二番隊編
霧島真と二番隊 6
真に変装した男は、乱菊と連れ立って二番隊舎に到着した。門の前には既に砕蜂と夜一が待っていた。今日は二人とも普段着だった。
「遅い!夜一様を待たせるとは何事か!」
到着した直後に砕蜂に叱られ、偽物は肩を強張らせた。
なんだよ〜、砕蜂隊長、霧島にも厳しいじゃねえかよ……。怖え〜…。
「す、すみません……。そこで、松本副隊長…乱菊に会って、同行してもいいですか?」
「いいですよね!?賑やかな方が、真のお父さんも喜びますし!」
乱菊が偽物の腕に抱きつき、砕蜂と夜一に笑いかけた。夜一が了承し、砕蜂も渋々認めて、場は和やかな雰囲気になったが、偽物は焦っていた。中身は男だ。乱菊に抱きつかれて平静でいられる訳がない。
あ、当たってる………!!!!!柔らかい……!!!!!
鼻の下が伸びそうになるのを必死で堪え、とりあえず出発した。
一方、偽物が砕蜂と合流したのを見届けた大前田は、部下の男と共に、本物の真を急いで大前田の屋敷に運んでいた。だがその途中で会いたくない人物と出会ってしまった。
「げ!!綾瀬川!!!」
以前の様子からして、弓親が真に気があると確信した大前田は、弓親が真の霊圧に気がつくんじゃないかと肝を冷やした。暗部で使っている霊圧を通しにくい布に真を包んでいるとはいえ、惚れている女の霊圧には敏感かもしれない。しかも十一番隊の筋肉バカ集団の中でも、弓親は別格だ。
「……なに?僕がいるのがそんなに気に食わないわけ?」
弓親は髪を耳にかけながら、冷淡に言った。
「テメエが前に、俺様を殺意が籠もった目で睨んできたからよ……テメエとは関わりたくねえんだよ。じゃあな」
大前田は早口で言い訳めいた事を言い、弓親の脇をすり抜けようとした。
「何で真の霊圧が付いてるんだい……?」
ちょうど横に来たとき、弓親の低い声が大前田と部下の男を刺した。二人の心臓がバクバクと高鳴り、背中に冷たい汗がつたった。
「僕以外の男が、真と仲良くなるなんて許せないんだけど?」
あ、コイツ、ただ嫉妬してるだけで、気づいて る訳では無さそうだ…。
大前田は胸を撫でおろし、緩みそうになる顔を引き締めて弓親に向き直った。
「さっき向こうでぶつかったんだよ。砕蜂隊長と出かけるらしくて着飾ってたぜ」
弓親の眉がピクリと上がり、首を傾けて大前田を睨んだ。
「真に怪我させて無いだろうね」
「ぶつかったくらいで怪我するかよ。それよりいいのかよ。砕蜂隊長、霧島を二番隊に引き抜く気だぜ」
「何だって?」
「確か、戌吊に向かうって言ってたな。止めるなら今だぞ」
弓親は疑う目で大前田を見たあと、走っていった。その様子を、大前田はニヤニヤしながら見ていた。
「いいんですか?綾瀬川さんを向かわせて。偽物がバレるんじゃ……」
「いいんだよ。砕蜂隊長に霧島が男にうつつを抜かしてる所を見せりゃ、勧誘する気も失せるだろ」
大前田はそう言って、ズンズン進んでいった。部下の男は大前田の軽薄さに呆れ、早めに手を引こうと決意した。
偽物を含めた一行は、墓参りに行く前に花屋に寄っていた。
「ゴロ先生は何の花が好きかの」
店内を埋める色とりどりの花を眺めながら、夜一が偽物に聞いた。もちろん偽物は満吾郎の好きだった花なぞ全く知らない。
「え〜っと………夜一様が選ばれた花なら、何でも嬉しいと思います………」
さもそれらしい事を言うと、どうやら正解だったらしく、夜一の顔がほころんだ。砕蜂は花に埋もれる夜一を見てため息を漏らしている。
それぞれが思い思いの花を設えてもらい、一行は改めて墓に向かった。
「父が指南をしていた時の話を聞いてもいいですか?」
自分に話を振られないように、偽物は夜一に話を振った。
「うむ。ゴロ先生はの、指南役と言っても、道場で教える事は殆ど無かった。精霊艇中を駆け回って鬼ごとをしたり、流魂街で木登りや川遊びをしたり、実に楽しい稽古じゃった」
夜一は昔を懐かしむように目を細め、口元に笑みを浮かべた。
「お主も知っとると思うが、ゴロ先生の指導力は一流。遊びの中で、実戦に則した訓練ができた。それでいて傲らず、謙虚で、気さくなゴロ先生は、誰にでも好かれた。なあ、砕蜂」
「…はい。しかし、四楓院家の次期当主を流魂街に連れ出すのは……」
「堅いやつじゃのー。ゴロ先生は分かってやっておったからいいんじゃ。あの日々は決して忘れられぬ。ゴロ先生との思い出じゃ」
「そうなんですね……」
偽物の心の中に、段々と罪悪感が芽生え始めた。
今から向かう場所は、昨日のうちにあつらえた、ただの大きめな石を置いただけの場所だ。夜一や砕蜂が語る人格者が眠る場所では無い。故人を偲ぶ気持ちを玩び、保身の為に人を欺く事が本当に許されるのだろうか……。しかし真実を告げれば、博打と借金が隊長にバレてしまう………。
偽物が俯いて険しい顔をしていると、乱菊が覗き込んできた。
「どうしたのよ、真。難しい顔して。お父さん思い出して、悲しくなっちゃった?」
乱菊は元気づけようとするように、優しい笑顔を偽物に向けた。
「あんたがお父さんの事を話すとき、凄く嬉しそうだもんね。いろんな事知ったら、会いたくなるわよね」
「そうじゃ真、わが屋敷にゴロ先生の写真があったはずじゃ。帰りによっていけ」
そこで偽物が耐えられなくなり、その場にしゃがみこんで両手を地面につけた。3人は驚いて偽物を凝視した。
「すみません!!!俺、霧島さんじゃ無いんです!!!墓の場所も知らないんです!!!!」
そう叫んで、偽物は義骸から抜け出し、本当の姿を3人に見せた。
真に変装した男は、乱菊と連れ立って二番隊舎に到着した。門の前には既に砕蜂と夜一が待っていた。今日は二人とも普段着だった。
「遅い!夜一様を待たせるとは何事か!」
到着した直後に砕蜂に叱られ、偽物は肩を強張らせた。
なんだよ〜、砕蜂隊長、霧島にも厳しいじゃねえかよ……。怖え〜…。
「す、すみません……。そこで、松本副隊長…乱菊に会って、同行してもいいですか?」
「いいですよね!?賑やかな方が、真のお父さんも喜びますし!」
乱菊が偽物の腕に抱きつき、砕蜂と夜一に笑いかけた。夜一が了承し、砕蜂も渋々認めて、場は和やかな雰囲気になったが、偽物は焦っていた。中身は男だ。乱菊に抱きつかれて平静でいられる訳がない。
あ、当たってる………!!!!!柔らかい……!!!!!
鼻の下が伸びそうになるのを必死で堪え、とりあえず出発した。
一方、偽物が砕蜂と合流したのを見届けた大前田は、部下の男と共に、本物の真を急いで大前田の屋敷に運んでいた。だがその途中で会いたくない人物と出会ってしまった。
「げ!!綾瀬川!!!」
以前の様子からして、弓親が真に気があると確信した大前田は、弓親が真の霊圧に気がつくんじゃないかと肝を冷やした。暗部で使っている霊圧を通しにくい布に真を包んでいるとはいえ、惚れている女の霊圧には敏感かもしれない。しかも十一番隊の筋肉バカ集団の中でも、弓親は別格だ。
「……なに?僕がいるのがそんなに気に食わないわけ?」
弓親は髪を耳にかけながら、冷淡に言った。
「テメエが前に、俺様を殺意が籠もった目で睨んできたからよ……テメエとは関わりたくねえんだよ。じゃあな」
大前田は早口で言い訳めいた事を言い、弓親の脇をすり抜けようとした。
「何で真の霊圧が付いてるんだい……?」
ちょうど横に来たとき、弓親の低い声が大前田と部下の男を刺した。二人の心臓がバクバクと高鳴り、背中に冷たい汗がつたった。
「僕以外の男が、真と仲良くなるなんて許せないんだけど?」
あ、コイツ、ただ嫉妬してるだけで、気づいて る訳では無さそうだ…。
大前田は胸を撫でおろし、緩みそうになる顔を引き締めて弓親に向き直った。
「さっき向こうでぶつかったんだよ。砕蜂隊長と出かけるらしくて着飾ってたぜ」
弓親の眉がピクリと上がり、首を傾けて大前田を睨んだ。
「真に怪我させて無いだろうね」
「ぶつかったくらいで怪我するかよ。それよりいいのかよ。砕蜂隊長、霧島を二番隊に引き抜く気だぜ」
「何だって?」
「確か、戌吊に向かうって言ってたな。止めるなら今だぞ」
弓親は疑う目で大前田を見たあと、走っていった。その様子を、大前田はニヤニヤしながら見ていた。
「いいんですか?綾瀬川さんを向かわせて。偽物がバレるんじゃ……」
「いいんだよ。砕蜂隊長に霧島が男にうつつを抜かしてる所を見せりゃ、勧誘する気も失せるだろ」
大前田はそう言って、ズンズン進んでいった。部下の男は大前田の軽薄さに呆れ、早めに手を引こうと決意した。
偽物を含めた一行は、墓参りに行く前に花屋に寄っていた。
「ゴロ先生は何の花が好きかの」
店内を埋める色とりどりの花を眺めながら、夜一が偽物に聞いた。もちろん偽物は満吾郎の好きだった花なぞ全く知らない。
「え〜っと………夜一様が選ばれた花なら、何でも嬉しいと思います………」
さもそれらしい事を言うと、どうやら正解だったらしく、夜一の顔がほころんだ。砕蜂は花に埋もれる夜一を見てため息を漏らしている。
それぞれが思い思いの花を設えてもらい、一行は改めて墓に向かった。
「父が指南をしていた時の話を聞いてもいいですか?」
自分に話を振られないように、偽物は夜一に話を振った。
「うむ。ゴロ先生はの、指南役と言っても、道場で教える事は殆ど無かった。精霊艇中を駆け回って鬼ごとをしたり、流魂街で木登りや川遊びをしたり、実に楽しい稽古じゃった」
夜一は昔を懐かしむように目を細め、口元に笑みを浮かべた。
「お主も知っとると思うが、ゴロ先生の指導力は一流。遊びの中で、実戦に則した訓練ができた。それでいて傲らず、謙虚で、気さくなゴロ先生は、誰にでも好かれた。なあ、砕蜂」
「…はい。しかし、四楓院家の次期当主を流魂街に連れ出すのは……」
「堅いやつじゃのー。ゴロ先生は分かってやっておったからいいんじゃ。あの日々は決して忘れられぬ。ゴロ先生との思い出じゃ」
「そうなんですね……」
偽物の心の中に、段々と罪悪感が芽生え始めた。
今から向かう場所は、昨日のうちにあつらえた、ただの大きめな石を置いただけの場所だ。夜一や砕蜂が語る人格者が眠る場所では無い。故人を偲ぶ気持ちを玩び、保身の為に人を欺く事が本当に許されるのだろうか……。しかし真実を告げれば、博打と借金が隊長にバレてしまう………。
偽物が俯いて険しい顔をしていると、乱菊が覗き込んできた。
「どうしたのよ、真。難しい顔して。お父さん思い出して、悲しくなっちゃった?」
乱菊は元気づけようとするように、優しい笑顔を偽物に向けた。
「あんたがお父さんの事を話すとき、凄く嬉しそうだもんね。いろんな事知ったら、会いたくなるわよね」
「そうじゃ真、わが屋敷にゴロ先生の写真があったはずじゃ。帰りによっていけ」
そこで偽物が耐えられなくなり、その場にしゃがみこんで両手を地面につけた。3人は驚いて偽物を凝視した。
「すみません!!!俺、霧島さんじゃ無いんです!!!墓の場所も知らないんです!!!!」
そう叫んで、偽物は義骸から抜け出し、本当の姿を3人に見せた。