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二番隊編

霧島真と二番隊 3

 弓親が一角と昼食を取った帰りに隊舎に向かっていると、むこうから砕蜂が着物を着た女を抱えて歩いて来るのが見えた。
「……む、貴様ら、ちょうどいい。貴様らのとこの者だ。今から救護に連れて行くから、一緒に来い」
突然言われた内容に二人がついていけず、何の事だろう、と砕蜂の腕の中の人物を見ると、苦しそうな顔で気を失っている真だった。
「真!?何でこんな……しかも服も着替えて!!」
真っ先に焦ったのは弓親で、砕蜂から真を受け取ろうと手を伸ばしたが、砕蜂が体をひねって弓親から真を遠ざけた。
「私が夜一様から救護に連れて行くよう仰せつかったのだ。だがその後の事までは言われていない。だからついて来いと言っている」
要領を得ない答えに弓親の眉間にシワが寄ったが、一角が弓親の前に出て砕蜂に向き合った。
「ついて行くのは構わないんで、何があったか聞いていいッスか」
「フンッ。まあいい、来い」
砕蜂の横暴さにいささか辟易しながらも、二人は砕蜂について救護に向かった。

 「急性アルコール中毒ですね…」
 目の前に寝かされた真を見ながら、勇音が残念そうに砕蜂に告げた。
「駄目ですよ砕蜂隊長〜、お酒が駄目な人は本当に駄目なんですから…。一つ間違えば命に関わりますよ」
勇音に咎められ、砕蜂は不本意そうに舌打ちをしたが、表情を見る限り反省はしているようだった。
「霧島は、死ぬのか…?」
腕組みをして顔をそむけながら、砕蜂がポツリと呟いた。
「胃洗浄をして、アルコールを分解する酵素を点滴すれば大丈夫ですが、もう無理矢理飲ませちゃ駄目ですよ」
「それは夜一様から預かった者だ、必ず治せ」
「それはもう…霧島さんは絶対治しますけど……」
勇音が言い終わらないうちに砕蜂は踵を返し、部屋から出ていってしまった。その後ろ姿を、弓親と一角は呆れた顔で見送った。
「自分で真をこんなふうにしておきながら、あの態度って、ありえる?」
「ま、あの人がへりくだって謝る姿も想像できねえけどな」
弓親と一角は砕蜂が出ていったのを確認してから、ひっそりと愚痴を言った。
「お二人共、ここはもう大丈夫ですよ」
勇音が困り笑顔でそう言ったが、弓親はその場から動こうとしなかった。
「いや、僕はついてるよ。側にいたいから」
弓親の言葉に勇音は二人の仲を想像して頬を染めたが、気づいた一角が口を挟んだ。
「何を想像してっか知らねえが、この二人は別になんの仲でもねえからな」
「え!あ、そうなんですか!?」
勇音は自分の早とちりに焦り、ワタワタしながら真の点滴に取り掛かった。一角は部屋から出る前に、弓親に釘を刺した。
「変なことすんなよ」
「する訳ないじゃないか。獣じゃないんだし」
余裕そうに笑う弓親を疑う目で見ながらも、残った仕事を片付ける為に一角は救護を後にした。
 残った弓親は真のいるベッドに近づき、テキパキと処置をする勇音の手元を観察した。
「この程度なら、もっと下の人でもいいんじゃないの?回道を使う訳でもないんだし」
弓親に話しかけられ、点滴を打ち終えた勇音はまた困り笑顔で振り向いた。
「そうなんですけどね、霧島さんの処置は争いの元なので……」
「みんな真と関わりたいんだ?」
なぜか弓親が優越感に浸るような笑みをこぼし、勇音は愛想笑いをした。
「うちの奴らを真が止めてくれるから、ちょっとした英雄になってる?」
勇音が愛想笑いで流そうとした事を弓親に言われ、勇音はやや驚いた顔をした後、不安げな顔で弓親を見た。
「えと…怒りませんか…?」
「ま、こんな所で騒ぐなんて美しく無い行為だからね、僕も良くは思っていないさ。ただ、止める労力が無駄だと思ってるだけで」
「ハハハ……そうですか」
勇音は弓親から目をはなし、真に視線を向けた。
「霧島さんは、凄いですよね…。あんな怖い人達に一人で向かっていって、怪我させずに止めてしまうんですから」
「うん、真は、礼儀を重んじるからね。絶対見逃さない。そして誰にも媚びないし、女を売りにしない。誰よりも気高い女性だろ」
弓親の声が急に雄けを帯び、勇音は驚いてまた弓親を見た。だが、弓親の目はまっすぐ真を見ていた。
「……えと、あの、綾瀬川五席は………その、霧島さんが………」
「好きだよ」
恥じらいも無く言い放った弓親に、勇音の方が赤面し、慌てて視線をそらした。
「そうなんですね!あ、だから、側に………!!」
勇音は早く二人きりにしてあげようと、急いで片付けを始めた。そんな勇音を見て、弓親は得意げな顔で勇音に近づき、腰を屈めて座っている勇音に目線を合わせた。
「だから、さ。真に、僕が心配して見守っていた事をそれとなく伝えてくれない?」
「ひっ!は、はい!!!」
弓親の怪しい笑みに震えて、勇音は急いで部屋から立ち去った。弓親は怪しい笑みのまま勇音を見送り、扉が閉まるのを確認した。
「……久しぶりに二人きりになったけど、これじゃあね………」
弓親はそう呟きながら、先まで勇音が座っていた椅子に腰掛け、真の寝顔をウットリと見つめた。
 髪を解かれ、死覇装ではない浅葱色の着物を着せられた真は、普段からは想像つかない程女性的で美しかった。
 破面との決戦前に真にせがんで口付けさせて貰ったのを思い出し、弓親の唇にその時の感触が蘇った。
 またしたい。
 その欲望は、部屋の静けさに後押しされるようにドンドン膨らんでいった。
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