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弓親過去編

 それから数十年後。

 更木との死闘の末、一角が死神になると言い出したから、僕もついて行く事にした。
 一角は昔の様に、来るなとは言わなかった。一角の友として、認められたのが誇らしかった。

 霊術院は楽しかった。刀での戦いしか知らなかったから、白打や鬼道は興味深かった。
 三年生の時、同期の飲み会があって、僕らも
参加した。その時に、やたら僕に関心を持っている女がいた。名前は知らないけど、貴族出身だと言っていた。
 今までの経験で、その女が僕に抱かれたがっているのが分かった。酒の後押しがあって、僕もその気になったから、飲み会を二人で抜けて、女の部屋で事に及んだ。
 情事が終わったら、僕はさっさと着替えて一角と合流したかった。布団から抜け出そうとすると、女が腕にしがみついてきた。
 順番が逆になっちゃったけど……
と始まり、僕の事が好きだとか何とかほざいた。 その女は別に綺麗では無かったし、強くもない。僕はその女には、寸分の気持ちも無かったし、ただ欲を吐き出したかっただけだ。今知り合ったばかりのような男に股を開く女を、何故僕が好きになると思ったのか、理解出来なかった。
 僕は女にそのまま伝えて、泣きじゃくる彼女を尻目にさっさと部屋を退散した。

 次の日、クラスの女達の僕への態度が一変した。女達は、昨日のブスを囲んで僕を睨んできた。
 あの女、自分から誘っておきながら、思い通りにならないから、僕を悪役にしたんだな。
 日頃から僕を良く思っていない貴族の男達も、女達に便乗して僕を蔑んだ。
「お前、何かしたのか?」
一角が心配してきたから、昨日の事を全て話した。
「弓親の言い方は悪かったと思うけどよ、周りの奴らはうっとーしーよな」
「まったくその通りだよ」
それ以来、同期の女の中で僕の評価は最悪だった。別に、ほっとけばいいのに、わざわざ悪口を言ってくる女には閉口した。そしてそういう女程、上流貴族や特進クラスの奴には媚びて、抱いてくださいとでも言いたげな態度を取る。醜態以外何物でも無いと思った。
 
 死神になっても、そういう女は目についた。御艇を、お見合い会場だと思っているのではないかと感じる程だった。
 松本乱菊という女は特に目立った。胸をさらけ出して、誰彼かまわず飲みに誘う。羞恥心の欠片も感じられなかった。
 皆が、可愛らしい、清楚だと言う雛森さんでさえ、藍染隊長にはデレデレして、女を出していた。
 いつの間に僕は、こんなにも女が嫌いになったのか、自分でも不思議だった。だからといって、男色の趣味もないし、溜まった性欲は、虚の討伐で発散するしか無かった。
 そう思うと、十一番隊に来れて本当に良かったと思う。強ければ尊敬され、称賛される。しかも、女はほとんど居ない。いても、大勢の平隊員に埋もれて会うことは全く無かった。
 一角や更木隊長の元で、僕は居場所を得て、安寧な暮らしを手に入れた。だから、女なんて必要無いと思っていた。
 あの時までは。

 真を初めて見たとき、衝撃だった。
 大の大人二人を守りながら、ボロボロになって一人で戦う女がいると思わなかったから。
 綺麗なはずの顔が鼻血で汚れようが、目が腫れようが関係なく、真は虚に向かって行った。
 そこから真に興味を持って、四席になるよう策略した。
 真は誰にでも落ち着いた態度で接して、女特有の感情的な話し方はしないし、媚びたりもしなかった。それ以前に、格好からして頑なに自分の中の女を封印していた。肌の露出はほとんど無いし、髪もひっつめていた。それでも僕からしたら、十分美しく見えた。というより、そんな真に惹かれた。
 一角は真が舐められないようにと、厳しく接していた。よく真を殴っていたから、真はさぞ一角を恨んでいるだろうと思っていた。
 だが、何時まで経っても、真が一角を悪く言っていると言う噂は聞かなかった。
 真は何もかもが、僕の知っている女と違っていた。
 興味が恋に変わるのに、時間はかからなかった。

 真に惹かれてきたら、周りの女にそこまで目くじらを立てなくなった。と、言うよりどうでもよくなった。
 真が、僕の常識を全て壊してくれた。
 真と結ばれないなら、誰もいらないと思ったんだ。
 
 どれだけ振られても、僕はずっと君を求め続けるよ。
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