かれてるんやで」
「全部ですか!?」
真は思わず大きな声を出してしまった。想像を遥かに超えたスケールに、頭がついて行かなかった。
 平子に案内され、動く箱に乗って上に行くと、洋楽がかかっている部屋についた。
「お前が好きそうなんは、この辺りやろ。ロック、ポップスって見えるか、あそこら辺探してみ」
部屋にはギッチリCDが並べられ、若者や年配の人もそれぞれCDを物色していた。
 真は、以前平子に借りて気に入ったCD数枚と、同じバンドの別のアルバムを手に取った。もの珍しく辺りを見回していると、ヘッドフォンが目についた。
 よく見てみると、視聴できるみたいで、真はヘッドフォンを耳に当てて、音楽を流した。
 暫く聞いていると、一人の若い女性が真に近付いて来た。
 こっちをチラチラ見てきたので、何か用かと思い、ヘッドフォンを外して、女性に声をかけた。
「何か?」
女性は驚いて、顔を赤らめながら真が買おうとしているCDを指差した。 
「このバンド、お好きなんですか?」
「あ、はい。知人に借りてから、好きになりました」
「私も好きなんです!」
女性は軽快に話し始め、メンバーの事なども真にいろいろ教えてくれた。暫く話していると、女性は一人で来たのかと、真に聞いた。
「いや、連れがいるんです。ほら、あそこの」
真が指を指した方を女性が見ると、金髪オカッパの奇妙な男、平子がいた。
「え?あの人が友達?お兄さん変わってますね」
お兄さん?そうか、今自分はお兄さんなのか。
 すると、平子がこちらに気づいて近付いて来た。
 女性は明らかに動揺して、手短に別れを告げて去って行った。
「何や、あれ?」
早足で離れていく女性を見ながら、平子が訝しげに行った。
「さあ。少し話してただけです」
真は、平子に驚いて去っていった事は黙っていた。

 その後も、何故か女性から話しかけられる事が多かった。
 平子のトイレを待っている間にも、一緒にお茶しないかと、二人組に言われた。断ると、電話番号が書かれたメモを押し付けられた。
 プレーヤーを買いに電気屋に行った時も、お店の女性スタッフから、また電話番号が書かれたメモを渡された。
「何逆ナンされてんねん」
スタッフが去っていくのを見ながら、平子が真に苦々しく言った。
「逆ナン?」
「女の子から誘われる事や!俺なんか、100年こっちにおったけど、1回も無かったぞ!!コラァ!!」
「八つ当たりしないでください」
胸ぐらを掴んできた平子の手を振り払いながら、呆れたように真が言った。
 
 最後に平子のお勧めだという喫茶店でコーヒーを飲んでいる時、あっ、と平子が何かを思い出した。
「お前の義垓な、脱いでも暫く男のままやぞ」
「はああ?!!」
「写真集の為に、技局に頼んだんや」
「いつ戻るんですか?」
「それは知らん」
「おい」
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