二番隊編
霧島真と二番隊 1
ボロ布のような着物。朽ちかけた家屋ばかりの集落。獣のような大人達。
死んだ真が送られたのは、現世での生活からはかけ離れた、地獄のような場所だった。
霊力を持ってしまったが為に飢えで苦しみ、獣の様な男達に追われ恐怖に苦しむ真を救ったのは、熊の様な図体の、菩薩の様な男だった。
そこから約70年が経った。真は十一番隊第四席として死神の生活に身を置いていた。
毎日の日課で真が部下達に稽古をつけていると、後ろから視線を感じた。動きの途中でチラリと視線を向けると、褐色肌の女性が腕を組んで真達を眺めているのが見えた。
真は彼女が誰かすぐに思い出し、部下達を静止した。
「四楓院夜一様だ。皆、挨拶を」
「よいよい。気にするな」
真の言葉を夜一が遮ると、夜一は興味深げに真を見つめた。四大貴族である四楓院家の令嬢に見つめられ、気後れした真は申し訳なさそうに視線を外した。
「お主、変わった構えを取るが、それはどこで覚えた」
傲りなど無い気さくな声で夜一が真に話しかけ、真は外していた視線を夜一に戻した。
「構え…ですか?これは、流魂街の育ての父に習ったものです」
オズオズと、真は遠慮がちに答えた。夜一と真の会話を、部下達は緊張したように見守っている。
「ほう…。その男、名はなんという」
「父は、近衛満吾郎と申します」
「……満吾郎、か……」
「あの、父が、何か……」
不安げな真を知ってか知らずか、夜一は真に近寄り、そっと真のピアスにふれた。
「これは、満吾郎のものか?」
「……何故、これを………」
義理の父を知る人に初めて会った嬉しさと驚きで、真は言葉が詰まった。だが、目はしっかりと夜一を見つめ、夜一も真を捉えていた。真を見つめる夜一の目からは、哀しみなのか懐かしみなのかよく分からない感情が感じられた。
夜一は真から手を離したが、目はそらさなかった。
「お主の名は何という」
「…十一番隊第四席、霧島真です」
「……ふむ、そうか。真よ…」
「夜一様!!」
夜一が何か言いかけた所で、大きな声が夜一を呼んだ。全員が声の元を見ると、隊長羽織を着た女性が立っていた。
「なんじゃ砕蜂。こんな所まで来おって」
夜一は、いかにも面倒くさそうな目で砕蜂を見た。その目に砕蜂は一瞬たじろいだが、気を取り直してこちらに歩いてきた。それを見て、真は部下達に頭を下げさせ、自分も下げた。
「昼食を我が邸で、と約束していましたので、探しておりました。まさか、このような下賤な者共の所に……」
砕蜂は、真に夜一を取られたとでも言いたげな、苦々しい声で真達を刺した。後ろにいる部下達から緊張が伝わる。更木に慣れているとはいえ、砕蜂はまた違った威圧感があった。
「聞け。この四席じゃが、近衛満吾郎の義理の娘だそうじゃ。話がしたい。砕蜂、場所を見繕え」
「近衛…先生のですか?」
砕蜂は一瞬迷ったような顔をしたが、直ぐに伝令神機を取り出し、電話をかけた。
「……大前田か。今すぐ料亭を一軒貸しきれ。金はお前が払っておけ、いいな。5分後にまた連絡する。それまでにやっておけ」
砕蜂が伝令神機をしまうのを見ると、夜一が真の肩を叩き、親指で砕蜂についていくぞ、と合図した。
まだ稽古途中だった真は、迷って部下達に目線を移した。だが、部下達が手で仰ぐように、行ってください!と無言の訴えをしたため、渋々ついて行くことにした。
夜一と砕蜂が並んで歩き、真はその後を追った。おそらく二番隊舎に向かっているのだろう。
二人は何か話しているが、後ろにいる真には聞こえなかった。だが、所々で、先生、と聞こえた為、父の事を話しているのだろうと予想できた。
義父である近衛満吾郎とは、流魂街78地区戌吊で出会った。
遊郭育ちの真には過酷すぎる状況に手を差し伸べてくれた満吾郎は、真にとって初めての女を搾取しない男だった。
父は精霊艇を追い出されたと言うだけで、詳しい事は語らなかった。ただ一つ、武道を教えていたとだけ真に言ったのは覚えていたが、まさか四楓院家と繫がりがあったとは思わなかった。
二番隊舎に着くと、砕蜂が真に刀出せと言ってきた。真が腰から斬魄刀を抜いていると、直ぐに女性の暗部がやってきて、真から斬魄刀を受け取りどこかに連れて行こうとした。
「あ、あの…どこへ…」
「貴様のような下賤な者が、夜一様と同じ座敷に上がれるだけでも恐れ多い事だと分からんのか。まずその薄汚れた死覇装を替えて、それ相応の身なりにして来い。連れていけ」
砕蜂の指示で、真は別室に連れて行かれ、あれよあれよという間に身ぐるみを剥がされ、着物に着替えさせられた。流石暗部というべきか、真の体の傷を見ても、何も言わないどころか、眉一つ動かさなかった。
髪もきれいに纏められた真は、何か言う暇も無く、また砕蜂と夜一のいる所に戻された。二人は会った時と変わらない姿だった。真1人だけ着物になって、なんだかいたたまれない気持ちになった。
「ほう。なかなか様になっておるではないか」
夜一に褒められた時の、砕蜂の目が痛かった。
ボロ布のような着物。朽ちかけた家屋ばかりの集落。獣のような大人達。
死んだ真が送られたのは、現世での生活からはかけ離れた、地獄のような場所だった。
霊力を持ってしまったが為に飢えで苦しみ、獣の様な男達に追われ恐怖に苦しむ真を救ったのは、熊の様な図体の、菩薩の様な男だった。
そこから約70年が経った。真は十一番隊第四席として死神の生活に身を置いていた。
毎日の日課で真が部下達に稽古をつけていると、後ろから視線を感じた。動きの途中でチラリと視線を向けると、褐色肌の女性が腕を組んで真達を眺めているのが見えた。
真は彼女が誰かすぐに思い出し、部下達を静止した。
「四楓院夜一様だ。皆、挨拶を」
「よいよい。気にするな」
真の言葉を夜一が遮ると、夜一は興味深げに真を見つめた。四大貴族である四楓院家の令嬢に見つめられ、気後れした真は申し訳なさそうに視線を外した。
「お主、変わった構えを取るが、それはどこで覚えた」
傲りなど無い気さくな声で夜一が真に話しかけ、真は外していた視線を夜一に戻した。
「構え…ですか?これは、流魂街の育ての父に習ったものです」
オズオズと、真は遠慮がちに答えた。夜一と真の会話を、部下達は緊張したように見守っている。
「ほう…。その男、名はなんという」
「父は、近衛満吾郎と申します」
「……満吾郎、か……」
「あの、父が、何か……」
不安げな真を知ってか知らずか、夜一は真に近寄り、そっと真のピアスにふれた。
「これは、満吾郎のものか?」
「……何故、これを………」
義理の父を知る人に初めて会った嬉しさと驚きで、真は言葉が詰まった。だが、目はしっかりと夜一を見つめ、夜一も真を捉えていた。真を見つめる夜一の目からは、哀しみなのか懐かしみなのかよく分からない感情が感じられた。
夜一は真から手を離したが、目はそらさなかった。
「お主の名は何という」
「…十一番隊第四席、霧島真です」
「……ふむ、そうか。真よ…」
「夜一様!!」
夜一が何か言いかけた所で、大きな声が夜一を呼んだ。全員が声の元を見ると、隊長羽織を着た女性が立っていた。
「なんじゃ砕蜂。こんな所まで来おって」
夜一は、いかにも面倒くさそうな目で砕蜂を見た。その目に砕蜂は一瞬たじろいだが、気を取り直してこちらに歩いてきた。それを見て、真は部下達に頭を下げさせ、自分も下げた。
「昼食を我が邸で、と約束していましたので、探しておりました。まさか、このような下賤な者共の所に……」
砕蜂は、真に夜一を取られたとでも言いたげな、苦々しい声で真達を刺した。後ろにいる部下達から緊張が伝わる。更木に慣れているとはいえ、砕蜂はまた違った威圧感があった。
「聞け。この四席じゃが、近衛満吾郎の義理の娘だそうじゃ。話がしたい。砕蜂、場所を見繕え」
「近衛…先生のですか?」
砕蜂は一瞬迷ったような顔をしたが、直ぐに伝令神機を取り出し、電話をかけた。
「……大前田か。今すぐ料亭を一軒貸しきれ。金はお前が払っておけ、いいな。5分後にまた連絡する。それまでにやっておけ」
砕蜂が伝令神機をしまうのを見ると、夜一が真の肩を叩き、親指で砕蜂についていくぞ、と合図した。
まだ稽古途中だった真は、迷って部下達に目線を移した。だが、部下達が手で仰ぐように、行ってください!と無言の訴えをしたため、渋々ついて行くことにした。
夜一と砕蜂が並んで歩き、真はその後を追った。おそらく二番隊舎に向かっているのだろう。
二人は何か話しているが、後ろにいる真には聞こえなかった。だが、所々で、先生、と聞こえた為、父の事を話しているのだろうと予想できた。
義父である近衛満吾郎とは、流魂街78地区戌吊で出会った。
遊郭育ちの真には過酷すぎる状況に手を差し伸べてくれた満吾郎は、真にとって初めての女を搾取しない男だった。
父は精霊艇を追い出されたと言うだけで、詳しい事は語らなかった。ただ一つ、武道を教えていたとだけ真に言ったのは覚えていたが、まさか四楓院家と繫がりがあったとは思わなかった。
二番隊舎に着くと、砕蜂が真に刀出せと言ってきた。真が腰から斬魄刀を抜いていると、直ぐに女性の暗部がやってきて、真から斬魄刀を受け取りどこかに連れて行こうとした。
「あ、あの…どこへ…」
「貴様のような下賤な者が、夜一様と同じ座敷に上がれるだけでも恐れ多い事だと分からんのか。まずその薄汚れた死覇装を替えて、それ相応の身なりにして来い。連れていけ」
砕蜂の指示で、真は別室に連れて行かれ、あれよあれよという間に身ぐるみを剥がされ、着物に着替えさせられた。流石暗部というべきか、真の体の傷を見ても、何も言わないどころか、眉一つ動かさなかった。
髪もきれいに纏められた真は、何か言う暇も無く、また砕蜂と夜一のいる所に戻された。二人は会った時と変わらない姿だった。真1人だけ着物になって、なんだかいたたまれない気持ちになった。
「ほう。なかなか様になっておるではないか」
夜一に褒められた時の、砕蜂の目が痛かった。