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平子編

二人のその後 7

 真が目を覚ますと、目の前に眠っている平子がいた。部屋は薄暗い。
 ベッドの横にある電子時計を見ると、4時32分と出ている。一瞬思考が停止してから、真は慌てて飛び起きた。
 あの後力尽きて、朝まで寝てしまったらしい。流石に平子の家から出勤する訳にはいかず、真は慌てて散らかったままの服を集めだした。
「………ん、んん………おはようさん…………」
真が着替えていたら、平子がモゾモゾと動いて、目を覚ました。
 服を着ようとしている真を寝ぼけ眼で見ると、手を引っ張ってベッドに戻そうとしてきた。
「家に帰らないと」
ベッドに手をついて平子を見下ろしながら、焦り気味に真が言った。
「もう少し、ええやん………」
平子は真を羽交い締めにすると、ベッドに組敷いた。よく見たら平子も服を着ていない。
「一回だけ」
「えー………仕事前だし……」
「あんな激しくせんわ」
真の答えを聞く前に平子がキスしてきた。受け入れ具合で許可が出たと分かると、平子の手が真の体をまさぐった。
「………ヒゲ生えてる………」
「当たり前やろ、男なんやから」


 結局朝の一回戦を終えてから、真は家に帰って行った。急いで出たせいで、風呂セットを置いてきてしまった。また今日取りに行かないと、と思いながら家路につき、シャワーを浴びてから出勤した。平子の家の匂いが着いていないか心配だった。
 早起きした為、隊舎に一番乗りだった。十一番隊時代は毎日一番乗りだったが、五番隊になってからは下の者が気を使うから、と言われ、なるべく遅く来るようにしていた。
 執務室で一人、仕事の割り振りをしていると、ドアが開いた。まだ出勤時間には大分早いはずだ。
「やっぱおるし」
「おはようございます。平子隊長」
平子もあれから眠れなかったのか、早く出勤してきた。ヒゲは綺麗に剃られている。真は仕事スイッチをオンにして、他人行儀に振る舞った。平子は二人きりを良い事に、プライベートと変わらない態度だ。
「久しぶりですねえ〜真さ〜ん」
「そうですねー」
ニヤニヤしながら席につく平子を尻目に、真は給湯室に入っていき、二人分の茶を淹れ始めた。
 平子は昨日と今日の事を思い出してニヤニヤしていた。これからは我慢しなくていいと思うと、気が楽だ。
 昨日の真、エロかったなあー……。
「てか、まだ就業時間前やし、机に座らんくてもええやんな」
今気づいたと言わんばかりに平子は椅子から立ち上がり、ソファに行くとゴロンと寝転んだ。
「まだ饅頭なかったかあ?」
ソファに寝転びながら平子が給湯室に向かって声をかけると、ちょうど真が茶を運んできた。
「あれは今日の分だから、今食べるとおやつが無くなりますよ」
机に湯呑を置きながら、真が冷淡に言い放った。
「ええー。腹減ったー。何か作ってや」
「私が料理できないの知ってるでしょう。というか、食材も無いですよ。そもそも朝ご飯食べてないんですか?」
「食うてへん」
「まあ私もなんですけど」
「何やそれ、何か食いに行こ」
二人は茶を数口飲んでから、食べ物を買いに執務室を出発した。

 精霊艇には、チラホラと死神達の姿が見え始めていた。それに合わせて、朝ご飯を提供する店も暖簾を出している。
「あー…コーヒー飲みたいなあ」
道を歩いていると、平子がポツリと言った。真もコーヒーが好きな為、平子の意見には賛成だった。
「でも、こっちには無いでしょ」
「最近できたん知らんのんか?」
「ええ!」
驚き目を輝かせる真を見て、平子は得意げに鼻を鳴らした。
「トレンドのチェックは出来る男のマナーやからな」
「分かったんで早く行きましょう」
「オイこら」


 「やっぱり豆と道具一式買おうかなぁ」
 テラス席でパンとコーヒーを並べながら、真が呟いた。
「ドリップは不器用さんにはムズイで。コーヒーマシンにしい。今蒸らしまでできるやつあるし」
「そうなんですか。今度電気屋行こうかな」
「ついてったろか?」
「心強いです」
そんな会話をしていると、奥の方から平子にチクチク視線が刺さった。どうやら真は気づいていないようだ。平子はコーヒーを啜りながら、視線の元の霊圧を探った。
 うわ。昨日の女子やん………。
 平子に視線を投げているのは、昨日居酒屋で平子のファンだと言った女と、その取り巻きだった。平子が彼女はいないと言ったのに、女とモーニングに来ているのが気に入らないらしい。
「なあ、真。今日の仕事は、なんやったっけ」
平子はやや大きめの声で真に話を振った。デニッシュにかぶりついていた真は、コーヒーで口の中のものを流し込み、軽く口を拭いた。
「会計報告のチェックと、予算分配会議の為の資料作り、午後には合同演習の打ち合わせで朽木隊長がいらっしゃいます」
「予算会議…もうそんな時期か」
「変な隊服に予算使ったのバレてますからね。その分減らされないようキチンと作ってくださいよ」
「クールビズやっちゅうねん。…データはどんだけあんねん」
「実際に着た女性と、他の隊の女性からアンケート取ってまとめてあります。あと、袴とスカートの熱の抜け具合の違いもデータにまとめてあります。後は隊長がご自身の意見を書いてくださればそれで」
「もう終わったも同然やん」
「隊長の意見無き提案が通される訳無いじゃないですか」
「分かっとるわそんくらい」
二人は仕事の話をしながら、パンを食べ、コーヒーを飲んだ。傍から見れば、仕事の話ついでにここに寄ったとも見えなくも無い。
「お前の頑張りに応じて、ここは奢ったるわ。アンケートご苦労さん」
「いえ、仕事ですので」
「しっかし、ようこんな店知っとったなあ」
平子の言葉に、真の動きが止まった。
 ここは、平子隊長が連れてきたんだぞ?
 不思議に思って平子を見ると、平子の目だけが動き、店の奥の女子集団を指した。彼女らが不穏な霊圧をこっちに送っているのに、真もようやく気づいた。
 何か感づいた真は、コーヒーを一口飲んだ。
「……一回来てみたくて」
「ふーん、今度デートにでも使うんか?」
「はあ?」
これは本心から出た声だった。
 平子はニヤニヤしながら伝票を取り、レジに向かっていった。

 店を出て遠くまで来たとき、真はようやくアレはなんだったのか平子に聞けた。
「何か……俺のファンらしいんやけど、ちょっと面倒くさい臭いがするわ。気いつけや、真。嫉妬の対象にされたら面倒くさいぞ」
ゆっくりできなかったのも合わさって、平子は不機嫌そうに真に告げた。
 ようするに、平子はあの会話で、真には別の男がいて、平子と真はただの仕事繋がりだと彼女らに思わせたかったようだ。
「……平子隊長のファン………かあ」
「なんや、ヤキモチか?」
「世間は広いですね」
「オイこら」
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