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平子編

二人のその後1

 「いいよねえ、平子隊長は」
 定例隊主会の解散後、一緒に立ち話をしていた京楽総隊長が藪から棒にそう言った。一緒にいたローズと勇音は、平子と共に京楽を見据えた。
「何がですか?」
平子が聞き返すと、京楽は両手をパーにして胸の前にあげた。
「今、両手に花でしょ」
ああ、と平子は返事ともつかない声を出した。京楽はそのまま話を続けた。
「副隊長も、三席も女の子なのって、平子隊長の所だけじゃない?」
「確かにそうですね。雛森副隊長は可愛らしくて、霧島三席は綺麗なんて、平子隊長狙って配置したんですか?」
勇音がからかい半分で、クスクス笑いながら平子に話を振った。
「別にそんなやあらへんよ。実力順にしたらそうなっただけや。まあ、オイシイと言えばオイシイけども」
平子は強く否定するでも肯定するでもない返答をして、なんとなくその場を流した。
「ここだけの話さあ、役得で良い事したりとか、どうなのよ?」
京楽が身を前に倒し、口元に手をやって、コソッと平子に聞いた。ローズも勇音も、流石に苦笑いをしている。平子も苦笑いをして、チラリと左斜め後ろに視線を送った。
「無理やって。桃に手ぇだしたら、保護者がうるさいし、ましてや真なんか何かしようもんなら殺されてまうわ」
平子の斜め後ろでは、射場と話している日番谷が鋭い視線を平子に向けていた。どうやら京楽の話し声が聞こえていたらしく、射場も訝しげにこっちをみていた。
「平子隊長…今の言葉に、嘘偽りはございやせんね……?」
ドスの効いた声で、射場が平子にすごみ、平子は顔を引つらせ、おん、と呟いた。
 射場が真の保護者的存在なのは、真が五番隊に来たときに知った。
 真の身を気遣い、平子を前にして、真をよろしくお願いしますと何度も頭を下げた射場の姿は、今でも記憶に鮮明に残っている。
 そんな射場を前にして、平子の良心がズキズキと痛んだ。平静を装う平子に、ローズと日番谷が意味深な視線を投げかける。
 平子と真は、現在進行形で付き合っている。だが、その事はお互いの親友である乱菊、ローズ、拳西、そして偶然知った雛森、日番谷の5人しか知らない。


 「射場隊長が知ったらどうなるだろうねえ……」
それぞれの隊舎への帰り道に、ローズが平子をからかった。平子は猫背で、手をポッケに突っ込み、眉間にシワをよせた。
「あの人、リアルに、娘はやらん、とか言いそうやで、絶対知られたくないわ。面倒くさい」
「あー。言いそう…」
「ほな、また夜な。いつもん所で」
平子はローズと別れ、五番隊舎に戻っていった。
 五番隊の執務室では、副隊長である雛森が一人で仕事をしていた。平子が帰って来たのを見ると、可愛らしい笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい平子隊長。隊主会お疲れ様でした」
「おん。留守番ありがとさん」
平子が自分の席に着くのと入れ替わりに雛森は立ち上がり、給湯室に入っていった。
 雛森が茶を淹れている音がして、平子は椅子の背にもたれながら、後ろにある窓に目をやった。
 執務室から、五番隊の訓練場が見える。そこでは、若手や見習い死神達が集まり、訓練を受けていた。指導官は、真だ。
 十一番隊時代は、数人の部下の為だけに使われていた教育の才能が、今は五番隊の百数名の為に使われている。他の隊の事はあまり分からないが、五番隊の若手は成長が早いように感じるのは、やはり指導者の違いだろう。
 そうなると、やはり御艇全体の事を考えて、いつか真を手放さねばならない日が来るのだろう。真は、一つの隊に居続けるより、自分の後進を各隊で育てるべきだ。
 隊長としては、それが一番良いとは分かっている。だが、一人の男としては、真を手元に置きたいと思ってしまうのだ。
 平子がボンヤリと訓練場を見ていると、一人の人物が訓練場に向かって歩いて行くのが見えた。
 また来おった。
 死覇装の上に左右非対称のマントを着た、五番隊では無い男。平子が今一番警戒している、綾瀬川弓親、その人だった。
 同じ三席やからかなんか知らんが、こじつけもここまで来ると見苦しいわ。スッパリ諦めろや。ボケェ。
 真はしっかり平子が好きだと弓親に告げたのだが、弓親はどういう訳か、頻繁に真に会いに来るようになった。流石に二人で出掛けたりなんかはしていないようだが、周りは真と弓親の関係を疑い始めている。だから真を手元に置いておきたいのだ。
 弓親だけじゃない。真はモテる。本人は自覚していないだろうが、一見近寄り難そうに見えても、優しく聞き上手な真は、男女問わず人気が高い。真が浮気なんて器用な事はできないと分かっていても、平子の不安は払拭しきれずにいる。いっその事、付き合っている事を公にしてやろうかと、何度も考えてはいたが、やはり、お互いの立場上それは出来ないのだった。
「あら、また来てますね。綾瀬川さん」
いつの間にか平子の横に来ていた雛森が、額に手を当てて、遠くを見る仕草をしながら言った。片方の手には、湯呑の乗ったお盆を持っている。
 弓親は真に近寄り、何か話しかけているようだった。真も無下にできず、話に応じてしまっている。
「真さんも大変そう。更木隊長に注意してもらわないといけませんね」
皆の気が散っちゃう、と雛森はボヤキ、平子に湯呑を差し出した。平子は礼を言いながら湯呑を受け取ると、また視線を外に向けた。
「更木がそないな事するかいな。斑目に言うた方が早いわ」
そう言っていると、また一人が訓練場に現れ、弓親と真に近づいていったと思ったら、弓親にゲンコツを食らわせ、そのまま彼を引きずるようにして去っていった。
「………呼ばんでも来てくれたようやな……」
弓親を叱ってくれたのは、十一番隊副隊長の斑目一角だった。
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