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二番隊編

霧島真と二番隊 5

 それから暗部二人は、陰に陽に、時には一般隊士に紛れて真を観察した。
 砕蜂が危惧する、他人に危害を加えたり、上の者に媚びるような部分が無いか、注意深く見ていた。
 そんな事は露ほども知らない真は、普段通りの生活を送っていた。
 

 朝は5時半に起床し、軽く朝食を取ると、ランニングを1時間程しながら出勤。
 隊首室と執務室を掃き掃除し、隊長机の筆記用具の補充。給湯室の茶葉を補充すると、湯を沸かしながら、隊のポストに届いた書類をチェック、分別すると、必要なモノをコピーする。
 湯が沸くと自分用に茶を淹れ、仕事の分配をして、各卓上に書類を置く。
 出勤時間前に自分の仕事を片付けていると、チラホラと隊士達が出勤し始める。下の者達にも自分から挨拶をする。
 五席、三席、副隊長、隊長には、出勤直後に茶を淹れて出す。隊長には、丁寧に書類の意味と仕事の手順を説明する。
 隊長のお茶タイムが終わり、周りが仕事に取り掛かり始めると、場所を移動して部下に稽古をつける。午前終了。
 部下達と昼食を取ったあと一人で隊舎に戻り、隊長の仕事の進捗状況をチェックする。隊長は昼寝。他の席官達の書類を添削すると、道場に移動し、席官達と手合わせ。虚出現の報が入ると、道場から飛び出し、隊長、副隊長、三席、五席と合流し、虚討伐。始界無しで巨大虚を倒す。
 精霊艇に戻るとまた部下の稽古をつけた後、部下達と隊舎に戻り、隊舎の清掃をする。
 部下の帰宅を見届けたあと、一人で道場に戻り、素振りや居合抜きの稽古をする。
 午後7時帰宅。シャワーを浴びたあと、簡単に夕飯を取り、読書。1週間で3冊読破する。筋力トレーニングや、指導方法についての内容。就寝前にストレッチをして午後10時半就寝。
「………ほぼこの生活スタイルです」
観察最終日、暗部の二人は砕蜂に見たままの事を報告した。
「……部下への指導は、どんな調子だ。声は荒げたか?」
「怒りを顔にだした事は一度もありませんでした。更木隊長や草鹿副隊長がどれだけさぼっても、一切………」
「模範の様な姿勢でした」
「仕事が異様に早かったです」
「誰にでも丁寧でした」
「恐らく副隊長クラスの戦力です」
口々に真を褒める部下を見て、砕蜂は腕を組んで椅子にもたれた。
「………大前田より有能そうだな」
「隊長!!??」
砕蜂の横で聞いていた大前田が、ショックを受けたように慌てた。
「更木の下に置いておくには勿体ないな」
「あー、確かにそう思いました」
暗部の一人が納得する。捨てられると思っている大前田から、滝の様な汗が流れた。
「夜一様に近づけても障りないのも分かった。ご苦労。下がっていいぞ」
暗部の二人を下がらせると、砕蜂はまた何かを考えるように、難しい顔で椅子に体を沈めた。
「あ、あの〜、隊長〜……俺、首にはなりませんよね……?」
大前田が不安げにビクビクしながら、砕蜂に自分の進退を尋ねると、砕蜂はニヤリと笑って大前田を見た。
「霧島によるな」
「そっ……そんな!!!」


 その翌日、真は砕蜂に言われた通り貰い受けた着物を着て、髪結で髪をまとめてもらい二番隊舎に向かっていた。
 命日ではない時期に満吾郎の墓を訪れるのは死神になってから初めてなうえ、父の知り合いと一緒という事に、真はやや浮かれていた。
 その為に、真の後ろから忍び寄る気配に気づけなかった。
「落とし物ですよ」
声をかけられた真が振り返った瞬間、頬に冷たいものが当たった。
 真の記憶は、そこで途切れた。
 意識を失った真を、二人の人物が急いで物陰に隠し、布を被せた。
「急げ急げ。見られたら終わりだぞ」
そう指示しているのは、二番隊副隊長の大前田だった。指示に従っている男達は、あまり気乗りしていないように、モタモタしていた。
「見つかっても、俺達のせいにしないでくださいよ」
「うっせーな。俺様の立場がコイツのせいで危ういんだよ。俺様が副隊長じゃ無くなったら、誰がオメェらの賭博を黙っててやれるんだ?金まで俺様から借りてるくせによお」
大前田の脅しに、男達は口を噤み、渋々真を袋に詰めた。
「よし、ほんじゃあ、お前この義骸に入れ」
大前田が取り出したのは、真が砕蜂から貰った着物と同じものを着させた真の義骸だった。
 大前田に言われた男がイヤイヤながら義骸に入り、真の姿に成り代わった。
「いいか。指示した通り霧島が情けなくて副隊長向きじゃねえって隊長に思わせればいいからな。上手く……いや、下手にやれよ」
大前田は真の義骸に親指を立てて見せ、背中を叩いて路地に送り出した。
 偽物の真は数歩よろけたあと、背筋を伸ばし、女っぽい(と自分で思う)仕草で歩き出した。
 目の前に二番隊舎が見えた時、色っぽい声に呼び止められた。
「あっれ〜?真〜?どーしたのよ珍しい!!着物なんか着ちゃって〜!?あんたそんなの持ってた?」
声の方を見ると、十番隊副隊長の松本乱菊が、みたらし団子片手にこちらに向かって来ていた。
 まさか四席が副隊長と親しかったとは思わなかった偽物は、目を泳がせながら返事をした。
「ま、松本副隊長!こんにちは〜……」
「なあに?もうそのフリはやめたじゃない。何時も通りにしよって言ったでしょ」
「い、何時も、通り………」
「どうしたの?あんたなんか変よ?」
不思議そうにジロジロと観察してくる乱菊に、偽物は冷や汗をかきながら、苦し紛れに二番隊舎を指さした。
「今から、流魂街の父の墓に、砕蜂隊長と夜一様と一緒に行くんだ。急がないと遅れ…ちゃ……」
偽物が乱菊に話していると、乱菊の顔がみるみるうちに険しくなった。
「……私といる時は、お洒落しないのに……砕蜂隊長達と出かけるときは、そうやって着飾るんだ………?ふうん……?」
ヤバい。何に怒っているのかが分からない………。
 偽物は必死に言葉を探した。
「こ、これ、ね!砕蜂隊長が、夜一様に会うなら、ちゃんとして来いって無理矢理……そう!無理矢理着せられたの!!だから、仕方なく………」
乱菊はしばらく黙っており、偽物の冷や汗はダラダラ流れたが、乱菊は直ぐに笑顔になった。
「そっかー!砕蜂隊長乱暴よねー!!じゃ、墓参りに私もついていこー!!真のお父さんのお墓、行ったこと無いし!!」
ついてくんのかよ!!!!
 偽物だけでなく、偽物をつけていた大前田も心の中で突っ込んだ。
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